劇場公開日 2011年8月20日

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「最後に、勝つのは・・・」シャンハイ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最後に、勝つのは・・・

2011年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

「ザ・ライト エクソシストの真実」などの作品で知られるミカエル・ハフストローム監督が、ジョン・キューザック、渡辺謙などの多国籍な役者陣を迎えて描く、歴史大作。

1941年の太平洋戦争前夜、多種多様な人間達の利権、欲望が交錯する混沌の街シャンハイを舞台に、それぞれの思惑を持った男女が騙し、騙され、愛し合う壮大な人間群像劇の様相を呈している本作。観客は、時代の中で埋もれていった駆け引きを、大規模に再現する歴史絵巻のような物語を想像してしまうが、どうやらこの作品の目論みは別のところにあるように思えてならない。

もちろん、史実に基づいた各国の動き、暴動、暗躍の描写には忠実さを貫き、世界史、日本史に精通した方々からも一定の評価を得られるように配慮が成されている。しかし、本作の作り手は事実を曲げないようにする事以外の面において、それほど歴史ドラマ作りへの執着をもっている訳ではない。

むしろ、その疑惑、憎しみが満ち溢れる相関図の中で燃え上がる男、そして女の愛の形をいかにドラマティックに描き出すか。特に愛する、愛さざるを得ない女のために、目の前に立ち込める闇へと突き進んでいく男たちの悲しさ、弱さ、醸し出す美学への憧れを前面に押し出した作品作りへの意欲が滲み出している。

そのような姿勢で製作された作品であるため、舞台となる上海のもつちゃんぽんな魅力、一触即発の血なまぐさい薫りに支配された危うさ、迷宮都市のもつ妖しさを画面から味わいたいと感じている観客には、描写の目的が別にあるところからくる物足りなさはあるだろう。

それでも、恐らくは香港映画の名作「男たちの挽歌」で暴力の薫りをぷんぷんさせたところからの起用であろうチョウ・ユンファ、儚い美しさが物語を彩るコン・リーといったアジアの名優を始め、適材適所で男と女の多様な顔を見せてくれるキャスト陣の色気を存分に味わえる点では、一種のラブストーリーとして評価すべき作品なのかもしれない。

どんな時代も、どんな境遇にあっても、やっぱり勝つのは・・・然るべきご指摘に納得の一本である。

ダックス奮闘{ふんとう}