658km、陽子の旅

劇場公開日:

658km、陽子の旅

解説

「#マンホール」「私の男」の熊切和嘉監督と「バベル」の菊地凛子が、2001年の「空の穴」以来22年ぶりにタッグを組んだロードムービー。「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM 2019」脚本部門で審査員特別賞を受賞した室井孝介の脚本を原案に、人生にもがき苦しむ女性の東北縦断の旅を描く。

就職氷河期世代である42歳の独身女性・陽子は、人生を諦めてフリーターとしてなんとなく日々を過ごしてきた。そんなある日、かつて夢への挑戦を反対され20年以上疎遠になっていた父の訃報を受けた彼女は、従兄の茂やその家族とともに、東京から故郷の青森県弘前市まで車で向かうことに。しかし、茂の家族は途中のサービスエリアで子どもが起こしたトラブルに気を取られ、陽子を置き去りにして行ってしまう。所持金もなくヒッチハイクで故郷を目指すことにした陽子は、道中で出会ったさまざまな人たちとの交流によって心を癒されていく。

共演には竹原ピストル、黒沢あすか、風吹ジュン、オダギリジョーら実力派が多く顔をそろえる。

2022年製作/113分/G/日本
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
劇場公開日:2023年7月28日

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(C)2022「658km、陽子の旅」製作委員会

映画レビュー

4.5何度も胸が張り裂けそうになった

2023年7月31日
PCから投稿

何度も胸が張り裂けそうになった。私が主人公と同じ世代であるのも大きな理由の一つ。だがこの映画への共感は世代うんぬんでなく、きっと日本全体、いや世界中へ浸透していくものだと感じる。誰もがはじめは希望を持っていた。けれどそれが儚い夢だと知る。現実に押し潰される。感情を押し殺す。人との接触が減る。孤独が当たり前になる。気がつくと声を発する感覚さえ薄れているーーーそんな切迫した状態から物語は始まるが、決して悲劇というわけではない。これは旅路を通じて人間が人間であることを回復させていく作品なのだから。研ぎ澄まされたカメラワーク。ハッと息を飲む、動きのあるシーンの創出。折々に現れる父の幻想。干からびた心を白く静かに染め上げていくような雪・・・。主人公の人生と現状を痛ましく体現し、なおかつ旅と共に刻々と変わりゆく菊地凛子の存在感が神がかっている。菊地と熊切監督にとっての新たな代表作となるのは間違いない。

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牛津厚信

4.0震災とコロナで疲れた日本人の心象が重なる

2023年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

2019年のTSUTAYA主催のコンテストで受賞した室井孝介の脚本の映画化なので、当然コロナ禍の前に書かれているのだが、ある事情により半ば引きこもり状態で在宅ワークをしている陽子の暮らしぶりは2020年以降のロックダウン時の閉塞感を否応なく思い出させる。冒頭のシークエンス、暗い部屋でPCのモニターに照らされた菊地凛子の顔、イカ墨パスタを箸で食べて黒く光るくちびるに、まず心をぐっと掴まれた。

タイトルが示すように、本作はロードムービーのフォーマットで進む。疎遠になっていた父親(オダギリジョー)の葬儀のため、従兄一家の車で故郷・青森県弘前市に向かうが、栃木県のサービスエリアでトラブルが起きて置き去りに。人と話すのが苦手な陽子は、勇気を振り絞ってヒッチハイクで実家を目指す……。

陽子を乗せた車は福島、宮城と進むので、車窓からは汚染土を収めて積まれた黒いフレコンバッグが延々と続くのが目に入る。私も震災後に一度福島県の飯舘村などを訪れて直接目にしたが、あのフレコンバッグの途方もない量には本当に圧倒された。原発事故からすでに12年、当時の記憶が風化しつつある人も多いのではと想像するが、映像を介してであれ、いまだ復興半ばの東北の姿を見つめて思いを馳せるのは意義があるはず。

旅の中盤まで悪いことが重なり、地獄めぐりのような展開になるのかと危ぶんだが、海はやはり生命の源、再生の象徴。陽子は夜の波に洗われ、出会った人々の助けも借りて、少しずつ生きる力を取り戻していく。天災や疫病に翻弄され疲弊した私たちの心を、ささやかな一筋の光で照らす好作だ。公開タイミングは、酷暑の真夏ではなく冬の寒い時期のほうがよりしみじみ体感できそうなのに、惜しい。

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高森 郁哉

4.5帰りたくない でも帰ろう 帰ってきたよ カントリーロード

2024年4月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

幸せ

監督は『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』『私の男』『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』『#マンホール』の熊切和嘉
脚本は『劇場版ほんとうにあった怖い話』の室井孝介
脚本は他に浪子想

上海国際映画祭で最優秀作品賞最優秀脚本賞最優秀主演女優賞

ヒッチハイクで東京から弘前を目指すロードムービー

粗筋
しばらく会っていなかった従兄に訃報を知らされる
実家の弘前に住む父が亡くなった
葬儀のため東京から従兄の家族と一緒に従兄が運転する車に同行することになったが栃木のサービスエリアで逸れてしまう
従兄の息子がサービスエリアで怪我をしてしまい近くの病院に行ったからだ
携帯電話は故障していて自宅に置いたままの工藤陽子はヒッチハイクで弘前を目指すことを決意する

『♯マンホール』の熊切監督
あっちはマンホールの中に落ちてしまいなかなか出られない男の話で新郎として翌日の結婚式に間に合わないといけない
こっちはサービスエリアで従兄の車に逸れてしまいヒッチハイクで父の葬儀に間に合わないといけない
あっちはスマホがあるがこっちはスマホがない
その設定だけでそそるじゃないか
映画館で観たかったが仕事の関係もあり優先順位で両方とも観ることができなかった

ヒッチハイクに協力する人たちは大体が良い人なんだが女性ならではの危険はある
自分は女じゃないし明らかに男なわけだし基本的に登場人物に感情移入して物語を鑑賞するタイプではない
だがそれでも浜野謙太演じる若宮というライターに物凄くストレスを感じた
登場したばかりの時点ですでに観るのが途中で嫌になるくらいの吐き気がするほどの嫌悪感
浜野謙太の家族には申し訳ないけど元々生理的にあの顔は受け付けないのだ
これもいわゆる緊張と緩和だろうか
最悪な経験の後に優しくされると心はどんどん開いていくのだろうかまさかの長々と自分語りを始めてしまう
なんやかんやで弘前の実家に辿り着く工藤陽子

陽子の父親はそれほど悪い人でなかったようだ
憧れの東京に移り住もうとしたが親に反対され飛び出してきたまま帰らなかった陽子
仕事もうまくいかず結婚もしないまま20年以上の時が経ち40過ぎになった陽子

なぜ日本のロードムービーの多くは北を目指すのか
『幸福の黄色いハンカチ』『風花』『風の電話』『ドライブ・イン・マイカー』『すずめの戸締り』枚挙に暇がない
演歌にしたって『津軽海峡冬景色』『哀しみ本線日本海』
鹿児島や宮崎を目指しても良いじゃないか
仙台は良くて薩摩川内はダメなのか
東京人の考えはよくわからない
いずれにせよ安易な発想に違いない

東北ということもあって震災について触れる場面もあったが古くから地元に住む人たちは特にそれについて語る者はいなかった
まあそうだろう
震災の日あたり以外は語り部以外語る者はまずいない

あくまで個人的意見だがワンシチュエーションのサスペンスと比較すると一般的なロードムービーは娯楽性が低い
主人公が陰キャだとなお低くなる
だがわりと国際的な映画祭で高く評価される傾向を感じる
閉ざし気味の主人公が行く先々の人々と心を触れ合い助けを受け徐々に心を開きなんとか目的地に辿り着き人間的に成長していく過程が海外のインテリに受けるんだろう

もう少し今どのあたりにいるのかわかると良いのだがそれがない
せめて『すずめの戸締り』くらいはほしい
それがこの作品の欠点だがそういえば『風の電話』や『ドライブ・イン・マイカー』もそうだった記憶がある
ちょっと不親切だ

ヒッチハイクなんてやったことないしやっているのを観たことないし協力して乗せてあげたことないしこれからもない
見ず知らずの人を乗せるなんてありえない
たとえ女性でも乗せない
なんで拒否するんだよと思うレビュアーも多いかもしれないがまあ普通なのかな
自分がつまらない多数派なのは癪だけど

そういえば宮崎駿の『耳をすませば』のエンディングテーマ『カントリーロード』は原曲の歌詞の内容が全くの真逆でびっくりしましたがそれを歌っている歌手は本名陽子
この映画のヒロインと名前が一緒ですが偶然でしょうか
あっちは「帰りたい帰れないさようならカントリーロード」ですが父の葬儀ということでこっちの陽子は帰りました
たぶん陽子は従兄に訃報を告げられた時も半ば強制的に車に乗せられたときも本当は帰りたくなかったのかもしれない
栃木のパーキングエリアで逸れたときも東京に帰っても良かったはずだがコミュ症にも関わらずヒッチハイクをしてまで陽子は弘前を目指した
それはなぜなのか
ケジメをつけたかったのか
それは自分にはよくわからない
ちなみに山城新伍の娘は父の葬儀には来なかった
それだけ嫌いだったのだ
陽子はそうではなかった

あそこで終わるのも悪くない
わりと好き

配役
42歳独身在宅フリーターの工藤陽子に菊地凛子
陽子の従兄の工藤茂に竹原ピストル
茂の妻に原田佳奈
茂の娘の春海に池谷美音
春海の弟の海人に阿久津将真
利用者が少ないパーキングエリアでヒッチハイクをしている小野田リサに見上愛
陽子の記憶に度々幻影として現れる若い頃の父の工藤昭政にオダギリジョー

ヒッチハイクの陽子を乗せる人たち

デザイン会社に勤めるシングルマザーの立花久美子に黒沢あすか
ライターの若宮修に浜野謙太
震災ボランティアをきっかけに東北に移住した便利屋の八尾麻衣子に仁村紗和
寡黙な地元民の水野隆太に篠原篤
隆太の息子の健太に松藤史恩
バイク乗りの健太の兄に鈴木馨太
木下夫婦の夫の方の木下登に吉澤健
木下夫婦の妻の方の木下静江に風吹ジュン

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野川新栄

4.5憎い、認められたい、愛されたかった。

2024年3月23日
iPhoneアプリから投稿

2023年劇場鑑賞48本目 傑作 77点

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サスペンス西島
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