劇場公開日 2011年8月20日

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シャンハイ : インタビュー

2011年8月16日更新
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日本映画界のトップランナー・渡辺謙、果てなき俳優としての夢

ひとつのきっかけが、その後のキャリアに好影響を与えることがある。渡辺謙にとって「シャンハイ」は、約1年半のモラトリアムを脱し再加速するカンフル剤となったようだ。撮影は3年ほど前で公開は前後したが、「アジアの中に欧米が飛び込んできた感じ」と評する作品への出演が、後に「沈まぬ太陽」「インセプション」と日米の超大作につながっていく。東日本大震災後しばらくは自らの立脚点である日本にとどまる意向だが、俳優としての夢は尽きない。ただ役を演じるだけではなく、そのときの社会情勢なども踏まえトータルで作品が最良の結果を残すために全精力を傾けようとする姿勢。その思いは、いずれ実現するであろう監督への意欲にも表れていた。(取材・文:鈴木元、写真:堀弥生)

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渡辺は「ラスト サムライ」でハリウッドに進出して以降、コンスタントにフィルモグラフィを加えている印象が強かったが、実は2005~06年にかけて1年半ほどの“空白”がある。エグゼクティブ・プロデューサーを務めた「明日の記憶」と、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」という大作2本への主演が続き、プロモーション活動にも奔走したために一種の燃え尽き症候群になっていたのだ。

「あっという間に1年半くらいたってしまい、その間は全然映画に関われなくて、そろそろ何かやらなきゃとモチベーションが起き始めていたころに『ダレン・ジャン』と『シャンハイ』の話をもらったんです。『シャンハイ』は戦争という大きなフレームはあるけれども、最終的には人間の愛憎や嫉妬、パッションといったパーソナルなものを描く話。非常に魅力を感じたし、また違う一歩を踏み出してみるにはいい作品でしたね」

太平洋戦争開戦が目前に迫った1941年の上海を舞台にしたミステリーで、演じたのは当時の敵役だった日本軍を統率するタナカ大佐。脚本にもキャラクターにも共感は得られなかったそうだが、スウェーデン人のミカエル・ハフストローム監督と議論を闘わせ、撮影を経ていく中でストーリーのカギを握るミステリアスな役を積み上げていく作業は新鮮だったと振り返る。

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「最後にちょっとパーソナルな部分が出る役だから、そこまでどうやって謎を残していくのか。目線やセリフのひとつひとつで、何だろうこの人という感じで引っ張っていけるようにはしたかった。あまり見せないと観客が残酷で冷酷なヤツとしか思わないので、そのあたりのさじ加減みたいなものは、僕の役に対する思い入れを監督が丁寧に聞いてくれたのでけっこう話をしました」

タナカだけではなく主演のジョン・キューザックをはじめコン・リー、チョウ・ユンファら登場人物はそれぞれの思惑を抱え、混とんとした上海で愛憎が絡み合う。撮影は当初、上海撮影所で行われる予定だったが、「ラスト、コーション」(07)の余波で中国政府の許可が下りず、急きょロンドン、タイに振り替えられた。ロンドンの日の短さ、タイの暑さは過酷だったようだが、そのあたりは気力と経験値で乗り切ったと見える。

「上海でやっていたら、もしかしたらリーやチョウさんにホーム感が出ちゃう。非常にしのぎを削るようなところがあったから、そういう意味では(ロケ地変更は)このプロダクションにはいい刺激を与えたと思う。でもタイは7月で、太平洋戦争の開戦は12月でしょ。軍服なんか着たくないよね。本当に大変でけっこう駆け足だったけれど、相当がんばりましたよ(苦笑)」

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インタビュー2 ~日本映画界のトップランナー・渡辺謙、果てなき俳優としての夢(2/2)
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