インディ・ジョーンズと運命のダイヤル : インタビュー

2023年6月29日更新

ハリソン・フォード×J・マンゴールド監督】“最後のインディ・ジョーンズ”で重要だったものは? 秘話を語り尽くす

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ハリソン・フォード演じる考古学者の冒険を描くアドベンチャーシリーズ「インディ・ジョーンズ」。15年ぶりの最新作となる「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が、遂に6月30日から公開を迎える。

「インディ・ジョーンズ」は、スティーブン・スピルバーグ監督と、「スター・ウォーズ」シリーズのルーカスフィルムの豪華製作陣がタッグを組む、世界的な人気を誇るアドベンチャーシリーズ。ジェームズ・マンゴールド監督がメガホンをとった最新作では“人類の歴史を変える力”を持つ究極の秘宝「運命のダイヤル」がキーアイテムに。インディ(フォード)が、元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)と全世界を股にかけて陸・海・空と全方位で争奪戦を繰り広げる。

インディを演じるのは「(本作で)最後」と明言しているフォード。最後の冒険にかけた思い、「インディ・ジョーンズ」のレガシーを、マンゴールド監督とともにたっぷりと語ってもらった。(取材・文/小西未来


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――まずはハリソン・フォードさんにお聞きします。「スター・ウォーズ フォースの覚醒」でハン・ソロを演じたように、今回もひさびさに馴染みのキャラクターを演じることになりました。どのようにアプローチしましたか?

ハリソン・フォード(以下、フォード):ストーリーというレンズを通じてだ。今回のストーリーはどうあるべきか、どんな可能性があるか、何度も話しあいを重ねた。結果的に、ジム(=マンゴールド監督)は、私やスティーブン(・スピルバーグ監督)の願望だけでなく「複雑で楽しいファミリー映画を作る」という私たち全員の目標に応える脚本を作り上げてくれた。これまで築いてきたものを論理的に拡張し、さらにそれを発展させたものだ。私は常々、インディ・ジョーンズの活躍をキャラクターの年齢に合わせて描きたいと思っていた。インディが自らの年齢を認め、加齢がもたらす状況を楽しむ。ジムは、私たちがこれまでに織りあげたものをすべて駆使し、さらに退職や家族の喪失や別離、あらたな冒険を通じた罪滅ぼし、人生最後の冒険に出ていく楽しみなどの要素を加えてくれたので、これは楽しいものになると確信したよ。

USプレミアでの様子
USプレミアでの様子

――監督が交代したことに気付かないほど、見事な「インディ・ジョーンズ」になっていました。ジェームズ・マンゴールド監督はこれまでにさまざまなジャンルを手がけていますが、本作でもっとも重要だったのはなんでしょうか?

ジェームズ・マンゴールド監督(以下、マンゴールド監督):前4作を手がけたスティーブン・スピルバーグ監督は、私の人生に多大な影響を与えた偉大な監督だ。君が言うように私はさまざまなジャンルの映画を作ってきたが、スティーブンもまた、さまざまな作品を手がけてきた。私たち2人は、どちらも黄金時代のハリウッド映画に対する愛着を持っています。たとえばジョン・フォード監督は、「駅馬車」から「怒りの葡萄」、第二次世界大戦の映画まで手がけている。共通点はあるものの、それぞれのジャンルに合わせた独自の感性やテイストを発揮している。

私がこの作品にもたらしたのは、これまでの作品に対する深い愛だ。すでにうまく行っているものを、わざわざ自分好みに変えてしまうことに興味はなかった。むしろ、ジョージ(・ルーカス)やスティーブン、ハリソン、個性的なキャストたちが作りあげた「砂場」で楽しむことを心がけた。

USプレミアでの様子
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マンゴールド監督:君が寛大に言ってくれたように、本作がこれまでと違和感なく仕上がったのは、コラボレーションのおかげだ。監督の椅子に座っているのは別の人物でも、前の監督はテキストメッセージですぐに質問に答えてくれるし、ラッシュ映像を確認してくれていた。脚本の企画開発にも関わっている。そして、本作に関わるみんなが同じ作品を目指していた。「インディ・ジョーンズ」には、ミュージカル劇のように美しく演出されたアクションがあり、魅力的で個性的な、キャラクター主導で物語が展開する。主人公はスーパーヒーローでも不屈の精神を持った人物でもない。傷つきやすい心を持った人物たちが、たまたま勇気をふりしぼり、敵に挑まなくてはならなくなる。これらが「インディ・ジョーンズ」の大原則だ。さらに世界中を旅して文化が交錯し、センス・オブ・ワンダーや神秘主義の感覚があって、ジョン・ウィリアムズの音楽があわさって、昔懐かしい映画の黄金時代の感覚を呼び戻してくれる。そんな作品を心がけたつもりだ。

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――アクションシーンにも果敢に挑戦していますね。

フォード:77歳の老人としてのアクションシーンに挑戦したいと思った。「レイダース」のときのインディ・ジョーンズとしてではなくね。加齢にともない体は衰えたが、知恵は身につけている。それなりに経験も重ねている。つまり、これまでとは違ったインディなんだ。骨格は同じだが、歴史が刻まれている。

おまけにいまの彼は、もはや冒険家ではない。彼は考古学を教える単なる学者だ。しかも、月面着陸というイベントを目の当たりに、未来にしか興味のない学生たちを相手に過去を教えている。いわば水から出た魚の状態で、意気消沈している。さらに、定年退職を迎え、家族もバラバラだ。そんな彼に、最後の冒険の機会が訪れる。そんな彼が本来の姿を取り戻していくのは、この脚本の実に素晴らしいところだと思う。

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――悪役にマッツ・ミケルセンを起用したのはなぜですか?

マンゴールド監督:マッツのキャラクターは、「レイダース」のベロックとは違うように設計した。彼は言ってみればナチス版のインディ・ジョーンズだ。知的でアカデミックで、自分の目標を追求しようとする学者だ。彼はインディ・ジョーンズに奇妙な憧れを抱いている。映画のかなり後半で、インディに「この世界において、もはや誰もぼくらのことを気にしていない」と言う台詞がある。2人は善と悪の対極の存在だが、この現代社会において居場所を失っているという感覚は同じなんだ。

マッツ・ミケルセンは現在活躍している俳優のなかで最も洗練された素晴らしい俳優の一人だ。引っ張りだこだから、キャスティング・ディレクターにマッツ・ミケルセンはどうかと言われたとき、私はぜったいに引き受けてくれないと思っていたほどだ。だが、オファーの24時間後に彼から「待ちきれないよ」とメールが届いた。これには驚いた。デンマークで子ども時代を過ごした彼にとっても、「インディ・ジョーンズ」は特別な意味を持っていたんだ。公開週に映画館で5回も観たそうだ。出演してもらえるとは夢にも思ってなかったよ。

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――フィービー・ウォーラー=ブリッジとの共演はいかがでしたか?

フォード:最高だった。これまでの「インディ・ジョーンズ」に登場した素晴らしい女性キャラクターのなかでも異質なキャラクターだ。それは、彼女自身がとてもユニークな存在だからだ。マッツ・ミケルセンがこの作品に参加してくれたことにマンゴールド監督が驚いたように、フィービーがこの作品にこれほどまで情熱を持ってくれたことに私は驚いた。彼女にはありあまるほどのエネルギーがあって、例の独特の、何と言えばいいのかな……。

マンゴールド監督:パチパチという炎だね。

フォード:そうだ、そうだ。

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マンゴールド監督:フィービーは偉大な役者で、素晴らしいコメディアンでもある。それは、ハリソンにしても同様だ。最初の1週間で彼の偉大さがわかったよ。どのシーンを演じるときも、陳腐なやりかたを回避して、観客にサプライズを与えたり、魅了する方法を模索している。筋書きを変えるのではなく、ひとつひとつの台詞や動作でさまざまなことを試しているんだ。

それは、フィービーに関しても同じだ。もともと彼女は作家であり、ドラマとコメディをこなす名女優でもある。彼女が企画・製作総指揮・主演を務めた「Fleabag フリーバッグ」の2シーズンを観させてもらって、彼女は現代的な魅力を備えながら、往年のベティ・デイビスバーバラ・スタンウィックのように、魅力的でありながら危険な存在にもなり得るという能力があることに気付かされた。

フォード:それに、インディとの関係がプラトニックなのが好きだ。ロマンチックな関係にならない。そのため、彼女には独自のキャラクターを作り上げることができたと思う。

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――最後にハリソン・フォードさんに質問します。「スター・ウォーズ」や「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」は映画界を変えた作品となりましたが、出演当時、ここまで歴史的な作品になると思っていましたか?

フォード:ひとことで言えば、ノーだ。だが、成功すると思っていたかと聞かれれば、イエスだ。そうでなければ、現場から逃げ出していたよ。「スター・ウォーズ」の撮影中、イギリスのスタッフには奇妙に映っていただろうからね。私の隣には犬の着ぐるみを着た身長7フィートの男が立っていて、おまけにお姫様までもいる。私自身「何が起きているんだ」と疑問に思ったほどだ。でも、「これはおとぎ話なんだ」と思い直した。そして、この手のおとぎ話は、童話であっても、映画であっても、常に成功している。

賢い老騎士と無垢な青年。美しいお姫様もいれば、口が達者な生意気な奴もいる。私は自分に与えられた役割を理解していたし、実際楽しかった。あの映画がとてつもなく成功し、映画史を変えたことは、自分にはあまり関係がない。だが、感謝の気持ちでいっぱいだった。あの作品は私の人生を変えて、さまざまな機会を与えられるようになったからだ。想像もしたことがない自由が与えられた。そして、スティーブンとの「レイダース」につながっていった。

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フォード:「インディ・ジョーンズ」も同じだ。もっとも、こちらはおとぎ話ではない。違った構造をしている。だが、幅広く楽しめる映画として認識されている。アクションが好きな人たちだけでなく、家族で楽しめる映画として。これは人間らしい生活を送っている普通の人々の物語だ。子どもがいて、妻がいて、仕事がある。でも、とても美しく書かれているので、見ていてとても楽しい。さまざまな技巧が凝らされていて、素晴らしい俳優が出演している。なにより私が共演する機会を与えられた錚々たる役者たちをみてほしい。私にとって本シリーズは喜び以外の何物でもないよ。

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