劇場公開日 2022年1月1日

「老人の戯言」セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0老人の戯言

2022年7月29日
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皮肉というのは怒りを笑いによって完全制圧するからこそ成り立つのであって、怒りが前面化しすぎていては政治的ステートメントと変わりがない。迸る激情をスクリーンサイズに凝縮させることによって異様に緊張感のある露悪コメディを立ち上げていたあのジョン・ウォーターズが、こんな野放図で直情的な映画を撮ってしまったというのが悲しい。いまさら60〜70年代の古びた手つきでハリウッド批判論を開陳されたところで何も響いてこない。というか演者に対して過度に非人道的だったり制作体制があまりにも杜撰だったりするアンダーグラウンド映画のほうがハリウッド映画よりよっぽど酷いんじゃないか…?とすら思えてしまう。

これを見たうえでアンダーグラウンド映画を作りたい!ハリウッド映画を打破したい!と思える人間はおそらくいないだろう。そういう観客のシラケすらも勘案のうえだというのなら天晴れジョン・ウォーターズと万雷の拍手を送りたいところだが、残念ながら本作にそこまでの知的作為性を感じることはできなかった。黒人女の腕に「尊敬する映画監督」として「スパイク・リー」の名前が彫られてるくらい余裕のない映画なのだから。かつてのジョン・ウォーターズならここで容赦なく「D・W・グリフィス」の名を刻み込んでいたはずだと思うとただただ無念でならない。

いくらアンダーグラウンド映画の旗振り役といえども寄る年波にはかなわなかったということなのかもしれない😢

因果