劇場公開日 2017年5月13日

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マンチェスター・バイ・ザ・シーのレビュー・感想・評価

全231件中、1~20件目を表示

5.0誰にも理解してもらわないでいいという覚悟。

2017年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

主人公のリーも、甥のパトリックも、いうなればとてつもない悲劇の当事者なのだが、他人の理解や共感を欲していない。わかるよ、辛かったね、なんて言葉をお互いに発することもない。そんな言葉が、自分たちの思いとは関係のないと本能的にわかっているかのごとく。

だから本作は、周囲の善意の人たちとの温度差の物語とも言える。みんなは悲劇に一方的に肩入れし、感傷の一部になりたいと望んでいる節さえある。意地悪な言い方をすれば、リーやパトリックに乗っかって悲劇がもたらすドラマを味わいたいのだ。

そしてその温度差や落差から生じるズレが、随所で笑いを呼び起こす。悲しいシチュエーションであっても可笑しさは伴うことができるし、その逆もまたしかり。悲劇と喜劇が相反するものではないと、凄まじい説得力で伝えてくれる傑作だと思う。

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村山章

5.0ゆっくりと哀しみを超え、心に灯火をもたらす傑作

2017年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

冒頭、仏頂面で口下手なケイシー・アフレックを目にした時、これまで幾つもの映画で見慣れてきた、まさしく「彼ならでは」の演技のように思えた。しかし時を重ねるごとに印象は変わっていく。特に中盤の決定的な場面を過ぎると、彼がこれまでと同じように喋り、同じように俯いているだけでもう、涙がこみ上げ胸が締め付けられてたまらなくなる。

本作は二つの言い知れぬ悲劇と、そこからの再生を描く物語。全編にわたって深い悲しみが横たわるが、と同時に、ところどころに密やかなユーモアを忍びこませ、そのトッピングが時に哀しみをより痛切なものとし、また時に咽び泣く魂を微かな光で包み込み優しく昇華させていく。このロナーガン監督によるため息がこぼれるほどのタッチが観る者を引きつけ、我々の目線を叔父と甥、二人の行き着く先の風景にまでじっと付き添わせる。これは哀しみをゆっくりと超えていく映画。そうやって心に灯火をもたらす秀作だ。

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牛津厚信

5.0見事な構成、ケイシーの繊細な演技

2017年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

リーが現在体験することと、過去に経験したこと=記憶を交互に描く構成が、驚くほど緻密であると同時に有機的だ。兄の訃報を受け帰郷するリー。提示される過去は、幸福な時期も確かにあったことをうかがわせる。一体どんな転機を経て、感情を殺し他人を拒絶して生きる現在に至ったのか。徐々に明かされる過程がスリリングであり、切なさを否応なくかき立てる。

この映画が改めて認識させるのは、「自我」が記憶の集積にほかならないこと。リーの人生をたどり疑似体験する行為は、観客自身の人生をアップデートするほどの力を秘めている。

結果論ではあるが、リー役がマット・デイモンからケイシー・アフレックに代わったのも成功要因だろう。デイモンの顔立ちや表情は善人、陽気、楽天的、武骨なキャラには向くが、リーの罪悪感、喪失、悔恨、諦念といった複雑な感情は、ケイシーの繊細な演技とニュートラルに整ったルックスでこそ効果的に表現できた。

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高森 郁哉

4.0止まった時間が動き出す瞬間

2017年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

過去に犯した罪の大きさ故に、その瞬間から時間も風景も感情も停止してしまったかのような男の状況を、監督は史上稀に見る大胆かつ巧みなカットバックと、同じ色彩を湛えたまま波に揺れる港町の情景を使って観客に伝えようとする。人はあまりに強い衝撃を受けると、そこから一歩も抜け出せないまま、ひたすらぼんやりと時を過ごすこともある。これほどリアルな時間の演出がかつてあっただろうかと思う。だからこそ、止まった時間が少し動く気配を見せる幕切れに感動と歓びが伴うのだ。何も起こらないのではない。時が徐々に稼働しようとするかすかな変化に心をそば立たせよう。

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清藤秀人

5.0しょっぱなからトイレの気持ち悪いシーンを入れるな

2024年2月17日
PCから投稿

昔からよくある映画って感じの映画でした(最近は普通の映画が少なくなってる)。問題点は映画の冒頭に気持ち悪いトイレのシーンがあります。映画にそんなシーンいらないですわ。もうちょっと製作者は頭使えっておもう。

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関学にチー牛はおらんのんじゃ

4.0辛いと叫ばなくても背中からにじむ

2023年6月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

甥の面倒を見るためとはいえなぜそこまで
帰省したくないのかの理由が徐々に明らかになる。
あまりにも、一人が抱える過去の傷としては
重すぎる。
むしろ良く自殺せずに生きてきたなと思うくらいだ。

父を亡くしたばかりの甥っ子も
人懐っこいタイプでもなく。
そんな二人が果たして近づくのかなあと心配になる。

甥と叔父の距離感がなんとも微妙で、
例えばこれが女同士なら
もっとハグしたり寄り添ったりと
わかりやすいだろうけれども、
どこかテリトリーをけん制し合うような
雰囲気もあるのが面白い。

はっきりとわかりやすくはないけども
空さえ見てないんじゃないかという男が
少しずつ光を見るようになったんだなと
そっと見守る映画だ。
傷をいやしていくのは時間とやはり人なのだな。
人間愛のある作品。

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こまめぞう

5.0人生

2023年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

人間が生きて行くというのはこういうものだよなぁ。数々の出来事は乗り越えられるはずもなく、過去の記憶と景色は色褪せない。人間の内面をこんなにも繊細に描く作品を見たことがない。

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よしたか

4.0孤独と向き合う自分

2023年3月6日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

兄の訃報の知らせで故郷の
ニューイングランドの港町に戻って来た
リー、ケイシー・アフレック
遺言を聞いて甥のパトリックの後見人となり
過去の悲劇と向き合い、乗り越えられない壁にぶつかりながら懸命に生きようとする姿がありました。
港町を囲む静かな波音、海鳥が空を飛ぶ
美しい情景、大事な人を喪失して哀しみに暮れながら、人間は完璧ではないことを
優しく諭してくれたストーリーでした。

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美紅

4.5賛否あるのは理解できるが、私は好き

2022年12月29日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

幸せ

全編を通じて、「風景」というか、
「情景」というべきか、空、海、街が丁寧に描かれる。

主人公であるリーの現在と、過去の回想が巧みに編み込まれながら、過去の屈託ないリーと、現在の屈折したリーを対比させていく。

リーの兄、兄の主治医、甥、義姉、元妻、兄の仕事仲間、甥のガールフレンド、、、、
多彩な登場人物たちが、いわゆる「ちょい役」に至るまで、実に丁寧に描写されている。
ゆえに、映画全体があたかもドキュメンタリーのようなリアリティを持つことになっている。

キャスティングも素晴らしい。

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Haihai

4.5辛すぎる過去のあやまち

2022年8月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

リー(ケイシー・アフレック)にとって、生まれ故郷の
マンチェスター・バイ・ザ・シー(アメリカの地名)に帰ることは、
あまりにも辛すぎる。

ボストンでアパートの修理などの便利屋をしていたリーはに、
兄ジョーの急死の知らせが届く。
駆けつけたリーは葬儀の準備に追われる中、
甥っ子のパトリック(ルーカス・ヘッジス)の後見人に、
兄がリーを指名したのを知る。

そしてマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ると、
「あれが例の事件のリーか?」
町の人の好奇に晒され、二度と思い出したくない
「過去の事件」と向き合うことに。
葬儀の準備が進む中、
過去の様々な映像がリーの脳裏に浮かぶ。

その事件の夜。
真っ赤に染まり燃え盛る我が家。取り残された幼い子供たち。
立ちすくむリーのシーンに、アルビニノーニの「アダージオ」が、
悲しみの火に油を注ぐように、
荘厳なパイプオルガン演奏が鳴り響く。
(リーは警察署でもっともっと厳しく処罰して欲しかっただろう・・・)
(罪に釣り合う程厳しく罰されたらどんなにか楽だったかもしれない!)

映画は甥っ子のパトリックのシーンになると、
軽めのユーモアが散見する。
二股交際の女の子や、
その女子の家では、20秒ごとに母親が現れて、
声をかけたり・・・
バンドにアイスホッケーにバスケと、
青春を謳歌するパトリック役のルーカス・ヘッジスは、
ジェシー・アイゼンバーグ似で、繊細さとやんちゃ少年ぽさが
魅力的。
パトリックはリーよりずっと世慣れて大人だが、
父親の遺体の冷凍に怯えて、
冷凍庫のチキンにパニックになったりして、
まだまだ子供。

後見人になったリー。
兄ジョーの遺した船でパトリックと過ごす時間は、
リーの苦しみも癒してくれそう。

子供を失った悲しみ。
母親役のミシェル・ウィリアムズ。
リーと会うとどうしようもなく心が乱れる。
互いに会うことが傷に塩をなすり付けるよう・・・
とても、分かる気がする。

リーの罪はたとえ妻から許されても、
消えることはないし、
自分が一番、自分を許せないのだから。

人間は過ちを犯すもの。
悲しいけれど、どんなに絶望しても、
人は生き続けなくてはならない。

パトリックと船が、少しは手助けしてくれるだろう。

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琥珀糖

5.0悲しいけど何度も観たくなる

2022年8月7日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

マンチェスターの町並みの絵がとても美しい。物悲しい音楽をバックに、オープニングから引き込まれる。ケイシー•アフレックは、辛い過去を背負った影のある役を細かい所作で見事に演じていたし(アカデミー主演男優賞も納得)ミシェル•ウィリアムズも非常によい演技を見せてくれている。
物語は淡々としたトーンで進むが、リーの家で起きた事故の回想場面から、彼がいかに重い過去を背負っているのかを視聴者は知る。その後はもうリーの葛藤や苦しさが観ている自分にものし掛かっているような感じがして、町で出くわした元妻ランディとの会話の場面で涙腺崩壊。最後パトリックとの会話でリーの「I can't beat it」でまた号泣。悲しいストーリーではあるけれど、映像、音楽、脚本、キャスト総じて素晴らしく、私にとっては何度も観たくなる映画。

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Ran

4.0過去の悲劇を抱える男の彷徨

2022年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

観始めた時は、評判ほどではないな、話しにまとまりがなく退屈だなと思った。しかし、話しが進むに連れて、作為を極力表に出さない自然なストーリー展開が紡ぎ出す人間ドラマが心に染み渡ってきた。また、全編を通して、何か温かいものに包まれた雰囲気に、作り手の主人公のような悲劇に遭遇した人間に対する優しい眼差しが感じられた作品だった。

アメリカ・ボストン郊外で便利屋として働く主人公リー(ケイシー・アフレック)は、仕事は出来るが客とのトラブルが絶えなかった。彼は鬱々とした孤独と哀しみを抱えて生きていた。そんな時、兄が突然死し、兄の遺言に従い、故郷のマンチェスター・バイザシーに戻り、16歳の甥(ルーカル・ヘッシズ)の後見人をすることになる。二度と帰るまいと決意した故郷で、彼は過去の悲劇と向き合って生きていくことになる・・・。

悲劇が元で別れた妻(ミシェル・ウィリアムズ)との久々の会話シーンが秀逸である。会話を分かり易くするようなことはしない。不器用で、たどたどしい会話のなかに、互いを想う気持ちが溢れている。ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズの演技力が光る名場面だった。

前半では、巧みに、主人公の過去と現在を往復しながら、決して善人とは言えないが、何処にでもいる子煩悩で友達が多く妻との喧嘩の絶えない彼の悲劇前の人間性が炙り出されていく。そして、そんな家族に起きた過酷な悲劇で主人公は激変し、心の傷が癒えぬまま、過去を払拭できないまま、主人公は故郷を離れ人生を彷徨していく。従来作に比べ、この彷徨の過程を淡々と丁寧に描いているのが本作の特徴であり真骨頂である。

本作は、主人公および周囲の人々の日常の出来事を描くことに徹している。作為的なことは一切しない。話をまとめることもしない。説経臭いナレーションも被せない。直向きに主人公の心情に最接近することで、我々観客に、彷徨というものの生々しさを突き付けてくる。ラスト近くで、“乗り越えられない、辛すぎる”という彷徨の渦中にある主人公の呟きは自然であり、それ故に極めてリアルである。何より、ケイシー・アフレックの鬱屈した彷徨の演技が出色である。

そんな主人公にも、甥との関係を通じて、再生とは言えないが、一筋の光が差し始めたエンディングは心温まるものであった。

派手さはないし、すごく楽しい作品でもないが、観る価値のある作品である。

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みかずき

5.0can't beat it

2022年5月25日
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鑑賞方法:映画館

厳しい潮流に逆らうかのように海辺の町でただひたすらもがき続ける主人公がいる。主人公の経験と哀しみは、安易に想像できない。父の死を乗り越える高校生の甥っ子との対話がある。哀しい主人公と甥の二人を乗せたボートは、ただひたすらゆっくりと海を進んでいく。鬱な主人公と彼の周りに配置された人々に流れる時間の相違が映画のリズムの肝になっていた。人々に無言の応対を続けるケイシーアフレックを見て、時に魔が差したような笑いがこみ上げる時もあった。 死の宣告をしている時に、良い病気ってなんだと医者が聞かれたり、救急隊員が救急車に担架を載せようとするとき中々入らなかったり、悲しい場面に含まれていた苦笑いを誘う細かな演出が主人公を見守る気持ちにさせてくれた。寒々しい景色が続く映画でありながら、不思議なユーモアに包まれた他人の気持ちに寄り添うとても暖かい映画だった。

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Oliver

4.0芝居がひたすらに見応えのある

2022年5月6日
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鑑賞方法:映画館

ケイシーアフレックの芝居がひたすらに見応えのある作品。
喪失によって形付いた、空虚というのがぴったりな表情がすごい。
喜びも目的もなくただ生きているだけの日々、それをこれでもかと言うくらいに滲ませている。
色調もどこか気怠いトーンでぴったり。
反面、音楽はとてもエレガントな音で作品を包んでいます。
淡々としているが退屈でなくむしろ目が離せない作りで、人と人の触れ合いの描かれ方がとても愛おしい。
辛さを孕んでいるが、それ以上に美しい物語でした。

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白波

4.0 静かな映画。登場人物は行動の理屈など語らないし整理もできていない...

2022年4月29日
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鑑賞方法:VOD

 静かな映画。登場人物は行動の理屈など語らないし整理もできていない。現れていること、その背景、時系列も散文的だが、目が離せず見入るうちに見ている側に塊ができる。自分の人生もあわせて振り返りつつ、運不運、タイミングなどをぼーっと考える。
 Amazon prime videoはもうすぐ見放題期間が終わる映画を紹介してくれる。本作はタイトルしか知らなかったが、ジャケ買い(買ってないけど)で当たった感。かなり高い社会的評価にも納得。

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またぞう

3.0終始悲劇…

2022年4月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

何かしらの悲劇を味わったことのある人は
どうしようもない過去に囚われる
つかの間笑えても心は晴れる日はない
悲しみに暮れていては生きていけないから
時間が経てば笑える日が来る
けど、気遣われる環境からは離れた方がいい
その過去を知らない世間で生きた方がいい…

アルビノーニのアダージョがかかった時は
これは…何が起きるのだろう?と見ていたが
まさかこんな悲劇が待ち受けようとは

ヘンデルのメサイアがかかった時は
苦しく映画を見ていたあたしに癒しをくれた

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mamagamasako

4.0どっち派ですか?

2022年4月19日
PCから投稿

ニューイングランドの田舎町の過去ある男性の人生を淡々と描きます。
おそらく多くの人には話の盛り上がりもなくダラダラ続く印象なのでたいくつでしょう。
アレン選手のアニーホールみたように。
評論家がめんどくさいこと言いたがりそうな映画です。
この手の作品は大抵嫌いですが、これにはハマりました。
理由は上手く言えません。どうして赤より青が好きか説明できないのと同じように。
合う人には合う、けど皆に勧められる作品ではありません。
まあ、一時間半で十分ですけどね。

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越後屋

4.5滑稽にさえ思うほどに

2022年3月20日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

トラウマはこんなにも人を、周囲の目線を、そして人生を変えてしまう。
それは、滑稽にさえ思うほどに。
孤独感が漂うんだけど、作品自体にユーモアがあって、
あれは一体なんだったんだろう…と、何度も見たくなる興味深い映画だ。
おじさんも残ってよ、は思わず泣いた。

#孤独 #家族 #守るべきもの #PTG

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高岡 正和

0.550分くらいで見るのやめた。

2021年11月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

物語の導入部が延々と続いている様に感じた。

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くそさいと

5.0観終わってわかるのは「これは兄の物語だ」ということ

2021年9月20日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

上質のニューイングランドもの。
心が満たされた。

「変わり者で困った叔父さんと甥っ子」というテーマの映画は多い。
この映画では
・次男坊のリーと
・甥っ子のパトリックだ。
一族のヒエラルキーにおいては、年代こそ異なれど、この二者は下位対等だ。

心臓病で早世する兄ジョーは、遺していく弟と息子のために遺言書を記していく。
実に用意周到。=「リーとパトリックのふたりそれぞれが新しく生き始めるための道筋」=を設計図に夢見、
必ずいつかふたりがその孤独な道行きを接近させ、ふたつの孤児を出会わせる日を、ジョーは願っていた。
兄は助走路を遺して逝ったのだ。
長男らしい終活なんだなー、これがね。

それはただひとつのジョーの望み
「弱い弟と、まだ保護者の必要な息子の幸せのために」、なんですよ。

物語は
無理強いされた「新米後見人」のリーと、リーに懐かない甥の“二人三脚”。
自分亡きあとをプロデュースした長兄のたっての「願い」が、いつか必ず叶うとの確信通りに、兄の祈りはリーとパトリックの海辺の姿に実をむすぶわけで。

弟リーは
墓地をさまよい、仕事中にはマグロ漁船で父親を亡くした老人の独り言を聞き、火事で死んだ子らの写真と霊安室の兄を見つめる。
失火を苦しみ続けていたリー。

死者と生者がマンチェスターの街で、防波堤で、そして海で、静かに心通わせるラストは沁みる。

画面上はわりと早めに舞台の袖に引っ込む兄のジョーなのだが、
ボストンの海辺を照らす春の日差しを見れば、エンディングでその兄ちゃんの存在の大きさにいつしか圧倒されて、ふたりの釣りびとが可愛らしく小さく見えて仕方なかった。

・・・・・・・・・・・・

【ひとの人生は 伏線の種まき】
・火事のあと、半地下の、がらんとしたワンルームでふさぎ込むリーのために、無理やり「人間らしい生活を」とソファーを買い与えた兄ちゃんでした。
あのお節介が、後年、(父親も母親も失った)甥っ子のパトリックのための長椅子になって、美しく復活する。

・自らに死の刑罰を与えんとした銃器も、新しい役割を与えられて、今度はボートのエンジンとなって新生・復活をする。

「伏線」がこうしてひとつひとつ拾われていくごとに、僕たちの人生についても思いは及ぶ ―
僕らの生きている全ての一瞬一瞬、そのひとこまひとこまが、誰かの優しさの遺言・伏線の回収であったこと。そして思い出の蘇りであったことを、エンディングで鑑賞者の私たちは知ります。

そして水平線の先を眺めれば、いま生きている僕らの人生も、きっといつか誰かの幸せとして現れるためのまた伏線になっているのだと
それがはっきりと分かった。

兄ジョーによって蒔かれた愛情の種は、蒔いたひとの上にではなく、その命のめぶきを必要とする誰かの上に、時を隔てていつか緑の若葉として宿りましたね。

・・・・・・・・・・・・

付記
【制作者たちの出自と傾向について】
マット・デイモンは、
「グッドウィルハンティング」の脚本と出演を手掛けたが、本作ではプロデューサーのひとりとして制作に加わっている。マット・デイモンは去って行った者や死者を活かす映画の造作に長けている。

アフレック兄弟も、今回のプロデューサーのマット・デイモンも、米国の東部=マサチューセッツ州生まれだ。
「メッセージ・イン・ア・ボトル」のレビューでも触れたけれど、
まさにこの土地の風土と、そこに暮らす住民のアッパーソサエティ・スピリットあっての作風。
ロナーガン監督も例外ではない。東部NY の出。
“ By the sea ”と言っても、ヤンキーの住む西部ロサンゼルスの海端ではこうはいかないだろう。
理知的で精神の独立性を重んじる移民の地、ニューイングランドであればこその、ハイクラス・ムービーであることは確か。

チャントのような静謐な二重唱が流れ、クリスマスのメサイヤから数曲。
そして弟リーにエンジンがかかってボブ・ディランへとつむぐ。

回想シーンの挿入で、ここまで無理なく違和感なく編集をやってのける手腕とセンスにも、唸った。

・・・・・・・・・・・・

本作品の鑑賞者が“長男”か“次男”かで、この映画への心の琴線の触れ所は変わるのだろう。
パトリックはうちの長男坊にそっくり。
(あとベサニー医師には萌えた♡)。

「弟と甥の物語」かと思いきや、実はこれは「長男の物語」なのだと、僕は長男なので思った次第。



参列できなかった叔父の葬儀の日に、DVDにて鑑賞。

譲り葉の落ちて林の春日かな

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きりん