ひとよのレビュー・感想・評価
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俺がいたんじゃお嫁に行けぬわかっちゃいるんだ妹よ♪
男はつらいよシリーズ、
昭和のお茶の間の人気番組、
時間ですよ→寺内貫太郎一家
→ムー→ふぞろいの林檎たち。
そんなファミリー向けコメディ作品の、
匂いは1ミリも予想していなかった。
しかし、1ミリだけあった。
その1ミリこそが、類似作品を大差で引き離す、大きな1ミリであり、
リアルで滑稽でバカでカッコ悪い人間たちの空間をくっきりと縁取りする消臭リキー〜になっていた。
長女のセリフ・・の後の捨てゼリフ、
従業員のひとこと、態度、
このわからないくらいのコメディ感。
このタクシー会社は、
帝釈天参道の、とらやか⁈
もちろん、その空気の一枚内側には、
父殺しという重過ぎる圧力がかかっているので、笑えないし、ニヤリともさせてくれない。
デラべっぴんの母娘
と
デラおとこまえの長男次男、
デラカッコ悪いカッコイイ従業員、
♪奮闘努力の甲斐も無く
今日も涙の今日も涙の日(ひとよ)が落ちる
日(ひとよ)が落ちる♪
スジ、ヌケ、ドウサ、
全てが素晴らしい、
デラ傑作でした。
絶望×絶望=希望
田中裕子を観に行って松岡茉優に魅入られて帰る。
田中裕子は素晴らしい。こういう枯れた役は間違いがないのが観る前からわかっていたが、やはり見届けようと観にいって、松岡茉優に魅入られてしまう。
万引き家族以来吹っ切れたように女優力がグングン上がっていてこれからもっと凄い女優になること間違いなし。
この救いようのない重い空気の世界の救いになってるのが松岡茉優の演じる娘と、タクシー会社の社長。
この二人がいなかったら陰鬱すぎて観ていてしんどいと思う。
兄弟は三者三様の立場であるのも面白い。二人兄弟でも四人兄弟でもダメだ。
三人というのが絶妙。
佐々木蔵之介演じるタクシードライバーの絶望が本題に絡み合って、絶望×絶望=希望
となるところで、親子の絆というのは底知れないなと思う。
マイナスとマイナスを掛け合わせてプラスになってしまう感覚。
親を恨んだり、境遇を恨んだりして生きても何も生まれない。
辛い過去は忘れられはしないけど、恨みは水に流すことは出来るんだな…
そういう希望を感じさせる良作。
生きるって辛いことだらけだけど、ひとよの夢があるから生きていけるのかも。
佐々木蔵之介のタクシードライバーにもいつか、希望が訪れて欲しい。
この映画の主題は何だろうか?
DVから子供たちを守るために母親がDV親父をひき殺して
服役。15年後に家族のもとに帰ってくるが、子供たちは殺人犯
の子供として差別された過去を引きずって母親を歓迎できない。
いろいろな出来事があって最終的には家族が元に戻ってハッピー
エンド。極めて当たり前のフィクションだし、何を訴えたいのか
全く分からない。名優勢ぞろいなので客は入るだろうが、こんな映画
を作っていると日本の映画界は衰退するんじゃないか?
15年後も家族は繋がっていた
冒頭から殺人シーンで一気に作品に引き込まれた。
白石監督ならではの暴力シーン、かなりの迫力。この父親から解放されるにはどうするのが1番の方法だったのか。母親にもDVはしていたのか。そして、殺人に善はあるものなのか、殺人を犯した者が罪を償ったからといって、家族であれど素直に受け入れられるものなのか、様々な疑問が浮かんだ。
登場人物の各々に葛藤があるが、みな家族という括りの中で、離婚問題に揺れる長男、介護問題だったり、自分と同じ道を歩み始めてしまった息子など、日常よくありうる問題を抱えている。それぞれが自分の人生が上手くいかない理由を母の犯した事件のせいにしたいのだ。本当は自分自身の問題だとわかっていながら…
母であるこはるだって、私は間違ってないと自分に言い聞かせるように言ってたけど、相当な覚悟と葛藤、苦しみに苛まれたはずだ。作品を鑑賞中、お母さん自殺しないでほしいと願いながら観ていた。
最終的に母の思いは真っ直ぐにではないが、ちゃんと子供達の心に届いていた。雄二が15年経っても、母から貰ったICレコーダーを使い続けていること、母を売った記事のデータを削除したこと。なかなか本心を言わない雄二が言った、父の命と引き換えにもらった自由を絶対に無駄にしたくなかったって台詞に、全てが詰まっていた気がする。
家族って難しい。1番近いけど、本音も言い合えなかったり、大切なことを言葉で伝えられなくて、理解してもらえなかったりする。恨んだり、憎んだりもあるかもしれないが、家族という血の繋がりだけは、どうやっても切ることはできないのだ。
白石監督の実力
凄い演出がないようで本当に細かく人間の普通をえがく。凄い監督です。登場人物がそこに生きてるかのような・・役者を動かすのではなくて人を動かしているそんな演出家。監督作品何作も見てますが、それは全てに感じこと。ひとよ 傑作です。
なんだこれは
169本目。
急ぎがないから先週に引き続き平日休み。
来月は嫌でも忙しいから、これ位じゃないと割りに合わない。
で馬鹿にしてるじゃなく賛辞。
きっかけが何であれ、人って過去を追っかけてんじゃないかと。
港で言った母親の言葉がね、そうそうなんだよな。
いい作品。
「ひと」が魅力。
劇団KAKUTAがすきなので、楽しみに見に行きました!出てくる人がみんな、ダメなんだけど人間くさくて愛おしい。とにかく役者さんたちが上手で、過去のこと、こうなった経緯とかは詳しくは語られないけど、その過ごしてきた年月がにじみ出るような言動、佇まい。
誰が主人公か分かりにくい映画
ラブな映画や好きな俳優重視で映画を選んでおりますが、この度はそのどちらにも該当しない映画で、予告から観てみたいと思い観ました。
毒親で苦しんでいる子供は悲しいかな今の世の中多いのではないかと思います。子供は親を選べないのに、最終的には被害を被った子供の方が気持ち的な折り合いを付けることでしか幸せになる道がないという、現実を突きつけている映画でした。
田中裕子が演じる母親は、謝らないことをモットーに15年も服役していたのに飄々としており、子供のことを自分なりに大切にしているようですが異色の毒親ぶりが上手く演じられていました。
一方の佐々木蔵之介が演じる父親は、過去から足を洗って全うに生きたいと願いながらも、自分が積み重ねてきた過去の悪行がそれを許さないという、現実を受け入れられない人の弱さを上手く演じられていたなと感じました。
どちらの親も、実際ここまでのことはないにしても、ありがちな親なのかなと感じました。迫力も申し分ありませんでしたが、家族の映画は狭い世界なので、満足感は若干低めでした。
そんなことを考えながら最後に振り返ると、佐藤健が主人公なのに存在感が小さいという、不思議な映画でした。
俳優の演技と、台詞のやり取りが良い出来だ。反面、
だけど、設定が多少荒い。
そこを飲み込んで仕舞えば良い映画だし、損は無い。
自分はひとりっ子で、兄弟がいない。
だから、悪くは言ってても、信頼関係がある感じが
うらやましい。
あと、母親が自分が犯罪者となり、家を出てから、
安心して後を任せられる、おじさん?の存在がいたのが
素晴らしい。
タクシー会社の親戚仲間達は、母親を暖かく迎えるが、
実の子供達は、複雑な感じ。
まあ、どっちも歓迎したら、映画にならないかな。
もう、考えちゃうと、この映画の良さがなくなるから、やめる。
部分部分の、演技と台詞のやり取りの映画。
松岡、一番むずかしい役だけど、素晴らしい。
スリッパ投げは、アドリブらしいよ。
田中も、本心よくわからない感じだけど、子供愛してる感じ、良かった。本当は、いろいろ考えて悲しく不安なのに、
ひょうひょうとしてる感じ、泣ける。
自分が迷った態度、悲しい態度取ると、回りが気にするから、そうならないように、なんでもない態度でいる。
鈍感力というのか、
自分の母親も、そうだったから、余計染みる。
その当時は、わからないんだけど、後から考えると、
そうとしか思えないんです。
「自分が迷えば子供達が迷子になるでしょ!」
って台詞で、この演技なんだって確信した。
最後、漁師になりたかった社長を引き継いだおじさんに、
だれかが、「もう漁師になっていいよ!」って言って欲しかったなー。
「本当か!でも今更なれるか!」でもいいけど。
少し古い日本映画の感じだけど、こんな映画もたまには良い。
自分にとっては特別な夜でも、他人にとってはなんでもない夜なんですよ。
役者陣の好演は光るが、どうもどこかですでに演じた役の焼き直しのような印象。案の定、イメージの範疇の演技と物語の進行。だから素直に映画に入っていけない。
設定や演出も雑。
・至近距離でおまけにバックでは、当たり所が悪くて下半身不随くらいのはなろうが、死には至らない。何度も乗り上げれば別だが。
・嫌がらせが何度もあるのに、いやなくてもこのご時世、タクシー会社の敷地に防犯カメラがない不思議。
・長男は、大洗の実家に住んでいて、石岡の会社まで通っているようだが、けっこう遠い(40km以上)。
・長男嫁は、母親が殺人を犯したことを知らなかったようだが、車で行き来できる距離でありながら、何の噂話も耳にしなかったというのは、相当な世間知らずか鈍感。ありえない。
・会社にとって、殺人後のゴタゴタは端折っていたとしても、「蔵之介」の後に何事もなかったかのように営業はできないんじゃないか?あれは事故ではすむわけはなく、事件である。
・いろいろな「家族の形」を問いたいのであろうが、蔵之介親子も、筒井真理子家族も、どうも中途半端感が否めず、むしろ本筋にまとわりつく雑音にしか感じなかった。
で、誰なんだい?嫌がらせの犯人は。張り紙も次男の仕業なのかい?その次男は、騒動の種を造ったことに贖罪の意識は希薄なのかい?
涙なんてひとつも誘われず。
ひとよ=一夜、なのだという。この映画に「夜」らしきシーンはあったか?殺人事件の夜のことを言っているのか?
ああそうそう、あれから若い三兄弟はどこに行ったのだ?現場の保全どころか、証拠物に乗り込んで。
3兄弟の演技はヒリヒリした緊張感が溢れていた
原作の舞台は未鑑賞。
子どもたちに暴力をふるう父を殺した母。刑期を終え、しばらく身を隠し約束通り15年ぶりに帰宅した母を3人兄弟がどう受け入れるのかを描いた物語。
3人兄弟を演じる役者(鈴木亮平、佐藤健、松岡茉優)がいい。あの夜を経験し、苦労を乗り越えてきたからこその関係性が伝わってきた。すごい緊張感だ。こんな感じですれてる松岡茉優もいいな。
帰宅した母を受け入れたい気持ちと許せない気持ちと恨む気持ちが混じり合う中で家族関係を取り戻そうとする姿がとても感動的。
ただ、若干疑問に残るところがあったことも事実。1つだけ記しておく。それは父の暴力は母に向かなかったのか、母は子どもたちが暴力をふるわれているときにどうしていたのか?何回か出てきた次男の回想シーンには母が登場しなかった(と思う)。母は運転手として稼がないといけないから暴力の対象にはなっていなかったのかもしれない。ただ、黙認していた可能性はある。自分の夫を殺したこと、そして15年も不在にしたことは母の贖罪だったのかもしれない。なんてことを考えた。
もしそうだとしても、この映画の評価を下げることにはならない。いい映画だった。
実力派俳優陣・女優陣集結
複雑な設定ではありますがテーマは家族の絆で、とても見応えのある映画でした。
重ためのこういったドラマはメインどころの演技が下手だと台無しになってしまうところですが、実力派の俳優陣・女優陣が集結していて演技に引き込まれました(千鳥の大悟さん登場のところだけは、どうもお笑いのイメージが強くて苦笑してしまいましたが)。
ほとんどのメインどころの登場人物が一度はキレる演技を披露しますがそれぞれ素晴らしかったです。
鈴木亮平さんのキレ方は迫力ありましたし、佐藤健さんのキレ方はカッコよかったですし、松岡茉優さんのキレ方はリアリティがありましたし、佐々木蔵之介さんのキレ方は不気味でしたし、筒井真理子さんのベッドでの最中にキレるシーンはセクシーでした。
疑似家族ではない本当の家族
地味そうな映画だったので見る気が起こらなかったが、レビュー評価が高いので見てみることに。本作は是枝監督の他人ばかりの疑似家族を描いた「万引き家族」の対局を行く作品で、切り離すことができない家族の絆を描いており、家族の起こした問題は家族が引き受けざるを得ないという、別れたら所詮他人、後は国に任せたという「万引き家族」ような安易な問題意識ではなくもっと深い本当の家族を描いており、こちらの方が明らかに出来がいい、フランスで褒められたと言って偉そうにするなと言いたくなる。ここにも松岡茉優が出ていることが面白い。
不器用ですれ違う家族の物語だったのか。 田中裕子さん演じるお母さん...
不器用ですれ違う家族の物語だったのか。
田中裕子さん演じるお母さんの人間模様は
分かるようで分からないような
これからも考えてしまいそうな。
あの決断も
15年という年月も
優しいようで厳しいお母さんだったのか。
最初は父は殺しては
子供のその後は考えず
いきなり帰ってきて投げやりかと思ったが
殺した後のセリフに全てがこめられていたのか…。
子供は世間を気にし、自分が分からなくなる
親は自分を信じて生きている
ぶつかり合っていても
何故か失速感を感じてしまう。
ただ多くを語らず
子供達の前では前だけ向いていた母親は
子供達を前に導いたのかもしれない。
白石監督の作品は面白かったためしがないので最初は観る気はなかったん...
白石監督の作品は面白かったためしがないので最初は観る気はなかったんだけど6ポイント無料観賞クーポンがたまったのでついでに 見たんだけどやっぱり駄目だった
この監督の作品は二度と見ない
別の映画にすりゃよかったな
女性陣がいい。茨城の地方都市のあの雰囲気はある意味で諦念の空気。そ...
女性陣がいい。茨城の地方都市のあの雰囲気はある意味で諦念の空気。そこに生きるキャラクターはけっこう型にハマっている感じもあるが、それも含めての家族、それもまた諦念感。
拙い手で互いに紡ぐ、脆くて強い家族の絆
良い映画でした。凄く良い映画でした。
個人的な境遇と色々重なった所もあり、
物凄く心を動かされた作品となりました。
色々書きたいがあまり長くなってもアレなので
今回はちょっとだけ飛ばして書こうと思う。
白石和彌監督作で、予告の内容も観る限りでは
相当に重く容赦無い映画になるのかと身構えて
いたのだけどーーいや実際に扱ってるテーマは
確かに重いのだけど、現実味はあっても優しく
どこか爽やかで軽やかな作品となっていた。
キャストのユーモラスな演技や散りばめられた
笑いのお陰で優しい気持ちで観ることが出来るし、
同時にそれらの笑いが主人公達に作用している点
も巧い(「復刻してんじゃねえよ」(爆))。
...
まずはキャストについて。
極力手短に書くが、主演から脇役に
至るまで、出演陣がみんな良いです。
とにもかくにも、田中裕子がカッコイイ!
映画を締める名女優さんとは思っていたが
まさかこんなカッコイイ女優さんだったとは。
後半でも書くのでここではそれくらいで。
佐藤健はやっぱただのイケメンじゃない。
鮫のようなザリザリとした雰囲気。動かない
表情の下で抑え込んでいる怒りが確かに伝わる。
そして、その表情がわずかに緩む時の優しさも。
松岡茉優は可愛い上に毎作品で巧いが、
本作の彼女は、マジで巧い。台詞回しの自然さ
生っぽさはこちらが銀幕の存在を忘れるほど。
やさぐれ娘が純な幼子に戻る添い寝の場面に泣いた。
鈴木亮平は一番大柄なのに、伏し目がちで弱気な
役柄をしっかりものにしているからか、三兄妹で
一番小さく見えるこの不思議。どもりの演技で
逆に伝わる彼の不器用な懸命さが良かった。
息子との夜を想い慟哭する堂下さん、
いつもオドオドしてる社長の優しい一喝、
自分を頼ってと憤る大樹の妻の芯の強さ、
サバサバ美人の牛久ちゃんとビールぐい呑み歌川君、
回想シーンの子役に至るまで、みんな巧いし魅力的。
...
時に重く、時に軽やかに描かれるのは、
家族という絆に付きまとう悲しさと優しさ。
まずは子ども達の視点から。
「あんた達は自由に生きていける。何にだってなれる」
自分の可能性を、将来の夢を信じてくれたのに。
自分の身を犠牲にしてでも幸せになるチャンスを
与えてくれたのに。けっきょく思い描いたような
大人になることは叶わず、抱いた夢は夢のまま、
歳と後悔ばかりを重ねてしまっている今の自分。
あなたのせいで俺の夢は叶わなかった。
あなたのせいで俺の人生はずっと暗い夜のままだ。
そう言って全てを親のせいにしたい気持ちはある。
だけど――
本当の本当は、それら全てが親のせいでは
無い事も分かってる。才能も努力も足りなかった
自分の選択の結果でもあるんだ、と悔やんでいる。
兄に「母が憎いだろう」と言い寄ったり、
母の罪をまた掘り返すような真似をしたり、
母を憎むような言動ばかりの雄二だが、
いつもいまも手にしているレコーダは、
夢を信じてくれた母のプレゼントだった。
愛情と憎しみは必ずしもプラスマイナス
ではなくて、それらは同居し得るもの。
雄二や大樹が母へ向けた憎しみは、
「俺を信じて必死に守ってくれたのに、
あの日あなたが信じてくれたような
立派な大人になれずにごめんなさい」
という大きな後悔の裏返しでもある訳で。
それは親への大きな愛情の裏返しでもある訳で。
...
母のこはるも、自分がそんな立派な人間
だとは思っていない。「そんなんじゃない」
という言葉は、あの行為が子どもの為だけ
でなく、私的な激情に駆られた結果だと
思ってもいるからだろう。だけど、
自分の行為を間違いだったと言ってしまえば、
子ども達に送った/子ども達が信じたあの
言葉までもが嘘になってしまう。それまでの
15年を本当に否定することになってしまう。
だから彼女は、例え恨みをぶつけられる
頑なな的になろうと「間違ってない」と
言い続けなければいけなかったんだと思う。
子どもにとって親は自分を守り
生きる道を教えてくれる神様で、
親は自分が完璧でない立派でもないと
思っていても、大切な子どもが子ども
自身を信じてすがる為の”柱”として、
必死に“親”であり続けなければいけない。
子どもも成長するにつれ、昔は神様のように
思えた親が、完璧な人間では無いと気付くもの。
そして、自分と同じように完璧とは程遠い
その人が、自分を守る為に、必死に”親”
で居続けてくれていたのかと気付くもの。
私情もあったかもしれないけれど、
子ども達のために自らの手を汚し、
子ども達の大きな夢を信じてくれた
あの夜の母は疑いようもなくかっこいい。
律儀に15年後の夜に帰ってきて、
何があってもブレない道であり
続けようとする母はかっこいい。
エロ本を万引きして「それでも母さんは
立派か!?」と開き直る母は、笑えるけど、
15年前のままずっとずっとかっこいい。
(エロ本読んで笑ってるおばさん史上
最高にかっこいい背中だと思う)
...
終盤、
息子と分かち合えたと思っていた夜を回想し、
「あの夜は何だったんだ!」と慟哭する堂下
に向けて、こはるは優しく静かに語る。
「ただの夜ですよ。自分にとっては特別な夜
だけど、他の人にとってはなんでもない
ただの夜なんですよ。でも自分にとって
特別なら、それで良いじゃないですか。」
血の繋がった親と子くらいに強く確実な
“繋がり”というものも無い訳だけれど、
どれだけ強く繋がっていても、どれだけ
大切に想っていても、全く同じ人間では
ない訳で、完全に理解し合うことはかなわない。
「母さんは母さん、俺達は俺達」という
言葉の通り、家族というのは世界で最も
愛しく近しい他人なのかもしれない。
それはとてもとても寂しいけれど、
どこかでそう割り切らないと、愛情と憎しみ
の重さで自分も皆も壊れてしまう気がする。
母はあの狭い青空を眺めて何を想ったのだろう。
流れる雲に見とれていただけだろうか。
それとも、あの暗く長い夜から始めて
明けた空のように感じていたのだろうか。
心の底は分からないけど、その小さな背中
を見つめて、待ってあげることは出来る。
「家族の絆は泡沫(うたかた)の花飾り」
だなんて、とある歌の詞を思い出した。
強くて脆い絆を、付かず離れずの
柔らかな手先で紡いでいくのが、家族。
最後、すました顔の雄二がタクシーの
車窓越しに振り返る母と、兄と、姉の笑顔。
別れたばかりなのにもう懐かしいその笑顔。
...
物語上、あの父親をひたすら悪辣に描くしか
なかったのかという点や、テーマの現実味に
対して僅かに寓話的に感じてしまう部分は
あるが、正直些細な欠点だと思う。
今年一番心を動かされた作品かも。5.0判定で。
<2019.11.09鑑賞>
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.
余談:
「更に死ねッ」(水バッシャア)は今からでも今年
の流行語大賞になってほしい。むしろなれ。
恨み骨髄・オブ・ザ・イヤー。
人よ…なんて惨めで誇らしいんだ。
あゝ映画は本当に素晴らしい。
そう思える傑作に出会えた。間違いなく2019年の邦画No.1だろう。
『ひとよ』、『一夜』、『人よ』、『人世』、『日と夜』。
シンプルでありながら何重にも意味が折り重ねられこのタイトルのように、物語は細部に至るまで味わい深いディテールで満ち溢れている。
圧巻は本作の脚本と演出だろう。夫を殺し、子供達の前に戻った母親・こはる、だが家族だけでなくタクシー会社の面々ともどこかぎこちなく、ボタンが掛け違ったような居心地の悪さが冒頭から観るものの胸を詰まらせる。
人の醜さ、惨めさ、みっともなさ、みすぼらしさを描くながらも、それでも意地らしく生きる人々を映す白石監督の最高傑作だ!
次男・雄二を演じる佐藤健は食事の際の首の角度から、父の墓前での足癖の悪さから愛想のない敬語使いから、とにかくやさぐれきっている。
だが、クライマックスに語られる『母さんが親父を殺してまで作ってくれた自由なんだ…』という独白に心が震えた。
母さんのためにも夢を叶える、夢を叶えるために母さんを売る。自分は母さんを憎んでいたのか、感謝していたのか。
暴露記事まで書いたのに、何故自分は今母親を守ろうと車を走らせたのか…。
『どこからやり直せばいいか、教えろよ…』
この言葉は多かれ少なかれ兄と妹にも共通する言葉だろう。
兄の大樹は吃音という壁とともに、逃げ切れない過去を自分のうちに飲み込んでしまった。夢を断たれ、必死に築いた家庭も崩れかけていく。そして無情にも心を蝕んでいく『殺人者の孫』という言葉。
本来なら父亡き後、一家を率いる長とならなければならないはずの長男を、鈴木亮平が巨体を持て余す不器用で臆病な男として力演している。
彼が思わず振るった暴力は彼の心まで壊した。こはるとの言い合いのシーンは本作で最も涙が溢れた。
妹の園子も決して苦しみから逃れていない。母親と同じようにDV男と付き合ったしまうのもそうだが、彼女は決して最初から母親を歓迎してはいないのだ。
出所の日こそ迎えに行ったが、いざ15年後にこはるが現れると一歩も動けなくなっている。そして、こはるに甘えて一緒に寝るシーンも、まるで『自分が母親を信じたことは間違いではないんだ』と、必死に掴みとるように抱きつくのだ。
母親・こはるを演じた田中裕子の熱演はもはや言葉では表せない。戻った直後に(夫を轢き殺した場所で)車のバックの練習をしたり、子どもたちの現在を無神経に詮索したり、逆に従業員の弓からデリカシーのない一言を言われたり。健気で子ども思いの母親だが、一挙手一投足が間が悪く、事態を悪化させていく。それでも強かに自分の行いを誇りつつ、時折揺れるような表情を垣間見せている。
また、堂下と息子の件は疎遠になった息子と父親の距離感を、とても生々しく切り取っている。親だって人間だ、神様じゃない。それなのに少しでも過ちを犯せば、糾弾される恐ろしさに懊悩している。彼もまた家族と言う名の楔で、身を削ってきたのだろう。
長々と書いてきたが、一点の曇りなく家族に後ろめたさはないと言える人は本作を観なくてもいいかもしれない。
むしろ、しがらみがある人は必ず観るべきだ。
この映画は画面を超えてあなたの生を揺さぶる。
そして、自分と自分の家族ともう一度向き合う特別な“一夜”をもたらしてくれるだろう。
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