劇場公開日 2020年1月31日

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ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 : 映画評論・批評

2020年1月21日更新

2020年1月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

観客を巻き込んで一気に突き進む謎解きゲーム。ミステリーはこうでなくちゃ!

面白いと言う意味では本年度の賞レースで随一。ニューヨーク郊外の古びた豪邸でミステリー作家が遺体で発見され、そこに集まった家族全員に遺産をめぐる殺害の動機があって、事件の裏に隠された意外な真実を名探偵が暴いていく。作家の死は自殺か他殺か? 家族各々が秘密にしたい、浮気、財産の2重取得、ファミリービジネスからの突然の解雇、遺産相続リストからの除外、等々の、どれが動機として最も相応しいのか? 事件当夜、作家が家族よりも信用していた看護婦が投与した薬物の中身は? と来て、そこに最大のトリックを仕掛けた脚本にはうっとりしてしまう。

監督のライアン・ジョンソンが敬愛するミステリーの女王、アガサ・クリスティに捧げたストーリーは、「オリエント急行殺人事件」を始めクリスティの代表作をなぞりつつ、随所に捻りを加筆している。過去に於いて、原作ではベルギー人のエルキュール・ポワロを映画ではイギリス人俳優(アルバート・フィニーピーター・ユスティノフケネス・ブラナーetc)が演じたのとは逆に、イギリス人のダニエル・クレイグに南部訛りがキツいアメリカ人の探偵を演じさせたり、遺産を狙うダメな長男夫婦に往年の(と言ったら失礼か)スター、ジェイミー・リー・カーティスドン・ジョンソンを、謎の鍵を握る誠意溢れる看護婦にフレッシュなアナ・デ・アルマスを振ったキャスティングが効いている。つまり、配役そのものに明確な意図があるのだ。

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何よりも、このストーリー全体が、観客を巻き込んで一気に突き進む、一切破綻のない謎解きゲームになっている点が楽しい。ミステリーはこうでなくちゃ! ゲームメーカーはあの世から下を見下ろす犬神佐兵衛(ひと騒がせな遺言状を残して他界する「犬神家の一族」の大富豪)みたいな老作家(クリストファー・プラマー)であり、残された家族や使用人、そして、固唾を飲んで成り行きを見守るぼくたち観客はプレーヤーである。

嘘をつくとところ構わずゲロしてしまう正直者の看護婦は南米移民の娘で、作家一族は遺産のためにも外部者の彼女を何とか追い出したいと考えている。そこに、移民排斥を訴える一部アメリカの醜い現実を重ね合わせたのは、楽しさの中に苦い隠し味を忍ばせた、これもライアン・ジョンソン渾身のトリックだと思う。

清藤秀人

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