ある男のレビュー・感想・評価
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差別
差別を受けた者にしかわからない痛みがある。差別といっても人種、地域、学歴など様々なものがあるが、殺人犯の息子という烙印を押されたこの映画の「ある男」が受けた差別というのは想像するに余りある。戸籍を変えるという決断をするまでの心の葛藤はいかばかりか。帰化しているものの、在日3世であり、その出自にわだかまりを持っている弁護士の城戸は自分も差別を受ける側にいた人間のために「ある男」の身元調査に没頭してしまう。
あからさまな差別の対象になる事実は隠して生きることもできる。「ある男」はもちろんのこと、城戸も帰化して日本名を名乗るというのは、この世から差別がなくなることはないということがわかっているからである。知らせる必要のないことは知らせなくてもいい、よく男女間ではお互い知らないことが多い方がうまくいくといわれるが、そんなことを知らなければ何の問題もなかったのになぜ知ってしまったのだろうと後悔することはよく起きる。
ラストシーンで城戸が「ある男」の元妻里枝に「ここで過ごした3年数ヶ月が彼にとっての人生のすべて。はじめて幸せだったと思います」と伝えると、里枝は「真実を知る必要はなかった。この町で出会い、愛し合い、いっしょに暮らし、子どもが生まれた。それは事実だから」と答えた。
差別とはその人の本質とは何の関係もない偏見からはじまる。自分を誰かに決めつけられたり、自分自身で決めつけてしまうことで苦しんでいる人にとって、この映画がそのタガを外す役割をすることを願う。
そう単純に善悪分けられるのか?問題
(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
この映画ではたびたび差別主義者のクソみたいな言動が登場します。
例えば、在特会がモデルだろう、在日の人達への露骨な差別を叫び続けているデモの映像などその典型で、見ている観客の私も、相変わらずこいつらはクソだな、と改めて認識されることになります。
また主人公の弁護士である城戸章良(妻夫木聡さん)は在日三世で、城戸の妻の城戸香織(真木よう子さん)の両親や、調査の先で、彼がことあるごとに差別的な言動を受ける場面が出て来ます。
そして観客の私は、本当に彼らはクソな存在だなと感じ、そんな露骨な差別言動をしない自分を正義の側に置いて安心して鑑賞する構図になっています。
しかし、よくよく考えてみると、一方で(極端な在特会をモデルにしたデモの連中はともかく)こんなに露骨に差別の表現を現実で身近な人はするのかな?との疑念もわいてきます。
多くの人々は、潜在的に例えば在日韓国人・朝鮮人の人に対して差別意識があったとしても、(SNSやネットでは別かもですが)露骨に直接当事者や身近な人にそれを伝えることはしません。
また多くの人々は、例え潜在的に差別意識があったとしても、と同時に、相手が必要であるならば手を差し伸べたり同情や共感の感情を持ってもいるのです。
つまり、1人の人間では、差別意識もそれとは逆の共感も、分けることが難しい重層的な感情として内面に持っているということになります。
すると、城戸章良の周りの差別意識を露骨に表現してくる(観客からはクソの存在に思える)人物描写はリアリティが欠けているのではと思えてきます。
そしてその表現は捨て、逆に親切心と同時に潜まれた差別意識の混ざった複雑な人物に城戸章良の周りの描写が変化したとしたら、途端に観客はそれらの登場人物をクソな存在として認識できなくなります。
つまり観客は差別を否定する正義の場所に逃げ込むことが出来なくなるのです。
この映画は本当は、このように正義と差別の悪をきっぱりとは分けずに表現する必要があったのではと思われました。
主人公の弁護士の城戸章良は、谷口里枝(安藤サクラさん)の死んだ夫の谷口大祐(窪田正孝さん)が本当の谷口大祐ではなかったことが判明し、では谷口里枝の夫(ある男X)はいったい誰だったのか?と、谷口里枝から調査を依頼されます。
弁護士の城戸章良は、調査の結果、谷口里枝の夫だった人物(ある男X)が、小林謙吉死刑囚の息子で、母親の姓を名乗っていた元ボクサーの原誠という人物であったことを突き止めます。
そして、死刑囚の息子だった原誠は、死刑囚の息子だった過去から切り離れるために2度の戸籍を変えていたことも分かるのです。
ところでこの映画『ある男』で個人的に一番印象的なシーンが、(死刑囚の息子だった原誠の戸籍変更に手を貸した)今は獄中にいる小見浦憲男(柄本明さん)と主人公の弁護士の城戸章良とが対峙する場面です。
小見浦憲男は、クソみたいな差別言動を城戸章良に浴びせながら、城戸章良もまた獄中にいる自分(小見浦憲男)を見下して差別していると指摘して城戸章良の内面をえぐります。
個人的にはこの場面に真実性があると思われました。
その理由は、在日三世の城戸章良が自身の内面に在日への差別意識が入り込んでいるから在日を隠そうとしているという焦点を小見浦憲男がえぐっているように感じたからです。
さらにそれを超えて同時に、観客の側も、正義である差別への批判をしながら、その内面の奥に差別意識も抱えている、その矛盾を小見浦憲男が言い当てているとも感じたからでした。
個人的には、差別言動をして来た小見浦憲男の、城戸章良との対峙の言葉に感銘すら感じることになりました。
私は、この映画は親切心や差別批判と共に、潜在的に差別意識を持ってしまっている多くの観客を、正義の側に逃がさない表現をする必要があったと思われます。
なので、露骨に正義と悪を分けるてしまう、小見浦憲男以外の登場人物の分かり易い差別表現はさせない方が良かったと思われました。
その点が惜しまれる作品になってしまったとは個人的には思われました。
考えさせる
実際、生きていて犯罪者の子供や、家族だからといって騒がれてる人を見たことが無いし、2世だからといって、差別視する世界観にいたことがないので、いまいち共感出来ないけど、自分ではどうすることも出来ない境遇に生まれ、いろんな差別や、葛藤の中どう生きて行くのか、どう向き合って行くのかは、とても興味深い作品でした。役者さんがみんな凄いので、思わず泣いてしまうシーンもたくさんありました
知らなくてよかった
展開も想定内で淡々と最後までといった感じ。抗えないものもの重さからすれば突拍子もない展開も難しいのかなと。希望は里枝(安藤)や美涼(清野)の変化であり想いだけど、X(窪田)や谷口(仲野)は変えられる過去。城戸(妻夫木)だけは絶対的に変えられない過去であり、知ったことで「知らなくてよかった」と言えた里枝とは正反対になった城戸だけは、何も解決しなくてやるせない。過去にも今にも未来にも背いていかなければならない「ある人」って城戸のことかしら?
名前という呪縛
名前を捨てることの意味とはなんだろう。
男の死により炙り出される人間の暗部、そして人の目の恐ろしさと逃避行が徐々に紐解かれる。
その男が生きてきた人生の中、自分の意思で選択して生きることが出来た数年が彼にとって満たされたものであった事を残された家族が彼を想い訪れた公園でのやり取りが心に静かに沁みわたる。
その人の内実、中身を見るべき
名前、顔、アイデンティティ、変容の問題を取り扱った映画だと感じた。
ある男Xは、殺人者である父親と顔が酷似しており、そんな自分の顔、身体を嫌っているがどこに行っても「殺人者の息子」というレッテルを張られてしまう。自分の外見が嫌いな為ボクシングを始めたが彼の暴力性が褒められ、またレッテルを張られてしまった。自分の師匠や先輩に独白しても、誰も彼自身のことを見てくれなかった。
彼は色眼鏡、偏見の目で見られることなく、自分自身を見てもらうために「変わりたい」と強く願ったのだろう。そして彼はそんな彼自身をしっかりと見てくれる林業会社の人々、妻、家族に出会えた。城戸も作中で発言していたが、長崎での生活は彼にとって充実したものだっただろう。
Xと名前を交換した本物の谷口大祐も、何年たっても心配してくれていた元恋人に出会い涙を流す。この元恋人は、彼のことを見てくれていたからだ。
城戸自身もXのことを追いかけていくうちに、自分のモヤっとした部分を晴らしていったように思える。城戸もまた「在日朝鮮人」というレッテルを張られた人物だったのだ。真木よう子演じる城戸の妻(見ててイライラする)もまた城戸のことを全く見ていなかった。案の定浮気していたし。
映画の最後の場面を見て、非常に面白い構造、ストーリーだなと思った。城戸もまた今までの自分を捨てるために名前を変え、良い人生を送っていたように思える。
この作品で変容のきっかけとなっているのが、名前である。里枝の息子もころころ変わる苗字に困惑していた。自分は何者なのかと。それほど名前はアイデンティティの確立の上で重要なものである。
しかし矛盾してしまうが、名前は単なる記号でしかないこともこの映画は示唆していると思う。里枝は夫の素性が分かっても、自分が愛したこと、彼と過ごした幸せな生活に嘘はない、事実であると物語終盤で述べていた。また実際、「谷口大祐」という名前は、本物からXへ、Xから城戸へ受け継がれている。彼らは同じ名前を持っているが、決して同じ人物ではない。「谷口大祐」という名前は単なる変容のきっかけであり、偏見を持つ人に見せるための飾りでしかないのだ。
機会があったら、小説を読み映画も見直して、大学のレポートなどでもっと考察を深めたいと思う。
人とは
亡くなった男の素性が偽りであった事から始まる、人とは何なのかを問うヒューマンミステリー。
重いテーマの話ではあるが、物語の起承転結がはっきりとしているので観やすくなっている。
この作品では、「誰もがスタートラインは平等である」そんな綺麗事が言ってられない現実を突きつけてくる。親や環境など、生まれ持ったものが子供に与える影響は大きい。だが、それに子供は関与する事は出来ない。必死にその境遇で生き抜こうともがく。その先に今回の原と谷口がいたのではないか。
この問題は弁護士の城戸にも波及してくる。在日3世の彼は表には出さないが、苦労をしてきたのではないか。刑務所での「貴方は在日っぽくないですね。それはつまり在日っぽいということです。」という言葉。
一見何が言いたいのか分からないが、隠すのが上手いということではないかと思う。それはつまり隠さなければいけない感情があると言うことだ。
妻とのケンカの際に発した「何か落ち着く気がする」。この言葉には、彼の中に意識していない所で自分でも気付いていない感情が潜んでいる事を表している。
我々の関係を考えると双方の信頼によって、ともすれば、とても脆いシステムの上で成り立っていると感じされられる。相手が語ったエピソードがその人の人物像を作るが、それが本当かを確認するのは容易ではない。
城戸も不意に妻の浮気を知ってしまう。それまでの過程と合わさりラストの戸籍を交換したのではないかと匂わせるシーンに繋がっていく。
役者陣の演技も素晴らしい。2人の出会いの場面では、ほっこりするシーンが展開されるが、窪田正孝の時折見せる影のある表情がとても上手い。
脇を固めるのもでんでん、きたろう、柄本明ら名バイプレイヤー達。「PLAN75」での演技が記憶に新しい、河合優実も好演。
そして、眞島秀和の演技が素晴らしい。温泉旅館の跡取りとして、陽の当たるものを観る、最後まで日陰にあるものを観れない者として、演じきっていた。彼の存在で観客の立ち位置をハッキリとさせる事出来ていた。
物語が一段落したラストに観客に最後の問いかけがある。私達は誰の物語を観て、聴いていたのだろうか。
人には表と裏の顔がある
何ともシュールで不気味な絵画を捉えたオープニングショットから引き込まれる。男が鏡を見つめているのだが、そこに映るのは彼の正面ではなく後姿なのだ。これは一体何を意味しているのか?映画を観進めていくうちに、それが徐々に分かってくる。つまり、人は誰でも秘密を抱えて生きている、二つの側面を持っている…ということを暗に示しているのだろう。
大祐を名乗った”ある男”もそうであるし、彼の身元を調査する弁護士・城戸もそうであった。そして、服役中の戸籍ブローカー小宮浦、城戸の妻も然り。見えているものばかりが真実とは限らない。実は見えてない面にこそ真実がある…ということを本作を観て教わったような気がする。
物語は里枝の視点で開幕する。大祐との出会い、再婚、娘の出産、大祐の死までが軽快に綴られ、やや駆け足気味な印象を持ったが、それもそのはずで物語はここから本格化する。城戸の視点に切り替わり、大祐を名乗った”ある男”の素性を、つまり裏の顔を探るミステリーになっていくのだ。
キーマンとなるキャラクターが複数人登場して、彼らから城戸は様々な情報を得ながら”ある男”の正体に近づいていく。構成自体はオーソドックスながらよく出来ていて、グイグイと引き込まれた。
そして、この物語は城戸自身のアイデンティティを巡るドラマにもなっている点に注目したい。
実は、城戸は在日三世であり、そのことに少なからずコンプレックスを持っている。義父の差別的な発言やヘイトスピーチのニュース映像を見て、城戸は度々それを実感するが、この消せない血筋とどう折り合いをつけていくか?という、ある種社会派的なテーマが、ここからは感じられた。
在日三世の出自を隠して生きる城戸。凄惨な過去を捨てて大祐として生きた”ある男”。二人は過去から逃れようとする者同士、ある意味で似ている。やがて、城戸は”ある男”にどこかシンパシーを覚えていくが、これはごく自然のことのように思えた。
このあたりの城戸の心情変化を、説得力のある展開の中で表現した所が本作の優れている点である。その葛藤にしっかりと焦点を当てたドラマ作りに観応えが感じられた。
ただし、厳しい目で見てしまうと、幾つか演出と展開に「?」となる部分があり、少し勿体なく感じた個所もある。
本作は同名ベストセラーの映画化で、自分は原作未読なのだが、このあたりがどう処理されていたのか気になる。
例えば、最も引っかりを覚えたのは、城戸と妻の夫婦関係に関する顛末である。一連の捜査が一段落した後で語られるのだが、わざわざこれを付け足す必要があったかどうかというと疑問が残る。印象的だった映画のオープニングに呼応する形に持って行きたかったのだろう。それはよく分かるのだが、個人的には城戸の心理に余り納得できなかった。
他に、大祐の事故死のシーンは演出が淡泊なせいもあろう。どうしても不自然でわざとらしく感じてしまった。遺影の前で里枝と大祐の兄が「じゃあ誰?」と同時に呟くのも不自然に感じた。
キャスト陣は芸達者な布陣で組まれていたので安心して観ることが出来た。
安藤サクラは相変わらず巧演であるし、妻夫木聡も今回は抑制を利かせた演技で好印象。そして窪田正孝が意外に肉体派であったことに驚かされた。一方で、コメディリリーフ担当としてタレントを起用しているが、こちらはどうしても普段のイメージがあるせいで作中から浮いて見えてしまったのが残念である。
生まれた瞬間始まる呪い
窪田正孝さん演じる大祐は有名旅館の息子でありながら田舎に引っ越し林業に就き、家庭を築くところから話は展開していくが、序盤で役所の職員が放った言葉がこの映画の核心だと思う。
私もごく普通の戸籍と家族を持ち育ってきたわけだが、この映画を鑑賞しながら、私の在日の友人が在日であることに悩んでいたことをふと思い出した。以前に、その友人は誰か有名人の人生をくれれば私は絶対にうまく生きられると言っていたのだが、それは自分の境遇を脱ぎ捨て生きたいという意味だったのかな、と思う。私にはその苦しみはなんとなくピンとこないが、この映画にあることは無いことはない話だと思った。
生きることを困難にする境遇は、生まれた瞬間から永遠にまとわりつく呪いなんだろう。
背を向けて何処へ
原作は読んでいません。
◉静かな場所へ逃げる男たち
戸籍交換の仲介人(柄本明)に頼んで名前を差し替えることで、人生も変えようとする男たち。しかし、人生をやり直すと言うよりは、むしろ人生を消して、世界の片隅で生きていこうとする。犯罪者でもないのにだ。
原誠(窪田正孝)は残虐殺人犯の父を持った息子の悲哀に押し潰され、谷口大祐(仲野太賀)は旅館のうだつの上がらない次男坊の鬱屈を抱えて、それぞれに逃げ出して静かな場所を目指した。
そうした男を演じた窪田正孝は良かったと思います。ボクサー役が上手かったかどうかは別にして、トレーニング中も試合中も、闘いとは離れた静謐感を漂わせていた。つまり寂しい男を表象していた。
◉薄らいでいく曇天
それでも谷口大祐は恋人とのわだかまりを解き、原誠は最後は不慮の事故で命を落としたとは言え、わずかな歳月、幸せな家庭に恵まれた。
弁護士の調査が進捗して、二人の男の辿った道筋が明らかになっていく。谷口はおびき出されるかっこうで恋人と再会できて、心の灰色の空も晴れただろう。仲野太賀の優しく頼りない感じが良かった。
原の曇り空も、里枝(安藤サクラ)と子どもとの暮らしの中で、ほとんど消えてしまったはずだ。微妙ではあるけれど、ハッピーエンド。
親にしてもらいたかったことを、自分にしてくれたと呟いた息子が生意気ながら、いじらしい。
◉在日コリアン弁護士の憂鬱
すると、この作品の背景に曇天のように垂れ込めていた(と強く感じた)憂鬱は、誰のものだったのかと言う問いかけの答えは……。やはり、弁護士城戸(妻夫木聡)のものですね。
戸籍交換の仲介人に在日コリアンの生い立ちを見抜かれ(ここはかなり唐突過ぎて不自然だけど、強引に納得させる柄本明の圧はさすが)、妻の親との口にできない断層を感じ、妻との思いや考えのズレに悩む。遂には妻の不倫の兆しすら現れる。
社会的には陽の当たる場所に居て、弁護士としての実績も優れているのに、城戸は不安に苛まれる。俺の落ち着ける居場所は何処にもないじゃないか?
そこにありそうなのに手に入らないものに対する叫び声を、必死で呑み込もうと堪える妻夫木の端正な顔。
ただ、在日の外国籍の人たちの拠り所の無さや怨み辛みは、もっと執拗に描かれても良かった。そのため、この作品の基本色であったはずの灰色の重苦しさが、もう一つ胸を押してこなかった感じです。
もう一度、窪田正孝。画材を幾度も買いに訪れて、安藤サクラにぼそっと、友達になってくれますか?
今更、中学生か! と突っ込みながら、優しさが故に脆弱であることも、時には悪くないのかも知れないなどと、頷いておりました。
背負うもの
豪華なキャストの作品という事で期待値を上げての鑑賞 👀
窪田正孝さんの熱演、眞島秀和さん、妻夫木聡さん、安藤サクラさんの安定の演技、真木よう子さんの艶やかな美しさ…見応えが有りました。
文具店を営む実家に戻り、自身の母親と同居する結婚経験のある子供を持つ女性が、再婚相手の家族と一度も会わずに籍を入れた事に違和感を覚えました。
ラストは、バーの中だけのなりすまし、と理解したのですが、どうなのでしょう。
映画館での鑑賞
面白いけど、よくわからない
ちゃんと解決してるんだけど…。
言いたいことは何となく伝わったんだけど、それだと最後のバーのシーンがいらない感じがする。
謎解きも最初と最後がわかった後に間がわかるのが何となく謎解き要素が薄い。
全体的にスッキリしない。
とても面白いミステリー映画でした。 息子を亡くして日々意気消沈して...
とても面白いミステリー映画でした。
息子を亡くして日々意気消沈して過ごしていた安藤サクラさん演じる里枝は故郷の文具店で働いていたが、そこにある男が画材道具を買いに通うようになり、二人は徐々に仲良くなっていきやがて結婚するが。その男は群馬県の伊香保温泉の次男坊という経歴と妻の里枝には話していたが、男が仕事中に不運な事故で亡くなってしまったことをきっかけに、その男が実は違う経歴だったことがわかり、その調査をしていくことになり。
とても良くできたストーリーで、最後まではらはらと楽しむことができました。
映画の終盤の里枝の「全部分かってから言うのもなんですが、本当はどんななんだって、どうでもよかったんだなとわかりました。だって、私が彼と過ごした二年半の日々は事実だったんだから」と言うセリフはとてもよかったなと思いました。
妻夫木聡さん演じる弁護士の城戸も自身の出自からこの事件に自身を重ねたり、また男自身の壮絶な人生が描かれていたり、人生についてしっかりと向き合いさせてくれる内容でした。よかったです。
ミステリーと差別と家族愛
短時間でとても丁寧にまとめられていました。
安藤サクラ演じる家族パート
小籔が出てくるミステリーパート
妻夫木の家族と差別パート
この要素をまとめるのは大変だったろうなと思います。
安藤サクラが再び登場したとき、「あ、そう言えば出てたんだ」と思ったくらい、それぞれのパートが濃厚でしたね。
冒頭の安藤サクラの涙のシーン、そして柄本の演技は圧巻でした。本当に「食う」という表現が合うと思います。めちゃくちゃ印象に残りました。窪田さん、でんでん、皆さん演技素晴らしかったです。妻夫木さんは下手ではないけど凄い上手くもないので、小籔出てなかったらヤバかったですね。
妻夫木演じる主人公が、事件を通して自分自身の中にある在日差別への感情や、家族との距離感に気付いていって、最後には自らも過去を全て捨ててしまうという決断に至るというのが、見ていて本当に自然と理解出来ました。苦しかったんだろうなあ、と。
いくつかちょっと無理があるところもありました。特に親子で同じような絵を描くというのは、ありえないかなと。死刑囚の心理状態から来る表現と、その親を憎む子供の絵が一致するのは変ですね。
ミステリーとしての完成度は低めだと思うので、いっそのこともっと簡単に判明させても良かった気がしました。欲張り過ぎかなと。
伊香保、宮崎、東京と舞台を移しながら、象徴的なバー、刑務所、桜と、見ていて飽きさせなかったです。ところで刑務所はブローカーの収監にしては厳重でしたね。柄本なので超凶悪犯に見えてしまうので不思議です。
音楽も良かったですね。映画らしい映画でした。石川監督の地力を感じました。
今後も注目したいと思います。
後を引く,考えさせられる映画
解りやすそうで難しく,後を引く映画でした.
登場人物全ての設定と演技が非常に良かった.小藪さん演じる同僚弁護士は,映画全体が重苦しくなるのを防ぐ重要な役なのかと思いました.
城戸弁護士は,刑務所で接見した柄本明さん演じる詐欺師に,「あんた韓国人やろ.顔をみたら分かるわ」(セリフを正確に覚えていないので,こんな感じのこと)と,いきなり言われてしまう.大祐探しとは無関係のことなのだが,詐欺師はそれに執拗にこだわった.これまで,妻の家族にも在日3世であることを話題にされたりしていたが,やはりこの詐欺師の言葉が,城戸弁護士の心の歯車をカチャッと狂わせるきっかけになったのかなと思いました.
ここでの柄本明さんの演技はすごいと思います.
最後のスナックでの会話シーンの解釈が難しい.
自分が植えた木は,生きているうちには収穫できない.子供の世代に託していく.
これが意味するのは,他の誰かに入れ替ることの功罪は,次の世代で判断されるのか.
大祐が,自分が切った木によって命を落とすことの理由に絡むのかなと思います.
人は変わることができるという言葉が,なんとも軽く聞こえるように思いました.
他にもたくさんの名場面がありました.良い映画だと思います.
九州で暮らすシングルマザーの谷口里枝(安藤サクラ)。 夫と暮らした...
九州で暮らすシングルマザーの谷口里枝(安藤サクラ)。
夫と暮らした横浜から離婚後、実家に戻り、役所勤めしながら実家の文具店を手伝っていた。
ある日、文具店にスケッチブックを買いに来た青年(窪田正孝)がいた。
どことなく暗い感じで、どこか他所からこの町に来たらしく、いまは山仕事の見習いのようなことをしている。
暗い感じだったが、無口で誠実なところがあり、しばらくして彼は里枝に自分が描いた絵を見せ、谷口大祐と名乗った。
絵には、神社で遊ぶ里枝の一人息子が他の子どもたちと一緒に描かれており、それがきっかけで二人は交際するようになり、やがて結婚、ふたりの間にもうひとり娘を授かることになる。
が、不幸にして、彼は伐採作業の際に事故を起こして、倒木の下敷きとなって死亡してしまう。
一年後、一周忌の後、彼が生家と言っていた北関東の温泉宿に連絡をし、彼の兄という人物・谷口恭一(眞島秀和)が訪ねてくるが、仏壇の写真をみた恭一は「写真の人物は弟とは似ても似つかない・・・」という
といったところから始まる物語で、その後、里枝が離婚の際に世話になった弁護士・城戸章良(妻夫木聡)に連絡し、大祐と名乗っていた男性の素性を調査することになる。
ミステリの物語としては、宮部みゆき『火車』などで描かれた戸籍交換の物語で目新しさはありません。
そう、目新しさはないんです。
谷口大祐と名乗っていた人物の素性が殺人犯の息子というのもテレビの2時間ドラマで幾度となく登場した設定で、新しくはありません。
だからといって、この映画がつまらないかというとそうではなく、常に観ている側を不安に陥れてくるあたりが興味深く、その原因がどこにあるのかを考えながら観ました。
観ている側を不安にする要素は、ずばり「アイデンティに対する不安」「自己存在に対する不安」です。
自己存在に対する不安といっても、いわゆる自己肯定感の乏しさ、自己に対する承認欲求への不満とかというものではありません。
アイデンティを、理系的に分析したというか、そういうところです。
少々七面倒くさい話になりますが、大学時代にスイスの学者ソシュールの記号論を学びました。
言語や記号はふたつに分解でき、
ひとつは、言語は音声、記号ならばその形象(シニフィアンといいます)
もうひとつが、その音声・形象が指すイメージ・概念、ないしその意味内容・本質(シニフィエといいます)
です。
記号論を推し進めると、いわゆる音声・マークなど記号のほかの物事を、シニフィアンとシニフィエに分解することができる、というものです。
(かなり昔に習ったことなので、現在は変化しているかもしれませんが)
さて、自己のアイデンティというものも、シニフィアンとシニフィエに分解が可能で、
名前はシニフィアンで、自己の本質的存在はシニフィエと言えます。
窪田正孝が演じた男の最終的なシニフィアンは谷口大祐で、
谷口大祐には「老舗温泉宿の次男坊」というプロパティ(属性、付属的性質)があります。
しかしそれは男のシニフィエではありません。
シニフィエは、殺人犯の息子というプロパティに苦悩して生きてきた「暗いけれど誠実な男性」です。
しかし、多くのひとびとは殺人犯の息子というプロパティを、男の本質だと見誤ってしまう・・・
そして、谷口大祐の過去を調査するうちに、自身のアイデンティに不安を感じる男が、弁護士の城戸章良。
彼のプロパティは、人権派弁護士のほかに、在日韓国人三世というものがあります。
(柄本明演じる戸籍ブローカーの言では「男前の」というのもありますが)
その城戸は、調査の過程で自身のアイデンティのシニフィエを見失っていきます。
(「暗くはないが明るくもない、が誠実な男」といったところでしょうか)
ここが怖いところです。
表層と属性に惑わされて、自己の本質を見失う・・・
何々社の誰それさん、どこどこのパートさん、誰それのおとうさん・おかあさん、
何々で活躍したひと、何々でしくじったひと・・・
それらは本質じゃない。
じゃないけれど、それらが持つ意味は社会的に大きい。
そして、自己の本質を見失う不安が常にある。
そういう意味で、観る側を不安にさせる映画でした。
<追記>
この映画を観ている間のわたしは「映画を観ているひと」であり、それ以外の何者でもありませんでした。
ミステリーより人権とかの印象
締めが自分の好みじゃなかった分▲。
原君の思い的なのもう少し大切にして欲しかった。
丁寧に描写してるんだろうけど冗長にも感じた。
戸籍レンダリングは面白かったし、柄本父はやっぱ迫力ある。
社会問題を巧みに取り入れた上質のミステリー
谷口里枝(安藤サクラ)の再婚相手、大祐(窪田正孝)が事故で亡くなり、疎遠だった大祐の兄に連絡して葬儀に来てもらうと、亡くなった大祐は本当の大祐ではなかった。そんなミステリアスな出来事を、弁護士の城戸(妻夫木聡)が解き明かしていくミステリーでした。
非常に評価できるのは、近頃国会などでも話題になることが多い「ヘイト」の問題や、自分が自分であることを証明することの難しさなど、「謎解き」というミステリーの娯楽要素に留まることなく、現実の社会問題を物語に巧みに取り入れていたこと。流石は芥川賞作家である平野啓一郎原作と思わせる展開でした。
役者陣では、刑務所に服役している詐欺師役を演じた柄本明が、相変わらず不気味な笑みを浮かべつつ物語の鍵となることをしゃべっていたのが良かったです。
また物語的にも、亡くなった夫が誰であるかが解明されて一定の平衡状態を取り戻した里枝や、本当の大祐とは裏腹に、城戸が家族の崩壊危機に陥ってしまうラストは、人生の浮き沈みを象徴しているようで、印象的なものでした。
物語よし、背景もよし、演技もよしということで、評価は★4としたいと思います。
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