劇場公開日 2023年7月28日

  • 予告編を見る

「帰りたくない でも帰ろう 帰ってきたよ カントリーロード」658km、陽子の旅 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5帰りたくない でも帰ろう 帰ってきたよ カントリーロード

2024年4月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

幸せ

監督は『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』『私の男』『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』『#マンホール』の熊切和嘉
脚本は『劇場版ほんとうにあった怖い話』の室井孝介
脚本は他に浪子想

上海国際映画祭で最優秀作品賞最優秀脚本賞最優秀主演女優賞

ヒッチハイクで東京から弘前を目指すロードムービー

粗筋
しばらく会っていなかった従兄に訃報を知らされる
実家の弘前に住む父が亡くなった
葬儀のため東京から従兄の家族と一緒に従兄が運転する車に同行することになったが栃木のサービスエリアで逸れてしまう
従兄の息子がサービスエリアで怪我をしてしまい近くの病院に行ったからだ
携帯電話は故障していて自宅に置いたままの工藤陽子はヒッチハイクで弘前を目指すことを決意する

『♯マンホール』の熊切監督
あっちはマンホールの中に落ちてしまいなかなか出られない男の話で新郎として翌日の結婚式に間に合わないといけない
こっちはサービスエリアで従兄の車に逸れてしまいヒッチハイクで父の葬儀に間に合わないといけない
あっちはスマホがあるがこっちはスマホがない
その設定だけでそそるじゃないか
映画館で観たかったが仕事の関係もあり優先順位で両方とも観ることができなかった

ヒッチハイクに協力する人たちは大体が良い人なんだが女性ならではの危険はある
自分は女じゃないし明らかに男なわけだし基本的に登場人物に感情移入して物語を鑑賞するタイプではない
だがそれでも浜野謙太演じる若宮というライターに物凄くストレスを感じた
登場したばかりの時点ですでに観るのが途中で嫌になるくらいの吐き気がするほどの嫌悪感
浜野謙太の家族には申し訳ないけど元々生理的にあの顔は受け付けないのだ
これもいわゆる緊張と緩和だろうか
最悪な経験の後に優しくされると心はどんどん開いていくのだろうかまさかの長々と自分語りを始めてしまう
なんやかんやで弘前の実家に辿り着く工藤陽子

陽子の父親はそれほど悪い人でなかったようだ
憧れの東京に移り住もうとしたが親に反対され飛び出してきたまま帰らなかった陽子
仕事もうまくいかず結婚もしないまま20年以上の時が経ち40過ぎになった陽子

なぜ日本のロードムービーの多くは北を目指すのか
『幸福の黄色いハンカチ』『風花』『風の電話』『ドライブ・イン・マイカー』『すずめの戸締り』枚挙に暇がない
演歌にしたって『津軽海峡冬景色』『哀しみ本線日本海』
鹿児島や宮崎を目指しても良いじゃないか
仙台は良くて薩摩川内はダメなのか
東京人の考えはよくわからない
いずれにせよ安易な発想に違いない

東北ということもあって震災について触れる場面もあったが古くから地元に住む人たちは特にそれについて語る者はいなかった
まあそうだろう
震災の日あたり以外は語り部以外語る者はまずいない

あくまで個人的意見だがワンシチュエーションのサスペンスと比較すると一般的なロードムービーは娯楽性が低い
主人公が陰キャだとなお低くなる
だがわりと国際的な映画祭で高く評価される傾向を感じる
閉ざし気味の主人公が行く先々の人々と心を触れ合い助けを受け徐々に心を開きなんとか目的地に辿り着き人間的に成長していく過程が海外のインテリに受けるんだろう

もう少し今どのあたりにいるのかわかると良いのだがそれがない
せめて『すずめの戸締り』くらいはほしい
それがこの作品の欠点だがそういえば『風の電話』や『ドライブ・イン・マイカー』もそうだった記憶がある
ちょっと不親切だ

ヒッチハイクなんてやったことないしやっているのを観たことないし協力して乗せてあげたことないしこれからもない
見ず知らずの人を乗せるなんてありえない
たとえ女性でも乗せない
なんで拒否するんだよと思うレビュアーも多いかもしれないがまあ普通なのかな
自分がつまらない多数派なのは癪だけど

そういえば宮崎駿の『耳をすませば』のエンディングテーマ『カントリーロード』は原曲の歌詞の内容が全くの真逆でびっくりしましたがそれを歌っている歌手は本名陽子
この映画のヒロインと名前が一緒ですが偶然でしょうか
あっちは「帰りたい帰れないさようならカントリーロード」ですが父の葬儀ということでこっちの陽子は帰りました
たぶん陽子は従兄に訃報を告げられた時も半ば強制的に車に乗せられたときも本当は帰りたくなかったのかもしれない
栃木のパーキングエリアで逸れたときも東京に帰っても良かったはずだがコミュ症にも関わらずヒッチハイクをしてまで陽子は弘前を目指した
それはなぜなのか
ケジメをつけたかったのか
それは自分にはよくわからない
ちなみに山城新伍の娘は父の葬儀には来なかった
それだけ嫌いだったのだ
陽子はそうではなかった

あそこで終わるのも悪くない
わりと好き

配役
42歳独身在宅フリーターの工藤陽子に菊地凛子
陽子の従兄の工藤茂に竹原ピストル
茂の妻に原田佳奈
茂の娘の春海に池谷美音
春海の弟の海人に阿久津将真
利用者が少ないパーキングエリアでヒッチハイクをしている小野田リサに見上愛
陽子の記憶に度々幻影として現れる若い頃の父の工藤昭政にオダギリジョー

ヒッチハイクの陽子を乗せる人たち

デザイン会社に勤めるシングルマザーの立花久美子に黒沢あすか
ライターの若宮修に浜野謙太
震災ボランティアをきっかけに東北に移住した便利屋の八尾麻衣子に仁村紗和
寡黙な地元民の水野隆太に篠原篤
隆太の息子の健太に松藤史恩
バイク乗りの健太の兄に鈴木馨太
木下夫婦の夫の方の木下登に吉澤健
木下夫婦の妻の方の木下静江に風吹ジュン

野川新栄