劇場公開日 2008年4月12日

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つぐない : 映画評論・批評

2008年4月1日更新

2008年4月12日よりテアトルタイムズスクエアほかにてロードショー

語りのたくらみも綿密だが、練り込まれた技巧に舌を巻く

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ジョー・ライトはマキノ雅弘の演出術を学んでいたのか。「つぐない」の序盤、カントリーハウスの内部を少女が早足で歩くシーンを見て、私は思わずつぶやきそうになった。

それほどまでに、役者に対する芝居の付け方が具体的なのだ。山田宏一の著書によると、かつてマキノは「二歩出て体を引いて、こうして回せば女らしく見える」といった指導を手取り足取り行ったらしい。もしかするとライトも、「廊下の端から端までを10秒で歩いて」とか「この台詞は5秒で言い終えて」とかいった指示を出していたのではないか。

撮影や編集に凝る監督は多くても、役者に具体的な芝居を付けられる監督は少ない。私はかねがね、これを不満に思っていた。35歳のライトは、この難事業に挑んだ。わけても彼は、言葉と音に対する感覚が鋭い。

13歳の少女の嫉妬と勘違いが嘘を生み、その嘘が致命的な悲劇を招くという物語。ありがちな設定に二重三重の底を仕込む語りのたくらみも綿密だが、「つぐない」の前半には、「話の筋を一瞬忘れさせる」映画的快感が何度か噴出する。とくに注目すべきは、タイプライターの音と妹ブライオニーに扮するシーアシャ・ローナンの動きか。ライトは、ここで映画の心拍数を決定している。キーラ・ナイトレイのうっとりするような早口や、ダンケルクの海辺の5分半にわたる長回しも眼を惹くが、勝負はやはり立合いだったはずだ。ライトの技を、私は評価したい。

芝山幹郎

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