劇場公開日 2012年12月15日

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愛について、ある土曜日の面会室 : 映画評論・批評

2012年12月12日更新

2012年12月15日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー

温故知新の気風を核にスリリングに物語る新人監督の確かな語り口

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刑務所にいる夫が勝手に移送された。会う術がない。助けて欲しい。そう訴えて、なりふり構わず泣き叫ぶ女を捉えたすべり出し。正直にいうと、ちょっと苦手な映画かしらと身構えた。このままこういう“熱い”演技が続くのかといやな予感がよぎった。けれども映画はそんな不安をうれしく裏切っていく。

必死の形相の女を尻目に刑務所内へと吸い込まれていく無関心な人々。その凍てつく冬の寒さを噛みしめたような顔顔顔。同じ場面――ある土曜日の面会室へと向かう人々の姿へと映画が再び帰り着き、すべり出しでは知らなかった3人の“冬の顔”に改めて出会う時、それぞれがそういう顔を獲得せざるを得なかった、ことの次第が確かに観客に伝えられている。なりふり構わず叫びたい思いを内に抱えながら生を懸命に持ちこたえている沈黙の重さが胸に迫る。そこから始まる面会室での最終章、静かだけれど緊密で、濃密なサスペンスをもはらんだ展開へと有無をいわせぬ吸引力で映画は観客を巻き込んでいく。構成の妙ばかりが突出しない物語の3本の糸が鮮やかにより合される。

これが長編初監督作という監督レア・フェネールの確かな語り口。10代の頃、刑務所脇の通学路でみかけた光景を原点に生まれたという一作は、壁の中でのボランティアにも従事した監督の経験を礎とし、記録映画を学んだ者ならではのフランス社会の今への眼を掲げつつ、「預言者」「真夜中のピアニスト」のジャック・オーディアール、「リトル・オデッサ」「裏切り者」のジェームズ・グレイに啓発されたとの発言にふさわしいジャンル映画を睨んだ温故知新の気風を核にスリリングに物語りすることをも心得ている。今後にも期待したい。

川口敦子

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