劇場公開日 2020年6月5日

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デッド・ドント・ダイ : インタビュー

2020年6月4日更新

ジム・ジャームッシュ、豪華キャスト集結の新作語る「多くのゾンビたちが僕らの周りに溢れている」

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かつてない、豪華でとぼけたゾンビ映画。新作「デッド・ドント・ダイ」を一言で表すなら、そんなところだろうか。インディペンデント映画界の重鎮、ジム・ジャームッシュ監督が、ビル・マーレイアダム・ドライバー、クロエ・セヴィニー、ティルダ・スウィントンら、お気に入りの常連俳優たちを集めて作ったゾンビ・コメディは、ジャームッシュの「コーヒー&シガレット」にジョージ・A・ロメロのスピリットと少々の血を足して、ブーストさせたような作品である。メインのテーマ曲以外は音楽も、「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」や「パターソン」同様、ジャームッシュ自身のバンド、Squrlが担当している。画面の隅々までジャームッシュ・テイストに彩られた本作の心を、彼に聞いた。(取材・文/佐藤久理子)

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一見どんなに風変わりに見えても、映画とは多かれ少なかれ作り手が身を置く社会を反映している。ゾンビ映画とジャームッシュの組み合わせは意外に思えるが、彼の意図を聞くと、なるほどと目から鱗が落ちる心境になる。

「僕の最初のアイディアは、ゾンビ・アポカリプス・ムービーを僕の好きな俳優たちと作ることだった。なぜゾンビだったかと言えば、今日の人間の在り方がいろいろな意味で、よりゾンビ化してきているんじゃないかと思えたから。自分のことしか考えない、エゴイスティックな生き方だよ。たとえばいまの物質主義、消費社会によって、僕らは地球にダメージを与えているのに、それに気付かない、あるいは関心がない。そういう生き方が僕にはゾンビと共通していると思えてならなかった。

実際多くのゾンビたちが僕らの周りに溢れていると思う。テレビばかり観ているテレビゾンビ、スマホ中毒のスマホゾンビやコンピューターゾンビ、マネーゾンビとか。こういう思いがそのまま、この映画のなかに登場するゾンビたちに反映されている。そういえばこの映画のなかで、マネーゾンビを扱うのを忘れたな(笑)。しょっちゅう『マネー! ダラー!』と言っているような、マネーゾンビも登場させればよかった(笑)」

ただし本作はあくまでコメディであり、説教くさい解説を観客に押し付けるつもりはないという。

「僕にとってこれはコメディ。『コーヒー&シガレッツ』みたいに、他愛ない会話とジョークの詰まった軽妙な映画を作りたかった。ちょっとダークかもしれないけれど、希望は込めたつもりだ。ここには人種差別主義者も出てくるが、ナイスな奴だっている。たとえば(ウータン・クランRZA演じる)宅急便の配達人はこう言う、『この世界はパーフェクトだ。小さなことにも感謝すべきだ』と。僕はそういう気持ちのあり方がとても美しいと思う。ともあれ、いろいろなところに笑いのネタがあるし、観る人それぞれの見方で楽しんでくれればいい」

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独特のユーモアとともにこの映画の特徴であるのは、なんといっても豪華なキャスト陣だろう。これだけの面子を「ゾンビ映画」に集められるのは、やはりジャームッシュならでは。彼がなぜここまで俳優たちに愛され、信頼されるのか。それは作品の個性はもとより、彼自身の人柄と俳優との接し方にもあるようだ。

「それぞれの役は、最初から彼らのことを頭に描いて書いた。そのあとみんなに脚本を送って、正式に返事をもらったんだ。イギー・ポップには脚本を書く前に電話をして、ゾンビを演じてもらえないかと訊いたよ。『そいつはクールだ』と、すぐにノってくれた。ビルはふだんなかなか首を縦に振らないらしいんだけど、なぜか僕の作品にはいつも出演してくれるんだ(笑)。ティルダの場合は、自分から役のアイディアを出してくれたから、取り入れさせてもらった。

ただし実際の撮影は時間がなくて、しかも寒い時期で僕が風邪を引いてしまって、すごく大変だった。予算を集めるのに時間が掛かったおかげで、とくにアダムのスケジュールが『スター・ウォーズ』との兼ね合いでタイトになってしまってね。彼には本当に感謝している。とても集中力のある俳優だよ。

ビルはオフのときはコントロールできない、予想のつかない行動に出る人だけど(笑)、撮影ではそんなことはない。即興をしても、プランに影響が出るようなことはない、繊細な範囲でやってくれる。逆にトム・ウェイツクロエ・セビニーは、こっちが『何か付け足したいことはある?』と訊いても、脚本に書かれた通りにやりたがるタイプ。俳優はひとりひとりまったく異なる人間だ。だから彼らを尊重して、こちらのアプローチも人によって異なるように対応しなければだめだと思う」

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さらに、ジャームッシュ映画において重要な役割を果たす音楽も忘れられない。なんといっても彼自身がミュージシャンであり、Squrlというバンドで本作の音楽も担当しているのだ。ゆるゆるとしたテンポのなかにどこか不安が漂う、独特のトーンを生み出している。

「今回は感覚的にちょっとダークで不気味で、アクセントのあるものにしたかったんだ。ディズニー映画のような大仰なものじゃなくてね(笑)。最近はけっこう映画音楽に気持ちが向いていて、毎日家で音楽を作っているよ。ロビー・ミューラーについての新作ドキュメンタリー(Claire Pijman監督の『Living the Light Robby Muller』)にも音楽を付けた。

ただ「デッド~」では、メインテーマの「デッド・ドント・ダイ」をスタージル・シンプソンにお願いした。もともと彼のクラシックなカントリー・ソングが好きだったから。最初は既存の彼の曲を当てこんでいたんだけど、許可を得るために連絡をとったら、それならオリジナル・ソングを書くと言ってくれたんだ。最高にクールな曲を提供してくれて、とてもハッピーだよ」

やはり誰からも好かれる、(いい意味で)人たらしな監督である。

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