湖の女たち

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劇場公開日:

解説

「日々是好日」「MOTHER マザー」の大森立嗣が監督・脚本を手がけ、作家・吉田修一の同名小説を映画化したヒューマンミステリー。

湖畔に建つ介護施設で、100歳の老人が何者かに殺害された。事件の捜査を担当する西湖署の若手刑事・濱中圭介とベテラン刑事・伊佐美佑は、施設関係者の中から容疑者を挙げて執拗に取り調べを行なっていく。事件が混迷を極めるなか、圭介は捜査で出会った介護士・豊田佳代に対して歪んだ支配欲を抱くように。一方、事件を追う週刊誌記者・池田由季は、署が隠蔽してきた薬害事件が今回の殺人事件に関係していることを突き止めるが……。

若手刑事・圭介役を福士蒼汰、介護士・佳代役を松本まりかが担当し、特殊な関係に溺れていく刑事と容疑者という難役を熱演。ベテラン刑事・伊佐美を浅野忠信、週刊誌記者・池田を福地桃子が演じた。

2024年製作/141分/G/日本
配給:東京テアトル、ヨアケ
劇場公開日:2024年5月17日

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(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

映画レビュー

4.5日本の黒歴史を俯瞰して記憶にとどめるきっかけに

2024年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

本作については当サイトの新作映画評論の枠に寄稿したので、ここでは補足的な事柄をいくつか書き残しておきたい。

まず、評では原作と映画で直接または間接的に言及した史実や事件を時代順に5つ挙げた。そのうち731部隊とミドリ十字などによる薬害エイズ事件は、人体実験に軍医として関与した内藤良一がのちに日本ブラッドバンク(ミドリ十字)を創業したという点でもともとつながりがあった。だがそれ以外の3つの出来事にも事件が起きた背景などに共通する傾向を見出し、小説のストーリーに組み込んだのはやはり吉田修一の作家としての構想力の賜物であり、読み進むほどに圧倒される思いがした。

原作を未読で映画を鑑賞した場合、圭介(福士蒼汰)や佳代(松本まりか)の内面が小説ほどには描き出されていないことも相まって、情報が整理されずすっきりしない印象を受けるかもしれない。とはいえ、映画で気になったり引っかかったりした部分を確認するために小説を読んでみるのももちろんありだし、興味を持った事件があればネットで検索して解説記事やWikipediaなどで情報を補うこともできる。小説であれ映画であれ、「湖の女たち」をきっかけに歴史を俯瞰して日本人の国民性を見つめ直す契機になれば、それはきっと意義のあることだと思う。

ちなみに、実際の滋賀の人工呼吸器事件では、冤罪被害にあった看護助手の女性が取り調べを行った刑事に対し「特別な感情を持った」ことも、解説記事や書籍(「私は殺ろしていません 無実の訴え12年 滋賀・呼吸器事件」中日新聞編集局)などに記録されている。吉田修一は彼女に起きた2つの出来事を、佳代と松本郁子(財前直見)という2人のキャラクターに振り分けてフィクション化した。取り調べ対象の女性が男性刑事に特別な感情を抱くというのは、犯罪被害者が犯人に心理的なつながりを築く「ストックホルム症候群」や、患者が医者や看護師に恋愛感情を抱く「転移性恋愛」に似た状況なのかとも思う。そのあたりの論考を進めても面白くなりそうだが、評では字数の制約もあり触れられなかった。

評論で割愛した要素をもう一つ書き残しておきたい。小説と映画の舞台として、琵琶湖近くの「西湖地区」「西湖署」などの架空の固有名詞が登場する。調べてみると、呼吸器事件が起きた湖東記念病院の近くに琵琶湖の内湖の一つ「西の湖」がある。第一にはこれを元に「西湖(さいこ)」という架空の地名を当てたのだろう(なお、滋賀県ではないが山梨県の富士五湖の一つとして「西湖」は実在する)。ただし映画にも造詣が深い吉田修一だから、サスペンス映画の古典的名作であるヒッチコックの「サイコ」も念頭にあったのではないか。「サイコ」と「湖の女たち」の物語上の共通点として、沼/湖に沈める・引き揚げる行為が重要な意味を持つこと、鳥を愛好するキーパーソンがいることが挙げられる。こじつけかもしれないが、そんな見方もまあ面白いのではないかと。

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高森 郁哉

2.0濱中と豊田のSMなシーンの衝撃が強くて、原作のテーマであった人間の善と悪というテーマが吹っ飛んでしまいました。

2024年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 公開中の「湖の女たち」は、大森立嗣監督が、吉田修一の小説を映画化した作品。大森監督が吉田の原作に挑むのは、2013年の「さよなら渓谷」以来。ある事件をきっかけに、主人公の男女はいびつな関係に陥りますが、「『愛』という言葉に回収されないものを、吉田さんが描いていることに強く引かれた」というのです。

●ストーリー
琵琶湖の湖畔に建つに介護療養施設で、100歳の老人が不審な死を遂げます。刑事の濱中圭介(福士蒼汰)と先輩の伊佐美佑(浅野忠信)は殺人事件とみて、施設の中から容疑者を挙げ、執拗な取り調べを行なっていきます。事件が混迷を極めるなか、その陰で濱中は、取り調べで出会った介護職員の豊田佳代(松本まりか)への歪んだ支配欲を抱いていくのでした。
 一方、事件を追う週刊誌記者・池田由季(福地桃子)は、この殺人事件と署が隠蔽してきたある薬害事件に関係があることを突き止めていきますが、捜査の先に浮かび上がったのは過去から隠蔽されてきた恐るべき真実。署が隠蔽してきた薬害事件が今回の殺人事件に関係していることを突き止めます。
 そして、後戻りできない欲望に目覚めてしまった、刑事の男と容疑者の女の行方とは?さらに、殺人事件の真犯人に辿りつく池田。意外な事件の真相とは?

●解説
 原作の吉田修一の小説は、「言葉にできない感情を描く」という読者の想像力をかき立てる作風の作家なのです。なので、吉田原作の小説を映画化するとき、まんま映像化するとどうしても、俳句でいれば三段切れの脈絡のない映像がぶつ切り状態に羅列されていくという、説明不足な脚本になりやすくなっていきます。だからといって、ト書きやナレーションを増やしたり、前後の情景描写を増やすと、説明過剰になって。回りくどく感じる映像になってしまいます。吉田原作の映画化は、そういう難しさがあります。そういう点で本作は、前者の説明不足の作品でした。
 本作はメインの100歳の老久の不審死と薬害事件と戦前の731部隊の関連性が、原作ほど明確化されていません。そしてもっと問題なのは映画化にあたり強調されている濱中と豊田のSMな関係は、老人の不審死に全く関係しないことです。

 原作『湖の女たち』で使われたモチーフは、731部隊の人体実験と、津久井やまゆり園の殺傷事件。そこにうっすらと薬害エイズ事件と滋賀呼吸器事件が入ってくるものでした。大森監督はなんとか頑張って原作のニュアンスを取り込もうとしますが、時間の制約もあって、例えば731部隊の話はどうしても印象が薄くなりがちとなってしまいました。そしてなりより、濱中と豊田のSMなシーンの衝撃が強くて、原作のテーマであった人間の善と悪というテーマが吹っ飛んでしまいました。たぶん本作をご覧になる多くの方が感じるのは男と女の感情の表と裏をのぞき込んでしまう好奇心をくすぐられることでしょう。松本まりかを全裸にしてまで、男女の間に支配し、支配されるという倒錯的な関係を描くのだったら、いっそポルノ作品としてエロチックに仕上げた方が分かりやすかったかもしれません。しかし濡れ場の描写も希薄なのです。
 徹底した大森監督の反権力志向が、刑事も人間、こんな裏面もあるよといって濱中の裏面を暴き立てて、警察の権威を失墜させたかったのかもしれません。でもねぇ、作品中、時間を割いてまで描く必要なシーンだったのか疑問です。
 しかも刑事が容疑者の知り調べ中に、容疑者を追い詰め、結果容疑者のマゾッけを発動させて、署内で下着を脱がせるなど卑猥な言動を行うなんて、絶対にあり得ない設定でしょう。

●感想
 そして本作をわかりにくくしている決定的な点として、「731部隊」と「薬害事件」と「今回の殺人事件」がつながっていたという原作の大事な筋書きに触れられていないことです。
 その結果、この三つの要素がバラバラで唐突に入れ替わって描かれているように見えるという心証をうんでしまいました。
 戦時中、731部隊で行われていた人体実験の関係者が劇中の薬害事件の所長と介護施設で殺された100歳の老人がすべて同一人物なのであるということです。そこには凄まじい悪意が存在していたはずです。そこが描かれてこそ、事件の意外な犯人が、なぜその老人を殺したかという動機に合点が入ったはずでした。それが本作では矮小化されて、ただ年寄りは単なるお荷物だから殺してしまったことになったのは残念なところです。
 そして本作の意外な犯人は、この人がきっと犯人なのかもと暗喩されるだけの曖昧な結末。豊田記者の追及にも、うっすら微笑むだけでした。これでは映画が終わった後でも、犯人とバレなかった人は、きっと犯行を繰り返し、悪意を拡散し続けていくことでしょう。フラストレーションがたまる終わり方でした。

●最後にひと言
 監督が園子温だったら、もっとエロむき出しの作品となってたでしょうけれど、大森監督の美学では、そうしたくはなかったようです。
 舞台は湖の周辺。大森監督にとって、湖は「ぽかんとあいた穴のようなイメージ」。海が向こうにある世界を想像させ、川が流れていくのとは違って、「湖は停滞している空間」で、そこに落ちていく濱中と佳代の姿も描かれたのでした。
 さらに、戦時中に犯罪的行為が行われた別の湖のイメージが重なり、湖という場所が歴史性も帯びてきます。2人は、湖が象徴する負の歴史のようなものにのみ込まれそうになるけど、ぎりぎりあらがって、何とか、美しいものとしてあろうとします。
 安っぽい恋愛のように見えた瞬間、映画が台無しになってしまうことにこだわった大森監督にしてみれば、単なる情事として描きたくなかったのでしょう。

 その主役の福上、松本は難役をこなしました。これは評価します。特に、福士が演じた演中は複雑な内面を抱え、常に沈鬱な表情をたたえていたのです。これまでのイケメン俳優のイメージを覆すような役なのです。「福士君には、刑事みたいに演じようとしないでほしいと言いました。脚本を読み、撮影現場に立って感じたままに演じてくれれば、濱中になるんだと」と大森監督は語っていました。
 容疑者を支配欲でがんじがらめにしてしまうアンモラルな刑事役ですが、彼もまた相方の先輩刑事からパワハラを日常受けつつ、その強引な取り調べ姿勢に疑問を持ってしまう役柄。見ている方も、濱中を憎めなくなって行くところは、福士の持つ時の人柄の良さが滲み出ていると思いました。

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流山の小地蔵

2.0原作もこんなに分りにくいのか?

2024年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

幻想的な予告編に惹かれ、それ以外は全く予備知識無く観賞。
なんとなく楽しみにしていたのだが・・・

【物語】
湖畔の介護施設で酸素吸入で命をつなぎとめていた老人が、ある日の早朝酸素吸入器が停止したために死亡する。警察は殺人事件として捜査を開始する。

若手刑事・濱中圭介(福士蒼汰)とベテラン刑事の伊佐美佑(浅野忠信)は当日施設に居た看護師と介護士から事情聴取を行う。そして犯人と睨んだ介護士松本(財前直見)を執拗に追及する。一方、濱中は介護士・豊田佳代(松本まりか)にゆがんだ支配欲を募らせ、接近する。

また、事件を追って現地に来た週刊誌記者・池田由季(福地桃子)は、伊佐美が長い間追って来た過去の薬害事件の担当刑事だったことを知る。

【感想】
どんな話なんだ? と思いつつ観始める。
しかし、中盤まで“胸糞悪い”という言葉しか浮かばない展開。何を描こうとしているかも全く分からない。

濱中の豊田に対する行動も、2人の関係性も全く意味不明。この2人には実は過去に何かあったのか? 最後にそれが明かされるのかと思いながら観続けるも、結局それも無く、わけの分からないまま終わる。

最後に事件の真相は仄めかされるものの、留飲を下げるような結末も用意されていない。

結局何を描きたかったのか、理解できないままエンドロール。
エンドロールで、「原作 吉田修一」が目に入る。

吉田修一の小説は一作も読んでいないが、吉田修一原作の映画は過去6作ほど観ている。他の作品も、いずれも「ほっこり」とか「スッキリ!」という作風ではなく、どれも人の心の闇や人の弱さを浮き彫りにしたような作品ばかりだ。が、それでも何となく描きたいことは分かる作品で、特に“怒り”、“さよなら渓谷”あたりは俺には刺さり、今も強く記憶に残っている作品だ。 少なくとも“難解”とか“モヤモヤ”という印象は持っていない。

それを考えると、本作だって「原作はそんなに難解な作品ではないのでは?」と思ってしまう。監督(脚本も担当)が、いたずらに芸術作品ぽくしようとした結果こんな分かりにくい作品になったのではないかと疑いたくなる。つまり、ひとりよがりの脚本・演出にしてしまったのではないかと。

原作を読まずに勝手な想像をするのは失礼かも知れないが、そんなことを思ってしまう作品だった。

残念ながら俺の感受性では全く楽しめなかった。

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泣き虫オヤジ

3.5人間は欠陥品

2024年5月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

寝られる

大森立嗣×吉田修一という、如何にもヤバそうなタッグ。映画と小説、両者とも評価が二分されることが多いため、今回もさほど期待していなかったけど、ほどほどに面白く、そこそこつまらないといった感じ。

濡れ場たっぷりの、強化版「別れる決心」かと思っていたけど、結構違った。恋とかそういうんでもない。ミステリー色がかなり強い作品。ただ、何でもかんでもやり過ぎていて、終盤から収集が付かなくなったのか、かなりとっちらかった作品にはなっている。一つ一つの要素は面白いのに、どれも中途半端。勿体ない。

「湖の女たち」はて、どういう意味なのか。たち?湖に関連した女性は松本まりか、1人じゃないか?しかも、湖のシーンがこの映画で最もつまらない。とまぁ、タイトルと内容が上手いことマッチしておらず、てことは原作の完成度もさほど高くないんじゃないかな。「楽園」もそうだったけど、吉田修一の作品は無駄なセクシャル要素が作品の質を下げている気がする。真っ当にミステリーやればいいのに。生きずらい日本をバッサリ斬ってくれればいいのに。

大森監督の特技、演者の持つ才能の引き出しは今回も抜群だからこそ、脚本・物語設計が気になりすぎた。にしても、浅野忠信、いい芝居するなぁ。正直これだけで儲けもん😊

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サプライズ