彼方のうた

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彼方のうた

解説

「春原さんのうた」で国内外から高く評価された杉田協士監督の長編第4作で、デビュー作「ひとつの歌」以来12年ぶりとなるオリジナル作品。

書店員として働く25歳の春は、ベンチに座っていた雪子の顔に浮かぶ悲しみを見過ごせず、道を尋ねるふりをして声をかける。その一方で、春は剛という男性を尾行しながらその様子を確かめる日々を過ごしていた。春は子どもの頃、街で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。そんな春の行動に気づいていた剛が彼女の職場に現れ、また春自身が再び雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動きはじめる。春は2人と過ごす中で、自分自身が抱える母への思いや悲しみと向き合っていく。

「スウィートビターキャンディ」「あいが、そいで、こい」の小川あんが春役で主演を務め、雪役で中村優子、剛役で眞島秀和が共演。

2023年製作/84分/G/日本
配給:イハフィルムズ
劇場公開日:2024年1月5日

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(C)2023 Nekojarashi Inc.

映画レビュー

3.5道で立ち尽くす主人公のショットがすごい

2024年2月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

登場人物は、何か重たいものを抱えていそうに見える。けれど、そのことははっきりとは描かれない。普段、道で通り過ぎる人もそれぞれの人生でつらいことを抱えているだろうが、それが何かはわからない、みたいな感じで、観客は映画を観ていても登場人物たちの内面をはっきりと見ることができない。普段通り過ぎて「風景」にすぎないよく知らない人々の、人生を少しだけのぞかせてもらうような、そういう鑑賞体験だった。

冒頭、主人公の春はどうして雪子に声をかけたのか。何か悩んでいるのだろうと察して道を聞くという行動で、寄り添おうとしたのだろうか。そして、不思議な春という主人公も何かを抱えていることが、終盤の道で立ち尽くす彼女のたたずまいから伝わってくる。このショットはすごくいい。道路を挟んだ向かいからカメラで捉えたその距離感が醸し出す、手が届きそうで、届かなさそうなその距離感が。
雪子の自宅で作られるオムライスが美味しそうだし、真島秀和演じる剛の娘と映画作りをする優しい空気感も心地いい。この映画は物語としてどこを目指しているかは不明なまま進むのだが、それが不快に全く感じないのがすごい。観終わったあと、街の景色が違って見えてくる。道行く人々にもそれぞれ人生があって、何かを抱えて生きているんだなという想像力が増すのだ。

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杉本穂高

4.0杉田協士監督作で反復される“うた”。多摩映画としての一面にもご注目

2024年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

楽しい

知的

杉田協士監督の長編映画は「ひとつの歌」「ひかりの歌」「春原さんのうた」そして今作「彼方のうた」と、常に“うた”がタイトルに含まれている。だがそれだけでなく、第1作では歌人・枡野浩一を重要な役で出演させ、2作目では枡野と共催した短歌コンテストで選んだ4首に基づき映画化、3作目は歌人・東直子の短歌を原作とするなど、短歌という抽象度の高い文学表現をいかに映画作りに転用できるかという挑戦を続けてきたようにも見受けられる。広大な世界と膨大な時間からひとときの状況と情景を切り取り、つないで、余白は受け手の感性と想像に委ねるというか。小説や漫画のようなストーリーテリングの手法とは目指す方向が違うので、ストーリーがわかりやすく具体的に語られる映画に慣れているとあるいはとっつきにくく感じるかもしれない。

登場人物らがすべてを把握して行動しているわけではないように、観る側もわからない部分はわからないままで、映画の流れに身をゆだねてこの世界の不確かさを味わうのもひとつの向き合い方だと思う。

なお東京都多摩市出身の杉田監督は、前作に続き今作でも同市関戸にあるカフェ「キノコヤ」をはじめ聖蹟桜ヶ丘駅近辺でロケを行っている。ちなみに3月2日公開の清原惟監督作「すべての夜を思いだす」は同じ市内でも多摩ニュータウンを舞台にしているのだが、撮影の飯岡幸子、音響の黄永昌など杉田組の常連が清原監督作にも参加している点が興味深い。多摩映画の輪が広がっているようでもあり、地元の人間として単純に嬉しい。

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高森 郁哉

3.5とにかく死んではダメということを訴えられた気がする。

2024年3月27日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

この作品は、主人公が何を目的に生きて、探して、人と関わっているかをずっと想像、観察しなければならない作品であった。

道に立ち尽くしたり、号泣されたり、抱擁されたり。これらの描写には恐らく死に関連があったものだったと思う。

現代社会の歪みを少しでもやわらげてくれるような作品だったのではないか。

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Ling

4.5道端で偶然出会った人々が、打ち解けて意気投合する様子…かと思いきや...

2024年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

幸せ

道端で偶然出会った人々が、打ち解けて意気投合する様子…かと思いきや、接近した意図があるような。

説明や理屈は、可能な限りそぎ落とされた映像、
過去の経緯など、断片的なフレーズは時折出てきます。
それぞれで打ち解けたり動揺したり。
演者さんの表情や目線や親密さなど、徐々に変わってゆく様子…。

観ている側が抱く印象は、観て聴いて何を理解するかに委ねられています。

普段の我々の生活でも、他の人々と出会って抱く印象は、みな画一ではないはずで。いちいち説明を授かれることもなく。それと同じことかな、とも。

同じ室内で同じ映像を数十人で観ているはずなのに、刹那や一期一会を感じるような。
映画をただ見たいだけの気分でいくと、なんのこっちゃで終わるかもしれないですね。
映画鑑賞も受け身なだけではいられないぞと、感覚を揺さぶられる映像体験でした。

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woodstock
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