劇場公開日 2015年3月6日

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妻への家路 : インタビュー

2015年3月4日更新
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高倉健さんも称賛 名匠チャン・イーモウが描く、切なく強い夫婦愛

世界三大映画祭で受賞経験があり、2008年の北京五輪開会式の総合演出を担当、今年は初のハリウッド作「万里の長城」を手がけるなど、中国を代表する名匠として知られるチャン・イーモウ監督。農村を舞台にした珠玉の人間ドラマから、「HERO(2002)」のような任侠大作までその作風は幅広いが、記念すべき20本目に製作されたのが、かつての公私に渡るパートナー、コン・リーを主演に迎え、文化大革命で引き裂かれた夫婦の絆を描いた愛の物語「妻への家路」だ。来日したチャン監督が、作品に込めた思いとともに、日中合作映画「単騎、千里を走る。」(06)で主役に起用した高倉健さんとの思い出を語った。(取材・文・写真/編集部)

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文化大革命が終結した1977年、収容所から解放されたルー・イエンチーは、妻のフォン・ワンイーと再会する。しかし、夫を待ちわびるあまり、心労から記憶障害となっていたワンイーは、イエンチーを夫だと認識することができなかった。妻の記憶を取り戻そうと様々な試みをするイエンチーと、心の中で夫を待ち続けるワンイーの夫婦愛を叙情的に描きだす。ワンイーをコン・リー、夫のイエンチーを名優チェン・ダオミンが演じる。

チャン監督の初監督作「紅いコーリャン」で女優デビューし、現在は国際的に活躍する大女優となったコン・リーと、「王妃の紋章」以来8年ぶりに再タッグを組んだ。監督20作目にかつてのパートナーを起用し、そして監督が個人的に思い入れの深い時代をテーマに選んだ理由をこう明かす。

コン・リーと再び仕事をしたことということでも記念すべき作品になりましたし、もうひとつは、映画の背景になった文化大革命の時期は、私が16歳から26歳だった忘れられない時代であり、その記憶を映画に込めたのです。また、今の中国ではこういった題材を扱った作品が非常に少なくなっています。多くが若い人向けの娯楽的な作品で、興行収入は良いですが、文化的、思想的には昔の中国映画と比べて物語が薄くなっています。そういう時代にあって、この作品を撮れたことに意味があると思います」

著しい経済成長に伴い、現在中国映画界はバブル状態だと言われているが、チャン監督はその問題点を指摘する。「ここ数年、映画監督になることの敷居が低くなっており、資金を出してくれる人さえいれば、誰でも映画を撮れるのです。これは、私が監督になった頃と大きく異なります。若い新人監督が成功すると、大企業が同じようなものを作ろうとするのです。映画監督という仕事は、ただお金を稼ぐためにあるものではなく、映画で意味のある物語を語ることが大事なのです。ですから、監督という仕事はもう少し求められる基準が高くあるべきだと思うのです」と持論を語る。

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本作は小説を原作とする文芸作品で、派手な演出は一切ないものの、本国では興収3億元(約57億円)というヒットを記録した。文革時代の悲劇を扱っているが、普遍的な夫婦愛を描いたことが多くの観客の心をとらえたのだと分析する。「文化や社会の背景は違っても、愛する人をじっと待ち続ける作品はたくさんありますよね。ですから、日本の観客の皆さんにもよく理解していただけるのではないでしょうか」

高倉健さんが主演した「単騎、千里を走る。」のヅォウ・ジンジーが脚本を手がけており、愛する人を待ち続ける人間の心のひだを丁寧に描いた本作を、高倉さんもきっと気に入ったのではないだろうか。チャン監督は、今回の来日で「単騎、千里を走る。」にかかわった日本の友人を通じ、高倉さんからのメッセージを受け取ったと明かす。

「去年の夏、高倉さんはかなり衰弱されていたそうですが、この映画のDVDをご覧になってくれていたそうなんです。高倉さんは、私が一番得意とする物語を撮ったねと褒めてくださったと。脚本家からも日本に行ったら、高倉さんの墓参りをしてくれと頼まれていたので、それが果たせましたし、この話を聞いて再び感動しました。以前、高倉さんは私に日本刀を送ってくださいまして、今も私の事務所の私の席の後ろに飾っています。ですので、私はいつでも高倉さんに見守られている気持ちでいるんですよ」

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