劇場公開日 2020年6月5日

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「ジム・ジャームッシュの映画術」デッド・ドント・ダイ inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)

ジム・ジャームッシュの映画術

2020年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ジム・ジャームッシュがゾンビ映画、と聞いて意外と思った人も多いだろう。日本でなら是枝監督がホラー映画を作るようなものだと言っても案外的外れでもないだろう。そんな期待と不安の入り混じった心境で臨んだ映画館は、コロナ休業が明けてようやく再開したばかりだが、一席おきの座席指定もその必要さえいらないくらいのがら空き状態。こんな時に映画を見ていていいんだろうかと自問しつつ始った映画は、うーんやはりジム・ジャームッシュ、こんなシュールなゾンビ映画は見たことがない。

 遊び心いっぱいの映画である。あちこちに洋の東西あれやこれやの映画へのオマージュがちりばめられている。いちばん分り易いのは『キル・ビル』のユマ・サーマンをそっくりコピーしたようなティルダ・スウィントンの葬儀屋の女主人。印象深いあの黄色いスーツで日本刀を振りかざし、迫りくるゾンビを一刀両断にする。その表情はあくまでクールだ。そして最後はゾンビに占領されたこの世界に見切りをつけるように突然現れたUFOに乗って去ってゆく。そう、この映画で生き残るのは、宇宙へ飛び去った彼女と、施設から逃げ出した少年少女、そして浮浪者の老人だけなのである。

 出現するゾンビそれぞれが、生前思い入れのあったものへのこだわりを持っているという設定がユニークだ。コーヒーゾンビに始り様々なゾンビが登場するのだがその割には中盤までその設定があまり生きては来ない。だが、終盤女性警察官の祖母がゾンビになって現れるところでなんとも形容し難い事態に発展する。このアイデア、この結末のためだったかと得心せざるを得ないこれまたシュールな展開だ。

 ビル・マーレイとアダム・ドライバーの警官コンビが最初から最後まで言い争っている台詞の応酬。ジャームッシュ映画では常連のこの二人がゾンビの群れに飲み込まれてゆくラストに漂う無常感。韓国発ゾンビ映画の大傑作『新・感染』とは真逆の絶望感しかない映画の終幕に、なんだかものすごいものを見てしまったという不可思議な驚愕が残る。コロナ渦巻くこのご時世に、ゾンビの蔓延で世界が終末を迎えるというこの映画。「死者は死なない」!。なるほどジム・ジャームッシュの映画術に嵌まってしまう怪作だ。

inosan009