春原さんのうた

劇場公開日:

春原さんのうた

解説

「ひかりの歌」で注目された杉田協士監督の長編第3作。作家・歌人の東直子の第1歌集「春原さんのリコーダー」の表題歌「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」を基に、喪失感を抱える女性がささやかな暮らしを続ける姿を映し出す。美術館での仕事を辞め、カフェでアルバイトを始めた24歳の沙知。常連客から勧められたアパートの部屋で新しい生活をスタートさせる彼女だったが、その心にはもう会うことの叶わないパートナーの姿が残っていた。2021年・第32回マルセイユ国際映画祭でグランプリ、観客賞、主演の荒木知佳が俳優賞を受賞。

2021年製作/120分/日本
配給:イハフィルムズ
劇場公開日:2022年1月8日

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映画レビュー

4.0文字と文字の間を想像することの豊かさ。

2022年4月30日
PCから投稿

もう放埒なくらい説明がない。最初は戸惑うのだが、決して描写に不足があるわけではないことがわかってくる。映画やフィクションでは、しばしばキャラクターが秘めていた心情を激情とともに吐き出したりするものだが、果たして現実にそんな場面に遭遇したとして、その言葉を額面通りに受け取れるだろうか? 発せられた言葉が気持ちのすべてとは限らないし、また気持ちのすべてを言語化することなど不可能だし、他人を理解することにも限界がある。だからこそ、なのかは知らないが、この映画では「大事な人を亡くした喪失感と再生」を、ドラマチックな展開などどこにもない、寄り道だらけの日常を通して描いているのだと思う。この言葉では説明しきれないものをビジュアル化した映画が、行間、というより、文字の隙間を想像するような短歌から生まれたという経緯にはなるほどと頷くばかりだし、映画が人の心の真実に触れるためのひとつのアプローチとして秀逸だと感じた。

とはいえ、見方によっては退屈だったり入り込みづらく感じることがあるのも想像できる。自分の場合は、劇中に登場する聖蹟桜ヶ丘のキノコヤや、主人公が住むという設定の小竹向原の駅前をたまたま知っていたことで、いきなりこの世界や人物や知性的な距離感が具体化して、突然集中力が増した。見る人によってそれぞれだろうが、どこかにひとつでもとっかかりが見つかれば、突然、自分と地続きに感じられる映画なんじゃないだろうか。

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村山章

4.0“令和の普段の多摩”を舞台にした映画としても

2022年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

幸せ

「濱口竜介と杉田協士:2021年の国際映画祭を賑わせたふたりに共通するもの」(あしたメディア by BIGLOBE)という記事を読んだ。指摘されているように、外国の映画人に高評価される共通項は確かにあるのだろう。とはいえ個人的には、演劇要素を多用しフィクションをフィクションとして提示することを追求している(それゆえ別世界の話として空虚に感じられる)濱口作品より、日常のささやかな出来事や心の動きを、まるでスナップ写真か短歌のように切り取って紡いでいく杉田作品のほうが、現実と地続きの話として身近に感じられるので好みだ(ちなみに杉田監督の長編で好きな順は「ひとつの歌」>「春原さんのうた」>「ひかりの歌」)。

東直子の歌集「春原さんのリコーダー」に収められた短歌「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」を“原作”としているが、それ以外にも郵便ポストのくだりなど、他の短歌に着想を得たと思われるエピソードも組み合わせている。カフェでバイトを始めた沙知(荒木知佳)が、引っ越しもして新生活をスタートさせる。彼女が抱えるある喪失感は、たとえば視線の先に映る人物の姿でさらりと示唆される。

説明過多な邦画に慣れた観客なら、あるいは情報不足のように感じるかも。ただし注意深く観ると、かすかではあるが確かにある感情の揺らぎや、巡らせる想い、再生への希望といったものが伝わってくる。一瞬の情景を切り取った写真や短歌のように、受け取る側が想像力をはたらかせて味わうタイプの作品と言えるかもしれない。

なお、沙知のバイト先のカフェは、多摩市の聖蹟桜ヶ丘駅から少し歩いた大栗川沿いに実在する「キノコヤ」という店。映画の上映会やトークイベントなども不定期で開催していて、多摩市出身の杉田監督がらみの企画も何度かあった。市内では広いレンガ敷の遊歩道が伸びる(冬はイルミネーション会場にもなる)多摩センター駅南口がロケ地になることが多い気がするが、「春原さんのうた」で映し出される駅から店までの街並みや、店の2階の窓から眺める川沿いの桜などは、地元で見慣れた普段の多摩そのもの。ジブリのアニメ映画「耳をすませば」で知られる「いろは坂」もすぐ近くにあるので、よかったらキノコヤにも寄ってみて(お酒も飲めます)。

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高森 郁哉

2.0キノコヤ

2023年3月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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いぱねま

3.5ちば映画祭定期上映会vol.01にて

2023年1月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

トークイベント付きの上映会鑑賞。鑑賞中は勘違いで胸糞悪い気分になったり、「え?」「何で?」が頭の中でいっぱいになったりしてたのだけれど、トークでの「作品の作り方」を伺って何となく腑に落ちましたね。まぁ、映画は作品で伝えてナンボだから難しい所ではあるのだが、「(現実で)人は人の事を全然知らない」という一点でスッキリとしましたん。そういや、大人になってから仲良くなった人の事って生い立ちや日々の事なんて知らないもんね。
結構後付けされた部分もあって冗長に感じる所はあるのだけれども、時間が経つとともに味わい深くなる作品ではありました。
原作が短歌での長編映画。出来事や風景を必要最低限に収める世界から、120分の映像世界へと変換させるのは、楽しくもあり難しくもあったんだろうなぁと思います。
良い時間でした。

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