川村元気を感動させた、藤井風の“唯一無二”のアプローチ

2024年4月12日 20:00


取材に応じた川村元気
取材に応じた川村元気

映画プロデューサーで小説家の川村元気がこのほど、佐藤健長澤まさみ森七菜の出演作「四月になれば彼女は」の公開を記念し、東京・四谷のnote placeで山田智和監督、脚本の木戸雄一郎とともに、「小説を映像化することについて」というテーマでトークを繰り広げた。イベント終了後、映画.comの取材に応じ、主題歌「満ちてゆく」を手がけた藤井風と制作過程でどのようなやり取りがなされていたのかを明かした。(取材・文・写真/大塚史貴)

四月になれば彼女は」は、累計発行部数45万部を突破した川村のベストセラー恋愛小説(文春文庫刊)が原作。4月のある日、精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに、かつての恋人・伊予田春(森七菜)から手紙が届く。“天空の鏡”と呼ばれるウユニ塩湖からの手紙には、10年前の初恋の記憶が書かれていた。ウユニ、プラハ、アイスランド。その後も世界各地から春の手紙が届く。時を同じくして藤代は、婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)と結婚の準備を進めていたが、弥生は「愛を終わらせない方法、それは何でしょう」という謎掛けだけを残して突然、姿を消す。春はなぜ手紙を書いてきたのか? 弥生はどこへ消えたのか? 2つの謎は、やがて繋がっていく。

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川村は、今作のメガホンをとった山田監督が撮った藤井の曲「青春病」のMVが好きで、ふたりの相性の良さを感じ取っていたという。そのうえで、「この映画のテーマは生きること、死ぬこと、誰かを愛すること。小説も映画も、これらをどこか近しいものとして描いているのですが、それをずっと歌で表現してきたのが風さんだという印象があったんです。映画の編集中も、やっぱり彼の声、言葉がラストに欲しいとなりオファーをしました」と振り返る。

淡々と語るが、川村の溢れる思いは原作執筆前に取材したホスピスでの出会いにまでさかのぼる。

「小説にだけ登場するエピソードなのですが、新聞記者としてすごく真面目な記事を書いてきた男性が、末期がんになって最後に書いたものが恋愛小説だった。これは取材するなかで出会った実話なのですが、計り知れないほどのリアリティがあると思いました。

藤代と弥生が土壇場で盛り上がってヨリを戻したところで、家に帰ればまた別の部屋で寝るんでしょう? というリアルな想像力が働くなかで、それでもあの瞬間に足掻いて一生懸命に走ったという事実があれば、たとえ別れるにしても続くにしても、この人たちの人生は良い方にいくんじゃないかと思ったんです。その感覚をエンドロールで伝えたくて、誰かに歌ってもらいたかった。そして、それができるのは、生きること、死ぬこと、誰かを愛することを近しいものとして歌っている風さんしかいない……、と思ったんです。僕は彼の『旅路』という曲がすごく好きで、勝手に脳内再生しながらラストの藤代と弥生の姿を見ていましたが、それ以上に愛すべき曲を作っていただいたという手応えがあります」

藤井は、川村の思いを汲み取るべく原作小説を読み込み、本編のラッシュ映像を観るためスタジオまで足を運んでくれたという。

「風さんは、本人の認識では『ラブソングを書いたことがない、恋愛を歌にしてこなかった自分が果たしてやれるだろうか』という不安をお持ちでした。そこで一度お会いして、『あなたの歌ってきた生きることや、死んでしまうこと。それを聴いた人が愛の歌だと解釈していたりする。そのままでいいんです』とお伝えしました。そして、『聖歌のようなものを歌っていただければ』と話したら、ご本人も安心してくださった。

僕はもともと、宣伝のためにタイアップで無理やりくっつけた、映画と合わない歌がラストに流れることにずっと違和感を抱いていました。歌が流れるのなら、映画の演出の一部になっていないとダメだと思うんです。

この映画は最後、歩いていく2人に対して色々な解釈が生まれる。うまくいかないのではないか、いや、うまくいって欲しい……などなど。僕は少なくとも、この2人はどんな形にせよ幸せになって欲しいと思った。歌で2人に寄り添、背中を押す演出をして欲しいとお願いしたら、あの曲が生まれた。もう完璧な音楽による演出でしたね。

風さんはわざわざ教会を借りて、こもって曲を書いてくれたらしいんです。向き合い方がすごい。感動しました。そこまでしてくれる方って、なかなかいませんから」

公開前には対談した川村元気と藤井風
公開前には対談した川村元気と藤井風
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ちなみに、川村は藤井の俳優としてのポテンシャルに注目しているそうだが、多くの映画人が同様の見解を示しているようだ。

「憶測ですが俳優としてのオファーは、100以上いっているんじゃないでしょうか。全て断っているみたいですが……。ちなみに僕も、一度でいいから映画に出て欲しいと口説きましたが、見事に断られています(苦笑)。

そもそも、今回の主題歌も劇映画としては初めてでしたし、ご自身の中から湧き出てくるものを表現したい方だから、単なるタイアップで主題歌……みたいなことをやらないのもピュアですよね。今後もその姿勢は変わらないと思いますし、ものづくりに真摯な信頼できるミュージシャンだなと心底思いました」

(執筆者:大塚史貴)

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