実在の訓練施設で撮影も シングルマザー宇宙飛行士と娘の愛描く「約束の宇宙(そら)」監督に聞く

2021年4月17日 11:00


アリス・ウィンクール監督
アリス・ウィンクール監督

シングルマザーの宇宙飛行士と幼い娘の愛と絆を描いた「約束の宇宙(そら)」が公開された。監督は「博士と私の危険な関係」などフランスで活躍し、2015年のカンヌ国際映画祭で話題を集めた「裸足の季節」の脚本を担当したアリス・ウィンクール。今作には、「007 カジノ・ロワイヤル」「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」など英米でも活躍のエバ・グリーンをはじめ、マット・ディロン、「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが出演、音楽の坂本龍一など国際的なメンバーが結集した。ウィンクール監督に話を聞いた。

欧州宇宙機関(ESA)で日々訓練に励むフランス人宇宙飛行士サラ。物理学者の夫と離婚し7歳の娘ステラと2人で暮らす彼女は、ミッションのクルーに選ばれる。長年の夢が実現し喜ぶサラだったが、宇宙へ旅立てば娘と約1年もの間、離れ離れになってしまう。過酷な訓練の合間に、サラはステラと「打ち上げ前に一緒にロケットを見る」という約束を交わす。

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――主演エバ・グリーンについて。起用の理由と彼女に仕事ぶり、魅力を教えてください。

主人公のサラという人を、ただ娘と離れて悲しむような母親にはみせたくなかった。彼女はちょっと宇宙人みたいなところがありませんか(笑)?(エバは)ティム・バートンのミューズでもあるようにどこか不思議で火星に住んでいるような独特の雰囲気があります。型にはまらないところに魅力を感じました。それでいて人間の脆さも、アクションもでき強さも表現できる人。実際の彼女は今回の役柄でもあった宇宙飛行士のように、何かをやるとなると集中力があり厳格でした。決して出来ない、嫌だ、といったことは言わないプロフェッショナルな仕事の取り組み方をする人でした。

――マイク役を演じたマット・ディロンのキャスティングについて

マイクは、急遽クルーメンバーに選ばれたサラへ示す態度などバッドガイのような印象があるけれど、深みがあって、色々な面をもっている人物です。わたしは、マット・ディロンの今までの仕事を常に見ていたし、マイク役を誰にしようかと考えた時に真っ先に彼に演じてほしいと思いました。シナリオを送り、アプローチしました。その後、彼と直接会うと、すぐに意気投合しました。マットには撮影前にNASAのチーフであるアメリカ宇宙飛行士クリス・キャシディに会ってもらい、宇宙飛行士はどんな人間なのか、強みや弱みなど、直接話をしてもらいました。カメラを向けられていない時にも、目には気骨のあるきらめきが宿っており、ユニークな深みがありました。

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――今作では5カ国のロケを行い、宇宙飛行士の訓練施設も映されています。どのようにショットの設計をされているのでしょうか。

スタッフとは、ムードボードを作っていてイメージを共有していきました。ドイツ、ロシア、南フランス、カザフスタンとロケ地は5か所に渡り、いろいろな制約がある中だったので、フレームを吟味してというよりは、ドキュメンタリーのような撮影方法もとりいれています。施設は非常に厳重に管理されていて、ほぼ軍事レベルのセキュリティでした。前もってすべてのパスの入手が必要でいたるところに検問所がありました。施設の人々は私たちクルーを歓迎し、日常のあるがままを共有してくれました。この映画に登場する施設はセットではなく、すべてのロケ―ジョンが本物なんです。“宇宙”と聞くと最先端なイメージがあるけど、実際のところ、意外なことに一部は老朽化しており、あまりにも古臭かったり壊れかけているところも施設にはあり、そこは撮りませんでした(笑)。

――宇宙を題材にした映画で思い入れのある作品、や参考にした作品などありますか。

わたしは、ビム・ベンダース監督「都会のアリス」、エドワード・ヤン監督「ヤンヤン 夏の想い出」、ナンニ・モレッティ監督作品など人間の日常生活の中で人間の弱さが描かれている作品が好きです。あえて、宇宙を舞台とした題材の作品を挙げるなら、アンドレイ・タルコフスキー監督「惑星ソラリス」でしょうか。

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――坂本龍一へ音楽のオファーをされた理由を教えてください。

瓶に詰めた手紙を海へ流すような気分でシナリオを送りました。彼から引き受けるという返事をもらえた時はとてもうれしく、名誉に思いました。ちょうど劇中で、ロシア人宇宙飛行士・アントン(アレクセイ・ファティーフ)が話していたエピソードと同じように、彼はドキュメンタリーの「Ryuichi Sakamoto CODA」という作品で、地球の音を自然の音を捉えていました。その中で繊細で微妙な音を駆使した音楽を作っていたんです。一般的に、宇宙の音楽といえば、キューブリックの「2001年宇宙の旅」があまりに有名で、壮大なオペラのようなイメージが定着しているかもしれませんが、この作品では、力強くもあるけれど、むしろ微妙なトーンで紡がれていくような音楽にしたいと思っていました。

――フィルモグラフィについて。時代や舞台を変えながらも、心の内で抱えるジレンマや内なる葛藤をずっと描き続けられているように思います。

自分では無意識の力が働いていると感じていて自己分析はできないけれど、おのずと描いているものが同じテーマに辿り着くというのは自分を知る方法のひとつだと思います。本作のサラ(『約束の宇宙』)やヴァンサン(『ラスト・ボディガード』)、オーギュスティーヌ (『博士と私の危険な関係』)などの主人公は、普通になろうとすること、エネルギーを自分の内から外へ出そうとトライし続けることをしていますね。わたしは何かをやり直したり、違う姿になろうとする、そんな人物たちを描き続けているのではと思います。この作品では宇宙飛行士の物語ですが、母親でもある主人公、ひとりの女性とその家族の映画を作りました。

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