ロブスター

劇場公開日:

ロブスター

解説

アカデミー外国語映画賞ノミネート作「籠の中の乙女」で注目を集めたギリシャのヨルゴス・ランティモス監督が、コリン・ファレル、レイチェル・ワイズら豪華キャストを迎えて手がけた、自身初の英語作品。2015年・第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。独身者は身柄を確保されてホテルに送り込まれ、そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられて森に放たれるという近未来。独り身のデビッドもホテルへと送られるが、そこで狂気の日常を目の当たりにし、ほどなくして独り者たちが隠れ住む森へと逃げ出す。デビッドはそこで恋に落ちるが、それは独り者たちのルールに違反する行為だった。

2015年製作/118分/R15+/アイルランド・イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ合作
原題:The Lobster
配給:ファインフィルムズ
劇場公開日:2016年3月5日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第74回 ゴールデングローブ賞(2017年)

ノミネート

最優秀主演男優賞(コメディ/ミュージカル) コリン・ファレル

第68回 カンヌ国際映画祭(2015年)

受賞

コンペティション部門
審査員賞 ヨルゴス・ランティモス

出品

コンペティション部門
出品作品 ヨルゴス・ランティモス
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(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

映画レビュー

4.5超クソまじめなSF 恋愛と条件について人々に再考する機会を提示している

2024年4月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

冒頭 車を運転する女性は、いったい誰なのだろうか?
ナレーターの女性だと思っていたが、それは主人公が森で愛した女性だということがわかる。何故か冒頭の女性はそれ以降登場しない。
雨の中、女性が車を走らせて降りた場所にいたロバ。彼女は沈黙の中でそのロバを射殺。ただその映像が流れ、衝撃的なこととこの作品の謎が一気に膨張する。
SFならではの変わったルールに支配されている世界。それが求めているのが何であれ、この女性の心中が示すように、「この世界」の中では決して折り合いはつけられないというのを強烈に提示している。
面白いのは、SFにありがちなスターウォーズのオープニング字幕のように、最初に条件が示されて始まるのではなく、徐々に何が求められている世界なのかがわかる点だ。
独身者を排斥する社会。どんな理由であれ独身になればホテルに連行され、新しいパートナーを作る必要があるが、そこにはルールが設定されている。
まず二人とも同じ特徴があることが必要で、考え方もシンクロしなければならず、パートナーに対する嘘は罪で、罰が課せられる。 この世界における愛の条件だ。
期限は45日間 それを超えると好きな動物に転身させられる。
主人公の男は情のない女と結ばれるものの、彼女のあまりにも情け容赦ない行為にこれ以上嘘はつけなかった。
主人公はホテルを脱走して独身者が集う集団へ入ったものの、そこでのルールは真逆で、決してカップルになってはいけない。つまり「人を愛さない」こと。
主人公はそこである女性を好きになってしまう。その女性がこの作品のナレーションをしているのだ。
そもそも主人公は妻に捨てられた。他に愛した男ができたのだ。
最初に妻の視点で主人公との会話が始まり、続いてナレーションがその後の主人公の動きを追跡している。
この主人公二人の特徴は「近視」そして相思相愛だとお互い認めることで、一般社会ではカップルとして成立するが、独身者の集団ではそれは禁止行為だった。
やがて二人の関係がばれ、彼女は騙されて病院へ行き失明させられる。
それでもどうにかしてそこを脱出して町へ行った二人。
主人公は自分も失明すればカップルとして成立すると決心し、カフェのトイレで自分の目をナイフで突こうとする。彼女は一人カフェのソファに佇んでいる。
作品はこれで終了する。
さて、
解釈は複数あるだろうが、まずは主人公はトイレから逃げたとする説。自分の目など突けないからだ。
そこで冒頭のシーンに戻る。
彼女は何らかの事情でロバを射殺した。
彼女はそのロバの特徴を知った上で射殺した。ロバはパートナーだった人物、あるいはパートナーの浮気相手かもしれない。彼女がホテルに連行される直前の行為だったと思われる。
多種多様性がある人間性をある一定の型枠で納めることなどできない。昨今のジェンダーもそうだが、「○○ねばならない」だから「それに反することはダメだ」というものの考え方の上に、このおかしなルールが存在するSF世界があるように思う。
だから主人公の男も「ルール」は絶対だと考えている。彼女に近づく男が「近視」かどうか疑う。
このルールなるものが人間性を型枠に閉じ込めているのは歴然であるにもかかわらず、それに抵抗しようとしない構図は、現代社会のことであろうか?
次に、主人公は目を突くことなく彼女を連れて外へと出たという説。
理由は、彼女がナレーターをしているからだ。彼女そここの世界の案内人であり、記録者だ。そして、やがてこの世界の変なルールが撤廃されたのだ。こちらの方が希望が持てる。
しかし、
ホテルのメイドと独身者のリーダーはなぜ内通しているのだろうか?
二人の会話だけフランス語だったことから、出身が同じだからか? 少なくともこの二人はこの世界のルールに抵抗している。
やがて独身者の集団はホテルを襲う。目的はみな嘘をついてカップルを演じていることを認めさせること。
そしてまんまと支配人カップルの虚偽をあらわにしたが、鼻血癖のカップルは、共通の特徴の必要性を無視した。「嘘の鼻血でもお前にとやかく言われる筋合いはない」このように思っていた彼らのことが、主人公のルールは絶対という思い込みを変えたのかもしれない。
人は誰もが本当と嘘の中で生き、それでも二人の間では「折り合い」をつけているのだ。
結婚がいい例だろう。恋愛と結婚は違うというが、結局はお互いに「折り合い」をつけることで成立している。
この作品は恐ろしくまじめにこの「恋愛」について人々に考察させ、ここにルールを適用した世界がいかにディストピアかを提示しているように感じた。

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R41

3.5愛を証明させられる愛なき世界

2024年4月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

難しい

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共感した! 1件)
sankou

4.0背中の手の届かない所に薬を塗ってくれる人が近くにいると有り難い

2024年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

怖い

「哀れなるものたち」→「女王陛下のお気に入り」、そして事前情報ゼロで「ロブスター」に来ました。とても面白くのめりこんで見ました。素晴らしい俳優陣の揃い踏みにも大満足でした。

前半は、う~むと思いつつ絶対ないとは言えない話だと思った。少子化だとか結婚したがらない若者たちとか親だか国だか警察だかが大きなお世話で何かしようとする。すればするほど反旗を翻す「独身王国」地下=森組織ができる。恋愛禁止、独身こそが素晴らしいとまた訳のわからないルールを作ってリーダーだか指導者だかグルが偉そうに見張る。そしてそこで恋が生まれる。ジョージ・オーウェル『1984』と同じ世界だ。

後半は、私にとってはコリン・ファレルとレイチェル・ワイズの美しいラブストーリーだった。最初は言葉を介さずに思いを伝えあう(合図が多くて複雑過ぎるので自分だったらこんがらがって絶対覚えられない!相手と喧嘩しそうだ!と笑いたかった。でも笑うの我慢した)。次は見えないながら愛を確かめあう。春琴抄、小栗判官と照手姫の話のようでもありオイディプース神話でもあった。

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共感した! 10件)
talisman

4.0生きてゆく上での元気をもらうことができた。

2024年3月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なぜ、このような一見、不条理な映画を観て元気をもらうことができたのだろう。根底には孤独な魂がある。
ヨルゴス・ランティモス監督の出身地であるギリシャは、確かに空も海も青く澄み渡っているが、乾燥していて土地も狭く、経済的には恵まれない人も多い。何より、ギリシャ悲劇を背景として、不条理劇を多く産んできた。このギリシャ・ローマを源流とするヨーロッパ社会は、個人こそが生存の単位であり、それぞれが孤独な魂を養いかねていることが出発点。
この映画では、少子高齢化が進み、伴侶と家庭を持ち子孫を残すことが義務付けられている近未来が背景(第一の社会)。妻に逃げられたデビッド(コリン・ファレル)は、近未来社会のルールにより郊外のホテル(第二の社会)に送られ、45日以内に新たなパートナーを探すことになる。様々な制約がある中で努力するものの、なかなか上手くゆかない。期限を過ぎたら、自分で指定できるとはいえ希望する動物に姿を変えられてしまう。そこで、独身者たちが隠れ住む森の中へと逃げ込む。そこには強い女性のリーダー(レア・セドゥ)がおり、恋愛禁止のルールが聳えていた(第3の社会)。信じがたいことには、ホテルの住民は週に一回、森の独身者たちを麻酔銃で襲撃することができ、首尾良く捕らえることができたら、一人につき1日ホテルでの滞在日数が増える。そんな中で、デビッドは森の中で理想の女性(近眼の女:レイチェル・ワイズ)に巡り合う。
この映画のどんなところに惹かれたのだろう。近眼の女は、デビッドと恋に落ちた罰として失明を余儀なくされるが、あの谷崎潤一郎の名作を思わせるシークエンスが出てくる。この映画で、最も清冽な場面。
もう一つは、何と言っても使われている音楽。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番第4楽章の断続音は、不条理な場面が出てくるたびに繰り返され、心に突き刺さる。あのドアを強烈に叩くような三つの音の繰り返しが、孤独な心を呼び覚まし、困難と立ち向かえと励ましてくれたのだろう。一方、ところどころで聞かれるギリシャの素朴な歌は心を癒してくれる。特に久しぶりに聞いた、1957年ソフィア・ローレンの出た「島の女」で使われた歌。懐かしい。このような歌がでてくるところは、最近復活して、フィンランドのロックンロールや日本の歌を聞かせてくれるアキ・カウリスマキの映画を思わせる。
この映画を観て、不条理が孤独な魂に力をあたえてくれることが初めてわかって、我ながら驚いた。

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