クシシュトフ・キェシロフスキ「デカローグ」全10話デジタルリマスター版が4月公開
2021年2月9日 10:00
「トリコロール三部作(「青の愛」「白の愛」「赤の愛」)」や「ふたりのベロニカ」などで知られるポーランド映画界の名匠クシシュトフ・キェシロフスキの「デカローグ」デジタルリマスター版が4月上旬公開される。このほどメインビジュアルと特報映像がお披露目された。
2021年に生誕80年、没25年を迎えるキェシロフスキ監督の金字塔的傑作である本作は、旧約聖書の「十戒」を下敷きに、ポーランド郊外の巨大団地に暮らす人々の幾通りもの人生模様を綴った各約1時間・全10編からなる連作集。社会主義体制下にあったポーランドでテレビシリーズとして製作されたが、キェシロフスキは社会・政治などの要素を映画から一切排除し、キャラクターの内面を描くことに注視。どのエピソードから鑑賞しても楽しむことができ、鋭くアイロニカル、しかし優しい目線で、現代に生きる人々の孤独と愛の苦悩を鮮やかに浮かび上がらせている。
その質の高さからベネチア国際映画祭に出品、その後世界で上映され、スタンリー・キューブリックが「重要な映画」と賛辞を送ったほか、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンら世界中の名匠がその才能を絶賛した。日本では1996年に劇場初公開、その後2005年にリバイバル上映され、今回の最新レストアによるデジタルリマスター版は初の公開となる。ポーランドのウッチ映画大学を卒業した石川慶監督、ロシア・ポーランド文学者の沼野充義氏、池田千尋監督、評論家の巖谷國士氏がコメントを寄せている。
4月上旬から、渋谷シアターイメージフォーラムで公開。2月27日から、7000円で全10話見られる前売券が劇場窓口、メイジャーネット通販で販売される。
▼コメント一覧
「デカローグ」には、映画のすべてが詰まっている、ポーランドの映画学校でそう教わった。
今回改めて全編見直してみて、考えを改めた。この映画には、人生のすべてが詰まっている。
石川慶(映画監督)
「十戒」とはいっても、ここには神も英雄もいない。解決不能な状況に直面した普通の人間の苦しみと欲望があるだけ。だからこれは私のことでもあり、あなたのことでもある。見終えてからしばらく立ち上がれない。
沼野充義(ロシア・ポーランド文学者・文芸評論家)
人間とはいかに不完全であることか、その卑小さに徹底した眼差しを向けながら、それでもキェシロフスキは言う。生きなさいと、生きていて良いのだと。今を生き抜くために、私はいつも彼の作品を見るのだ。
池田千尋(映画監督・脚本家)
切なくいとおしい。ナチスによる破壊から蘇った美しい都市、ワルシャワに生まれた十篇の物語は、ガラス窓と光の冷やかな感触とともに暖かく育ってゆく。樹木や風、人の表情まで結晶に変える映像に「ふたりのベロニカ」の予感も走る。
巖谷國士(写真家・評論家)