劇場公開日 2009年12月23日

  • 予告編を見る

アバター(2009) : 特集

2009年12月14日更新

ターミネーター」「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督が、構想14年、製作期間4年、総製作費300億円以上を費やし、映画の未来を賭けてリリースしたデジタル3D超大作「アバター」。公開以来、全世界で大ヒットを記録するとともに内容的にも大絶賛を浴び、映画史上の新たなマイルストーンと評される本作について、本国での3D映画研究の第一人者である映像クリエーター/映画ジャーナリストの大口孝之氏が総評を寄せてくれた。(文:大口孝之)

CG技術と3D映像を融合させ、さらなるリアリティを得た「アバター」

皮膚の質感、表情や眼の動きの自然さなど、これまでのCGキャラクターとは一線を画すナヴィ
皮膚の質感、表情や眼の動きの自然さなど、これまでのCGキャラクターとは一線を画すナヴィ

筆者がキネマ旬報増刊「フィルムメーカーズ(4)ジェームズ・キャメロン」に、キャメロンの次回作は「アバター」と書いたのは98年のこと。00年には、彼がデジタルHDカメラでの3D撮影を計画しているらしいという情報も入ってきた。それ以来、我々3D映像関係者はキャメロンの動向を細かくチェックし、「Project 880」と呼ばれた次回作の公開と同時に新たな3Dブームが到来すると予想して、様々な準備をしていたのである。逆に考えれば、この作品が失敗してしまえば、またしても立体映像は定着せず、過去の3Dブームと同様に忘れられてしまうことになりかねない。だから「アバター」公開直前には、「自分たちが信じてきた3D映画が市民権を得られるかどうか」という、非常に緊迫した状態にあった。結果は大成功だった。これまで立体映像に懐疑的だった人も、3D版を鑑賞後に改めて2D版を見直してみれば、いかに画面の奥行き感が重要であるかを認識してもらえると思う。

またこの映画は、もう飽和点に達していた感のあったCG技術が、立体映像と組み合わさることで、さらなるリアリティを得られることを実証している。衛星パンドラの風景の描写は、まるでロケーション撮影のように雄大であり、時々これは本当にCGなのかと疑ってしまうほどナチュラルである。CGの存在感にこれほど驚かされたのは、「ジュラシック・パーク」(93)以来だった。また立体映像は、細かな物がたくさん浮遊している時に大きな効果を発揮するが、本作でもナヴィたちが暮らすホームツリーが人間たちの攻撃で燃やされてしまうシーンで、灰が客席にも降り注ぐような表現が登場し、これまでの映画では決して味わえない “疑似体験”を実現している。

これまでの映画では決して味わえない “疑似体験”を実現
これまでの映画では決して味わえない “疑似体験”を実現

そして、パンドラの先住民ナヴィたちも非常にリアリティがあり、おそらく特殊メイクの俳優たちが演じていると勘違いしている観客もいたのではないだろうか。もちろんパフォーマンス・キャプチャー技術の進歩も大きく関係しているが、皮膚の質感、表情や眼の動きの自然さなど、これまでのCGキャラクターとは一線を画す仕上がりになっている。

ストーリーに関して言えば、過去の作品との類似が気になったのも事実である。例えば、ナヴィは間違いなくネイティブ・アメリカンから発想を得ており、先住民VS侵略者、あるいは自然VS文明というテーマでは、本作も「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(90)、「もののけ姫」(97)、「ラストサムライ」(03)などの系統に属する作品と言えよう。また、ティルトローターで飛行するサムソンの編隊は、ベトナム戦などを扱った戦争映画などとの類似も見いだせる。ただ、ストーリーの骨格が過去の作品に似ているというのは、本作にとって些細なことでしかない。むしろ、オリジナルのアイデアをスタジオに認めさせ、まったく新しい撮影やCG技術を作り出し、全世界の劇場の環境まで変えてしまうという大仕事を成し遂げた勇気と努力には、いくら称賛を贈っても足らないほどである。

第三の革命 立体3D映画の時代

インタビュー

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画評論

「アバター(2009)」の作品トップへ