劇場公開日 2020年7月10日

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透明人間 : インタビュー

2020年7月13日更新

立ち消えになった「透明人間」を蘇らせたリー・ワネル監督 その新たな“視点”とは?

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ユニバーサルのクラシック・キャラクターにインスパイアされたサイコサスペンス「透明人間」が、7月10日に公開される。「ソウ」シリーズの脚本家としても知られるリー・ワネル監督が、1度はとん挫した本作の企画に関わることになったきっかけや、盟友ジェームズ・ワンジェイソン・ブラムとの関係を語った。(取材・文/小西未来、編集/編集部)

天才科学者の富豪エイドリアンに束縛されていたセシリア(エリザベス・モス)は、ある夜、計画的に脱出を図った。悲しみに暮れたエイドリアンは、やがて手首を切って自殺。莫大な財産の一部は、セシリアに残されていた。その後、エイドリアンの死を疑っていたセシリアの周囲で、不可解な出来事が起こるようになる。命の危険を伴う脅威となって迫る“見えない何か”――セシリアは死んだはずのエイドリアンに襲われていること証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。「ゲット・アウト」「アス」を世に送り出したブラムハウス・プロダクションと、ワネル監督がタッグを組んだ。

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――「透明人間」といえば、ユニバーサルはもともと「ダーク・ユニバース」のひとつとしてリブートを企画していた経緯があります。トム・クルーズ主演の「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」が興行的に失敗した影響で、「フランケンシュタインの花嫁」や「透明人間」の企画が立ち消えになりました。あなたはいつこの企画に参加したのですか?

前作「アップグレード」が完成したばかりのころで、当時の僕はアクション映画の虜になっていた。もっと車をぶつけたり、ビルを爆破したりしたいと思っていたので、手に汗握るようなアクションがたっぷりの映画を作りたいと思っていた。ちょうどそんなとき、ブラムハウスとユニバーサルの人たちと会議で「透明人間」の話題になった。それまでの経緯は知らなくて、あくまで単独の映画として提案された。「このタイトルをどう思う?」「このキャラクターをきみならどうする?」と聞かれて。それで、僕は被害者の視点で描きたい、と答えた。例えば、DV被害女性の立場からとか。その場で思いついたことを話したら、いつのまにかこの仕事をもらうことになった。透明人間というキャラクターに惚れ込んだのは、脚本を書き始めてからだ。まだ探索されていない領域がたくさん残されていることに気づいてね。

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――「透明人間」はこれまで何度も映像化されていますが、参考にした作品はありますか?

H・G・ウェルズの原作と、1933年の映画が出発点となっている。いつも脚本を書き始めるときは、メモ帳とペンを手にして、ありとあらゆるアイデアを書くんだ。ひどいアイデアも含めてね。それを数カ月続けているうちに、映画の形が浮かび上がってくる。この映画に関して最初にメモ帳に書いたのは、「どうやったら透明人間を再び怖くすることができるのか?」ということだった。

透明人間というキャラクターはずっと前から存在していて、大衆文化に定着しているので、現代の観客にとっては怖くない。浮いているサングラスやパイプなど、その描写はほとんどコメディだ。僕としては、コミカルな要素を取り除き、恐怖を抱かせる存在にしたかった。だから、透明人間を主役にしないことに決めた。謎めいた人物であればあるほど、恐怖が増すと思ってね。それで、エリザベス(・モス)が演じる主人公を中心に、物語を作り上げていった。だから、オリジナルの小説は題材にせず、あくまでもそこで描かれたキャラクターにインスパイアされて、物語を作ったんだ。

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――セシリア役にエリザベス・モスを想定して脚本を書いたのですか?

脚本を書いているときは、役者を想像していない。実は、いつも友だちをそれぞれのキャラクターに配役して脚本を書いているんだ。だから、脚本が完成したときには、頭のなかで勝手に思い描いていたキャストとお別れしなきゃいけない。出演者に関して理想のキャストを書き出してみたんだが、それほど長いリストにはならなかった。メリル・ストリープダスティン・ホフマンに匹敵する素晴らしい俳優はそれほどいない。ハリウッドにはたくさんの映画スターがいるが、息を呑むような素晴らしい演技力がある役者となると、とたんにその数は限られてしまう。エリザベス・モスは間違いなくその数少ない演技派俳優のひとりだ。その実力は、これまでの出演作で証明済みだ。

――実際に一緒に仕事をしていかがでしたか?

彼女は超自然的な演技力を持っている。僕は脚本家として、紙の上にどんなセリフだって書くことができる。でも、そのセリフの良し悪しは、演じる役者によって決まる。かつてハリソン・フォードジョージ・ルーカスに告げた有名な文句がある。「君がこのセリフを書くのは自由だが、僕にはとても言えない」と。エリザベスはすべてのセリフをより良いものにしてくれる。言い回しもそうだし、より良いものに書き替えてくれる。さらに、女性としての視点も持ち込んでくれた。彼女は役者としてだけではなく、共同脚本家となってサポートしてくれたんだ。

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――あなたは、ワン監督やプロデューサーのブラムとのコラボレーションで知られていますが、ふたりとはどんな関係ですか?

ジェームズ・ワンとは映画学校で知り合ったんだ。メルボルンの映画学校で出会い、ほとんど恋愛関係のようになった。芸術家気取りの学生たちのなかで、「死霊のはらわた」のようなホラー映画を心底愛しているのは僕らだけだった。卒業してからも一緒に映画作りをすることになった。もしあのときジェームズに会っていなかったら、こうして取材を受けることもなかったと思う。彼との出会いが、ここに繋がっている。ジェームズは僕にとって兄弟のような存在だ。

ジェイソンと出会ったのは、ジェームズと僕が「ソウ」を作って、“15分の名声”を謳歌していたときだ。「あの映画が大好きだ」とみんなが言ってくれて、ハリウッドでたくさんの人たちと会ったけれど、何も起きなかった。ハリウッドの歯車の動きはとても遅いんだ。そんななか、僕らを救い出してくれたのがジェイソンだった。「映画をインディペンデントで作ろう。予算は少ないし、なにも特典はないけれど、クリエイティブ面での自由を与える」と。それで、僕らは「インシディアス」を一緒に作ることになったんだ。

ジェイソンもジェームズも僕の人生において核となる存在だ。ジェームズは映画作家として影響を与えてくれた。ジェイソンは、クリエイティビティを刺激してくれる存在だ。ありあまるほどのエネルギーを持っているので、近くにいるだけで、もっとやりたいと思わせてくれるんだ。

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