川村元気が語り尽くす、「小説を映像化することについて」

2024年4月12日 15:00


トークを繰り広げた(左から)川村元気、山田智和監督、木戸雄一郎
トークを繰り広げた(左から)川村元気、山田智和監督、木戸雄一郎

映画プロデューサーで小説家の川村元気の著書を佐藤健長澤まさみ森七菜出演で映画化した「四月になれば彼女は」の公開記念イベントがこのほど、東京・四谷のnote placeで行われた。川村は、「小説を映像化することについて」というテーマで、同作のメガホンをとった山田智和監督、脚本の木戸雄一郎と共に登壇し、駆けつけた70人のファンを前にトークを繰り広げた。

四月になれば彼女は」は、累計発行部数45万部を突破した川村のベストセラー恋愛小説(文春文庫刊)が原作。10年に渡る愛と別れを壮大なスケールで描いた話題作で、3月22日に全国で封切られた。堅調な興行を展開しており、興行収入10億円突破を目前に控えている。

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4月のある日、精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに、かつての恋人・伊予田春(森七菜)から手紙が届く。“天空の鏡”と呼ばれるウユニ塩湖からの手紙には、10年前の初恋の記憶が書かれていた。ウユニ、プラハ、アイスランド。その後も世界各地から春の手紙が届く。時を同じくして藤代は、婚約者の坂本弥生(長澤まさみ)と結婚の準備を進めていたが、弥生は「愛を終わらせない方法、それは何でしょう」という謎掛けだけを残して突然、姿を消す。春はなぜ手紙を書いてきたのか? 弥生はどこへ消えたのか? 2つの謎は、やがて繋がっていく。

米津玄師の楽曲「Lemon」などのMVを手掛けた山田監督と、スタジオジブリで「かぐやひめ姫の物語」「思い出のマーニー」で助監督をしたのち脚本家に転身した木戸は、共通の知人であるプロデューサーの紹介で知り合い、好きな映画が一緒だったことから意気投合したという。

木戸「山田さんから『川村元気さんと今度映画を撮る』と聞いて、すごいなあ。自分は関係ないなと思っていたら、『名前を出してみてもいい?』って。いいですけど、絶対に通らないですよ、と他人事で聞いていたんです。そうしたらお会いすることになって……。その時は今日以上に緊張しました」

山田「緊張しますよね。僕もショートフィルム『TIFFANY BLUE』をご一緒するとき、川村さんと会うときは緊張しましたから」

山田&木戸「ただ、実際に会ってみたらイメージと違って、すごく話しやすかった」

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川村「誰がそんな風評を流しているか分からないですが(苦笑)、僕と会うクリエイターは『とんでもないやつが来る』と身構えている方が多い。自分で言うのもなんですが、実際はとぼけた人間なので、『なんだ』って拍子抜けされることも多いんです」

山田「ご自身がクリエイターだから、他のクリエイターへのリスペクトがすごいんです。そこが他の方と圧倒的に違うところ。時にクリエイター目線で厳しいところもありますが、基本的に僕らのアイデアを楽しみに待ってくれている」

川村「自分の原作のときは、原作者に気を使う必要がないわけです(笑)。一般的に、初めて長編映画を撮る人を監督にしたいとなったら、『大丈夫ですか?』となるけれど、そこの責任は自分で取ればいいわけですから」


40本以上の映画を製作してきた川村だけに、今作の映像化にはそもそも懐疑的だったようだ。

「ラブストーリーなのにラブレス、“愛がない”ことをテーマにしているから。ないものは映らない。『世界から猫が消えたなら』もそうですが、消えているものやないものは画面に映らない。それを撮るのは難しい。だからこそ、小説で書いている。書くときは、映画になり難いものをテーマにすると決めているので。

加えて、日本映画で海外ロケをすると、観光ビデオみたいな映像になってしまいがち。いまの日本のディレクターでプラハ、ウユニ、アイスランドをちゃんと撮れる人がいないよなあ……ということで保留していました。智和くんとは20代の頃からMVなどで仕事をしていたのですが、ちょうど本作の主人公たちの年齢に近づいてきて、そろそろなのかもしれないと思いました」

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木戸「原作者であり、プロデューサーだから『このセリフ、つまんないよね』とか、迂闊に言えないよなあ……と、当初は気を使っていました。恐る恐る『このセリフを入れてみたいんですけど』と提案してみたら、面白がってくれて。それには本当に驚きましたね」

山田「本来は原作者の方って別のレイヤーにいるので、面白いアイデアが生まれたとして、配給から出版社、出版社から原作者へと確認作業が行われていく。原作の世界観を守るためにも『ここはダメ!』という線引きは必要だと思いますが、いずれにしても結構時間がかかるんです。それが今回はスムーズに、そして楽しんでやれましたね」


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映画化に際しては、原作のどこを取捨選択するかで山田監督、木戸は大いに頭を悩ますことになる。それでも、川村から「自由に原作と向き合って欲しい」と背中を押されたことで思い切れたと明かす。川村は、2010年に大ヒットした「悪人」で原作者の吉田修一に脚本として参加してもらった際のエピソードを披露した。

川村「小説『悪人』では、主人公の清水祐一を描かなかったと吉田さんがおっしゃった。色々な人が『ああいう男だった』と語っていくなかで、ドーナツみたいに空洞の部分が祐一をかたどるように書いたと。それって映画になったときに絶望的な話なんです。妻夫木聡がその空洞の部分を演じなければいけないわけですから。

ですから、吉田さん自身が映画の脚本でやられたことは、空洞をひっくり返して具体にする作業。今回も同様で、ラブレスを描くには愛があった状態を描かなければいけない。そこが難しいと思って、ふたりに任せてみたんです。自分の正解だけで進んでも面白くないので」

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一方で「映像化にかかわった小説や漫画の原作者は、絶対に一度は嫌な思いをしているのではないか」と吐露する。

川村「プロットが上がってきたとき、『なぜこうなった!?』と思うことがあります。原作をそのまま模写しても、こうはならないだろう……、と言いたくなるくらいとんでもないものを読む経験をしている方も多いと思います。自分が誰かの原作を預かるとき、まずは原作通りにやったらどうなるか、から考え始めます。

とはいえ、映画と小説は全然違います。たとえば小説『四月になれば彼女は』で一番の人気があったキャラクターは、弥生の妹の純。性に奔放なキャラクターなんですが、あの人の登場シーンが映画で増えてしまうと、そちらの話のほうが面白くなってしまう。写真部の先輩の大島というキャラクターも僕は大好きなんですが、あのキャラが最も重いドラマを背負ってしまっている」

山田&木戸「大島のエピソードを描いてしまうと、アイスランドから帰ってこれなくなりますよね(笑)」

川村「サブキャラが印象的だったり、本筋から脱線したエピソードの方が面白くなってしまうのが、良い小説な気がします。脚本はストーリーと構成、小説は描写の面白さが勝負。純や大島を描くと、メインの3人を食っちゃう。すごく気に入っているキャラクターやエピソードを、諦めざるを得ないんだなと自分の中で納得させるのに半年くらいかかりました。もしドラマ版『四月になれば彼女を』を作る時がきたら、純や大島を暴れさせたいですね」

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川村は、原作執筆時に膨大な人数に取材をし、全てのキャラクターにモデルがいると公言している。この日は、映画では中島歩が演じた“ペンタックス”のモデルになった人物の実母が場内にいた。

川村「小説を書くとき、大学の写真部へ取材に行ったのですが、部長の男の子が『ペンタックス一択』みたいな子だったんです(笑)。それがすごく印象に残っていて、彼をモデルに書いたキャラが、中島歩くんが演じた“ペンタックス”でした。ニコンでもキャノンでもなく、ライカでもなく、ペンタックス。そういうディテールって、想像力では書けません。Tシャツまでペンタックスでしたから」

木戸「僕はペンタックスのセリフ、もっと書いていたんです。妙にセリフを長くし過ぎたら、『ここ、いらないんじゃない?』って削られました(笑)」

川村「木戸くんの書いたセリフで、『(大学が)懐かしいのはたまに思い出すからだよ』というのがあるんですが、あれは原作にはないセリフ。思い出って勝手に美化されていたりするだけのことって、あるじゃないですか。それを一発で表現していて、すごくいいなと思いました。原作で生まれたキャラクターが映画の中で新しいセリフを話し、それがちゃんと同じキャラクターが発した言葉になっていることが、映像と小説の理想形なのかなと思いました」

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(執筆者:大塚史貴)

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