劇場公開日 2018年6月16日

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「フジコ おばあちゃま」フジコ・ヘミングの時間 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0フジコ おばあちゃま

2023年9月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

僕は、特別養護老人ホームに勤めていました。
その経験からお年寄りの晩年と、円熟期の生き方、その存在の在り方にはとても興味があります。

その頃、僕は音楽をやりながら特養ホームに勤務していましたので、人生の最終盤で奏でられた老音楽家たちの「遺作」など、僕は楽譜を取り寄せてはずいぶんと鍵盤に向かって練習をしたものです。それは仕事の中身と相まってのことでした。

メロディは当然のこと、その楽曲の構造と、隅々から聴こえてくる作曲家たちの“老いた姿”と “しわがれた声”が、僕はなんとも好まれて、興味が尽きません。

パイプオルガンを弾きながらホームで介護をし、一日一日お年寄りのお世話をして、そうして彼ら彼女らをお見送りしながら、帰宅してまた楽器と楽譜に向かう。
命を確かめる演奏を見つけたい ― そういう生活を続けていました。

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鬼滅の刃
煉獄杏寿郎の言葉
「老いることも 死ぬことも 人間という儚い生き物の美しさだ 老いるからこそ 死ぬからこそ 堪らなく 愛おしく尊いのだ」

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輝ける3老人の3つの曲をご紹介しましょう ―――――――――
◆ バッハの最後の曲と、
◆ ブラームスの最晩年の曲と、そして
◆ フジコ・ヘミング!!!
(当サイトの規則により残念ながらURLが貼れませんので、以下語句検索でYouTubeにヒットさせてご試聴下さい)

◆まずはイングリット・フジコ・ヘミングから、
ご存じ、フジコの演奏はリストの「ラ・カンパネラ」が大変有名なのですが、僕が最も愛する演奏はこれですね。彼女にこれ以上の演奏はありません。
リスト作曲「consolation コンソレーション」です。
親友ショパンの死の報に接し、悼む心でショパンのために書いた「コンソレーション(=慰め)」。リストの五線譜にショパンの魂が溶け込みます。
清らかさと悲痛の極致。
リストとショパンとフジコが、まるで三人で、魂で連弾しているかのようです。
⇒YouTube動画 語句コピー検索↓
[ フジ子•ヘミング リスト コンソレーション ]
注:薔薇の写真の動画がオススメです。

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本作品「フジコ・ヘミングの時間」は、
フジコ・ヘミングの残り時間と、彼女が生きてきた時間と、
それらに出会わせてもらえた僕の今日という時間にとって、素敵なドキュメンタリーだった。
フジコおばあちゃま!そのお姿は、もうほとんど猫になってきているじゃない!?(笑)
そのまま四季の「キャッツ」に出られます。

たくさんの人を見送ってきただろう。
フジコ・ヘミング、どうか長生きして。

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追記:
エンドロールが特別重たい。
家族の元を去った 行方不明の父親の作品 (=日本郵船のためにデザインしたポスター) の実物と対面をし、
「こういうものを作れた父はそんなに悪い人ではなかったようだ」とつぶやく娘フジコ。
どれだけの苦労をしてきたか、
父親への想い=帰って来なかった父親への、積った想いが、
娘の口からこぼれた瞬間でもあったなぁ。

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以下、
《人生を閉じる日の音楽》にご興味のある方は動画検索なさってください

【バッハ】
1750年7月28日没。
白内障の手術が失敗。目が見えなくなっていたバッハが65歳の時、
臨終の床において、枕辺に呼んだ弟子に口述筆記で書き取らせたのがBWV668=
オルガン曲「汝の御座の前に われは今進み出で」Vor dinen Thron tret' ich hiermit
⇒YouTube動画 語句コピー検索↓
[ J.S.Bach - Choral Prelude, BWV668 (A.Shweitzer) ]
シュヴァイツァー博士の演奏でどうぞ。
5'45 モノラル録音
メール(大海)だ!とベートーヴェンはバッハを語ったけれど、バッハは死んで、静かなせせらぎ(Bach=小川)に戻りました。
特養ホームでの僕の上司=野村実ドクターは、あのシュヴァイツァー博士と一緒にアフリカの病院で働いた人でした。

【ブラームス】
1897年4月3日没。
盟友シューマンの死後に、その妻クララをひたすら愛し、クララに認められるべく圧倒的大曲を発表し続けたヨハネス・ブラームス。
寡婦と子らの生活を物心両面でずっと支えたが、しかしプロポーズに破れて生涯独身を通す。
晩年、クララの葬儀に間に合わず、失意のブラームスはそこから残された最後の1年に=死の前年に、がんの闘病中、彼が最後に書いたオルガンの小曲。
その悟りと、素朴さ。そこにあるのは最早かつての大樹の様ではなく、自叙伝の最後のページに押しはさまれて、思い出の“押し花”になった彼。
作品118、「11のオルガンコラール前奏曲」から第11=
終曲「おお、この世よ、われ去らねばならず」
⇒YouTube動画 語句コピー検索↓
[ 11 Chrale Preludes, Op.122: No11, O Wert, ich muss dich lassen /ROBERT BAITES ]
3'51

きりん
マサシさんのコメント
2023年9月14日

ケスへのコメントありがとうございます。
当該作品のレビューに共感します。
僕は音楽と映画が大好きですが、才能がなくて。
音楽を奏でられるとの事。大変に羨ましいです。かつて、アルト・サックスとギターをやった事があるのですが、オジキに『お前には才能が無い』と言われそれから手を出していません。
大変に羨ましいです。

マサシ
NOBUさんのコメント
2023年9月3日

こんにちは。共感有難うございます。
 きりんさん、フジコ・ヘミングさんの事、お詳しいのですね。
 私はこの映画を観るまで知らなかったのですが、凄い女性が居るもんだな!と感じた事を思いだします。
 きりんさんの優しさが滲み出るレビューは、特別養護老人ホームで働いていた事が、バックボーンにあるのですね。
 酷暑厳しき折、御身体ご自愛ください。(お互いに・・。)では。

NOBU
ミカさんのコメント
2023年9月3日

きりんさん、ありがとうございます。おすすめ聴きました。心が落ち着きながらもどこかに(天国)連れて行ってくれそうな音ですね。老年期は読者が難しそうなので、音楽を聴くのがベストだと思います。映画だけは晩年まで見続けたいですね。

ミカ