劇場公開日 2010年2月27日

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バッド・ルーテナント : 映画評論・批評

2010年2月23日更新

2010年2月27日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

何でもありの“ランド・オブ・ミラクル”への痛烈な皮肉

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贖罪を求めて咆えるケモノ度全開の悪徳警部補ハーベイ・カイテル、その十字架前の全裸も忘れ難いアベル・フェラーラ版。充分、怪作なそれがこのヘルツォーク版を目にした今では罪やら救いやらと垢抜けない生娘然とみえてくる。

実際、リメイクではないと明言する鬼才の新作の突き抜け方はただごとでない。フェラーラ版邦題にある「キリスト」を「アメリカ」と置き換えて何でもありの“ランド・オブ・ミラクル”に皮肉と哄笑まみれの中指をつき立てる。その付け焼き刃でない“異”(アンチではない)の磁場の貫き方が、ありふれたノワール的設定(ジャンルを扱う監督の手つきは意外に優雅だ)を芳しい腐臭で満たす。

ハリケーン・カトリーナ襲撃直後のニューオーリンズ。蛇が泳ぎ入る冒頭から神のモチーフを忘れたわけでもない映画は、囚人を助けてドラッグ漬けとなる警官をみつめ、善行が悪徳と結ばれる世界に爬虫類の目(監督自らの撮影)を対置する。地を這うワニ、卓上のイグアナ、死んでも踊る魂――幻覚が現実を、袋小路で奇跡を連発するハッピーエンドの構造を見返す。

堕ちる程に昇る人の背後にぬかりなくミニ星条旗の束を置き“奇跡の国”を笑い倒す眼差しは、水槽で夢みる魚の前で虚ろな目の警官が夢に帰せない現実を耐える涙ぐましさも見逃さない。そこで「うへっ」と笑うニコラス・ケイジ! その狂い方! “我が最愛の敵”クラウス・キンスキーに代わる鬼才の世界の体現者降臨の瞬間とよんでみたい。

川口敦子

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