劇場公開日 2020年2月21日

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Red : 映画評論・批評

2020年2月11日更新

2020年2月21日より新宿バルト9ほかにてロードショー

トリュフォーの名作を思わせる、狂おしいまでにパッショネイトな恋愛映画

幼な子われらに生まれ」(17)で再婚同士による家族の再生というモチーフを描いた三島有紀子監督が、一転、狂おしいまでにパッショネイトな恋愛映画を撮った。娘がいて、夫・村主真(間宮祥太朗)の両親と同居し、一見、何不自由のない暮らしを営む専業主婦の塔子(夏帆)は、あるパーティで十年ぶりにかつての恋人だった鞍田(妻夫木聡)と再会し、内からこみあげてくるように愛の想いが一挙に再燃する。このかつて愛し合ったカップルが抜き差しならない深みへと落ちてという物語は、否応なくフランソワ・トリュフォーの「隣の女」(81)を想起させる。

映画は、豪雪の新潟から鞍田と東京へ帰る車中の塔子の視点による回想形式が採られているが、冒頭から、あたかも二人だけの逃避行、〈死〉の気配を濃厚に漂わせる道行のような沈鬱なトーンが支配する。この意図的に滑らかさを欠いた、過去と現在を行きつ戻りつする、破局の予感に満ちた語り口から、次第に浮かび上がるのは、家庭という〈桎梏〉の中で自己を摩滅させ、窒息しそうになっている塔子というヒロインの悲痛な受難の痕跡である。

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鞍田は周到な布石を打つように塔子を自分が在籍する建築会社に招き寄せ、意図どおりに関係が復活する。しかし、当初、老練な誘惑者であるかにみえた鞍田は、塔子と同様に深い孤独と欠落感を抱えており、その引き合う磁力にたしかな傍証を与えてくれるのが同僚の小鷹(柄本佑)の存在だ。小鷹が飲み会から塔子を連れ出し、湾岸沿いを相乗りの自転車で疾走する場面は、やはりトリュフォーの名作「突然炎のごとく」(61)でジャンヌ・モローが坂道を滑走する同工のシーンを思い起こさせる。終始、怯える小動物のような硬い表情を崩さない塔子が、唯一、破顔一笑するこのシーンは、画面そのものが生の昂揚、躍動感にあふれていて忘れがたい。柄本佑の絶妙でしなやかな好演もあり、ここで一瞬、ジュールとジムよろしく、三角関係のドラマが形づくられるのではないかと錯覚してしまうほどだ。

二度目のセックスの際に、鞍田が涙をにじませながら応える塔子に「なぜ、そんな哀しい顔をするの」と囁くシーンが印象に残る。三島監督は、あらゆる呪縛によって心身ともに幽閉されてしまっている塔子というヒロインをなんとかモラルという重力から解放させたいと祈念しているかにみえる。

そして、パズルのピースが整った仮借ない場面に続いて、茜色に染まった車中に塔子の決然とした声が響き渡り、ラストシーンが訪れる。ここで、一見、この微妙なズレを露わにさせた回想形式が選ばれた真の理由が明らかにされるのである。

高崎俊夫

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