劇場公開日 2023年8月18日

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クライムズ・オブ・ザ・フューチャー : インタビュー

2023年8月18日更新

「真なるシネマを映し出すのは映画館だけではない」デビッド・クローネンバーグが語る最新作、そして映画のこれから

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「クラッシュ」「ビデオドローム」などを手がけた鬼才デビッド・クローネンバーグの最新作で、ビゴ・モーテンセンレア・セドゥクリステン・スチュワートら豪華キャストが出演、第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、退出者が続出した賛否両論の問題作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」が公開された。

人工的な環境に適応するため進化し続け、人類の生物学的構造が変容し、痛みの感覚が消え去った近未来が舞台。体内で新たな臓器が生み出される病気を抱えたアーティストは、臓器にタトゥーを施して摘出するというショーを披露し、人気を博すが……という物語。本作のテーマを「人類の進化についての黙想」と語るクローネンバーグ監督が、このほど日本向けのオンラインインタビューに応じた。

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――初期作から、人体の“変容”“変態”という、トランスフォームをテーマにした作品をいくつか発表しています。映画監督になる以前から、そのようなテーマを表現することに興味があったのですか? 原体験のような出来事があれば教えてください。

私は子どもの頃から、動物や虫の営みに興味がありました。特に虫は様々な変容を遂げます。例えば蝶々なら、卵から毛虫、さなぎになって成虫に……と子どもの頃こういった変容を観察しながら、それぞれのアイデンティティについて考えたのです。さなぎと蝶は同一の存在なのか? と。それが原体験だと思います。このようなことが発端となって、地球上の生命体に興味を持つようになりました。

――今作主演のビゴ・モーテンセンとは「ヒストリー・オブ・バイオレンス」から4作目。また、あなたはビゴの監督作にも出演されています。長年にわたるお二人の関係について教えてください。

彼は真の同僚であり、コラボレーターです。ビゴは作家であり、詩人であり、音楽家でもある非常に多才な人。一つの映画の中で一つの役をやるときにも、いろんな味わいや考えを持たせてくれます。彼は頭がいいので、多くの質問をします。それを脅威に思う監督もいるかもしれませんが、私は大歓迎で、いい刺激を受けるのです。笑いの感覚も一緒で、その点でも楽しいです。プロのコラボレーターというだけでなく、友人だと思っています。

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――今作は1998年に書いた脚本をほぼ改稿せずに撮影に臨んだそうですね。

脚本は当時から一言も変えていません。プロデューサーのロバート・ラントスに、そろそろこの作品を作ってみてはどうか? と言われたので読み返してみたところ、まるで他人が書いたかのように感じました。20年以上の時間がたっていたので、相当変えないとならないと思って読み始めましたが、全くその必要はありませんでした。1998年からテクノロジーが進歩し、世の中も一変しましたが、それでもこの物語の意味が通るのです。そして今までになく、現代性を帯びた作品になっていて、環境破壊にも触れています。

脚本は変えずに進めましたが、撮影はいろいろと調整が必要でした。脚本通りのビジュアルになっていないシーンもあります。役者はそれぞれちがった持ち味をもたらしましたし、予算の都合でできることもあればできないこともあります。何よりも大きく異なるのは、ロケ地です。カナダのトロントを想定したのですが、最終的にギリシアのアテネで撮影することになりました。しかし、これはとても良い選択でした。アテネの都市文化や退廃的な雰囲気、そういった街の味を作品に反映させようと思いました。トロントの歴史は300年程度ですが、アテネは4000~5000年。その長さは異なりますが、壁に描かれたグラフィティなど、現代のアテネの街の良さを取り込みました。

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――昆虫や甲殻類を思わせる、今回の小道具のデザインも素晴らしかったです。プロダクションデザイナーである、キャロル・スピアとの仕事について教えてください。

私の作品をいろいろとご覧になっている方は、それぞれ他作品との結びつきを見つけたくなるかもしれませんが、私はひとつひとつ別のものとして完結させています。キャロルはチームを編成して、デザイナーのスケッチから、モデルを作ってくれるようなアーティストにテスト品を作ってもらったりと、まるで車やコンピュータを設計しているかのような感じで、細部、テクスチャーにこだわってデザインします。脚本に亀の甲羅のような、昆虫のさやのような……とあれば、キャロルは逐一そのイメージについて私に確認を取り、多くの話し合いと段階を経て作り上げていきます。

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――テクノロジーの変化と共に、映画の受容、消費のされ方も変化しています。50年というキャリアを経て、映画のこれからについてどのような考えを持っていますか?

私はかなり楽観視している方ですが、私の楽観視は皆さんの悲観視かもしれません。というのも、映画を上映するのはどんな手段があっても良いと思うのです。それは、テレビでも、iPadでも。私自身そのようなデバイスでよく映画を見ており、映画館へ行くことはほとんどありません。先日ベネチア映画祭で、スパイク・リーが「映画館は我々の教会である。だから守らなければ」と熱弁していたのですが、私は彼に時計(スマートウォッチ)を見せて「ここで『アラビアのロレンス』が見られるんだよ。1000頭のラクダだってわかるだろ?」とからかったんです。これが私の映画の見方なのです。真なるシネマを映し出すのは、映画館だけではないと思っています。

多くの人が、私の作品を様々なデバイスで見ることになると思いますが、それは大歓迎なのです。それこそ、「ビデオドローム」や「スキャナーズ」を撮っていた頃、これからは映画館よりもテレビで見られることが多くなるだろうとわかっていたので、画角も意識していました。テレビで放映される際は、16:9ではないので、複数のキャンバスに描く画家のような気持ちで撮っていました。今も、その延長にあると思います。今後、映画館で上映されるのはスーパーヒーローものだけになるのかもしれない。その後はどうなるかはわかりませんが、多くの人が映画を自宅で見ることになる、それを悲観してはいません。

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