象は静かに座っている

劇場公開日:

象は静かに座っている

解説

中国北部の地方都市に暮らす別の境遇にいる男女4人の1日を4時間近い長尺で描き、第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンションを獲得した一作。監督のフー・ボーはこれがデビュー作だったが、作品完成直後に自ら命を絶ち、遺作にもなった。かつては炭鉱業で隆盛しながらも、今では廃れてしまった中国の小さな田舎町。友達をかばった少年ブーは、町で幅を利かせているチェンの弟で不良の同級生シュアイをあやまって階段から突き落としてしまう。チェンたちに追われて町を出ようとするブーは、友人のリンや近所の老人ジンも巻き込んでいく。それぞれが事情を抱える4人は、2300キロ離れた先にある満州里にいるという、1日中ただ座り続けている奇妙な象の存在にわずかな希望を求めて歩き出す。

2018年製作/234分/中国
原題:大象席地而坐 An Elephant Sitting Still
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2019年11月2日

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(C)Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

映画レビュー

3.5象は二度と立ち上がらなかった

2023年3月24日
iPhoneアプリから投稿

死の匂いに包まれた山中の寂れた街。シャローフォーカスのぼやけた視界によって記名性を剥ぎ取られた風景は、どこにでも存在しうる普遍的な空間として我々に提示される。満州里にうっすらとユートピアの幻想を抱くブーを、ジンは「どこへ行こうが変わらない」と諭す。

劇中では街の狭間でそれぞれに固有の懊悩を抱える人々の姿が描き出されるが、彼らの苦悩もまたありふれたものに過ぎない。チェンの彼女は不幸な己の感傷を並べ立てる彼に向かって「そんなのは誰だって同じ」と言い放つ。

自己否定や自己憐憫は、自分を素直に肯定できなくなってしまった者が自他の境界を策定するために用いる苦肉の策だ。だがそれさえもがありふれたものだという。苦しみは兌換紙幣で、俺の苦しみはお前の苦しみだ。ゆえに俺とお前は同じ人間。とすれば「俺」なるものも「お前」なるものも存在しない。じゃあ俺が生きてる意味って何?

(そんなものは、無い。)

何もかもが意味を成さない絶対的な虚無世界。そこから抜け出せるかもしれない唯一の手段は死ぬことだ。死後の世界もまた虚無だとしても、生きながら虚無を感じ続けるよりは遥かにマシだ。死は救済。死ねば楽になる。

しかしその単純明快な悟りを受け入れられず、人々は迂回と遅延を重ねる。窓から外へ出て玄関に回り込んでみたり、怪しい切符転売人に付いていく途中で立ち止まってみたり。あるいは「俺の気持ちは誰にもわからない」と強がってみせたり。だが死の欲望は抗いがたく押し寄せる。誤射に脚を撃ち抜かれたチェンが苦悶のあわいに浮かべる笑顔。

生への転轍点を通り過ぎてしまった物語は、したがって死へと急速に直進する。ブーとリンとジンは夜行バスに乗って満州里の動物園を目指す。

満州里の動物園にいるという一日中座ったままの象。それは死のアレゴリーだ。4本の脚で3トンもの自重を支えている象は、一度座ると再び立ち上がるのに大変な労力を要する。老化や怪我で身体機能の落ちた象などは座ったが最後、二度と立ち上がれずにそのまま死んでしまうことも多いという。つまり一日中座ったままの象というのは、死期の迫った象であるといえる。

真っ暗な闇夜の中、バスを降りた乗客たちが象の鳴き声を耳にする。そこで映画は幕を閉じる。

本作を撮り上げた直後、監督のフー・ボーは自ら命を絶った。世界を覆う虚無の前に跪いた彼が立ち上がることは、二度となかった。

俺自身はこの映画の言いたいことに納得できない。仏にこんなことを言うのも酷だが、生きていることや自己存在の意味について、もっと長い時間をかけて考えてみてもよかったんじゃないか。「俺」と「お前」を分かつ何かが本当はあったんじゃないか。生への転轍点を実は見落としていたんじゃないか。そんなことを思ってしまう。

彼の死の原因が何であるかはわからない。理由を問おうにも既に当人がこの世にいないのだから。ひょっとしたらその不可侵性だけが自己存在の絶対的な刻印になると考えてのことかもしれない、がこれも邪推だろう。

いずれにせよ29歳というのは若すぎる。彼の作家的軌跡をもっと追いかけたかった。

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因果

5.0人はなぜこのような街を作ってしまったのか

2021年11月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
ネタバレ! クリックして本文を読む
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redir

5.0【世の中は、悪意と嘘と”偶発的な不幸”に満ちている。それでも、僕らは”逆境下でも生き抜く”信念を持って生きていく・・。】

2021年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

幸せ

ー 満州里の動物園に行かないか?。何に対しても、何が起こっても、悠然と座っている象を見るために・・。ー

◆感想

 1.4時間越えのストーリーを、飽くことなく一気に魅せる、瑕疵なき脚本の素晴らしさ。

 2.それは、何の関係性もないと思われる、”居場所のない””虚無感漂う””生きる術を見失った”老若男女たちを、見事に一つのストーリーに収束させる、ストーリーテリングに尽きる。

 3.各パートごとに、主要人物にフォーカスし、背景は暈した撮影技法。そしてそれが、観客に及ぼす”様々な想像を掻き立てる”手法の見事さ。

 4.色彩トーンも、限りなくモノクロに近く、登場人物たちが抱える、世に対する怒り、絶望、諦観を表現した世界観を醸成している。

 5.メイン役者さんたちの、抑制した演技も鑑賞後に、深い余韻を残す。

<今作に関しては、敢えてストーリーには触れない。
 エンドロールでも流れるが、これほどのハイレベルの長編を監督第一作として、世に出しながら早逝してしまったフー・ボー監督に敬意と共に弔意を捧げます。>

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NOBU

4.0魔力のある映画

2021年2月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

1中国の地方都市で暮らす、トラブルを抱えた4人の男女が、ある共通の場所に向かう姿を描く。

2ストーリーは、4人の男女にそれぞれトラブルが発生し、いずれもが苦悩・絶望し街を彷徨い、その最中に偶然ある場所のことを知り、救いを求めるかのように其処に向かう 。
4人のエピソードが時間の経過とともにほぼ順番に描かれるが主人公ともいうべき男子高校生を核に、4人が劇中で関わっていく。

3 演出面での特徴的なこととしては、➀各シーンが長回しでカットや登場人物のセリフが少なく、動きやセリフの間がゆったりしていて、そのテンポの緩さから最初は投げ出したくなること。②フィルターを掛けて撮っているのか?色合いが終始暗色がかっていて話の内容に合わせたかのように陰鬱である。③パンフォーカスしていないため、中心の被写体以外がピンぼけしており、視野の狭さを暗示しているのだろうか?

4とても暗い映画であり、4人の置かれた状況は救いがたく、また街を漂流する姿は絶望感に満ちている。それは、現在の中国の市井の人々が耐え難い諸問題(喧騒でごみごみした都市生活、埋めがたいほどの貧富の格差の拡大、高齢者の孤独、中央政府に統制され自由のない社会体制・・・)を抱えながら生活せざるを得ない現況を表しているかのように覚える。

5この映画は、最初の苦痛の時間を我慢して見続ければ、次第にテンポに慣れてきて話の構成もスリリングなものになり、4時間超えの長尺だけど旅の最後まで見届けようとさせる、そういう魔力がある。

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