劇場公開日 2021年2月26日

  • 予告編を見る

「女性監督の台頭が著しい昨今。男社会はすでに踏み台でしかない。」あのこは貴族 レントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0女性監督の台頭が著しい昨今。男社会はすでに踏み台でしかない。

2023年4月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

難しい

「はちどり」や「82年生まれキム・ジヨン」、「スワロウ」そして本作と、最近とにかく女性の解放を描いた作品が目立つ。「スワロウ」以外は新進気鋭の女性監督による作品だ。

私自身不勉強で知らなかったが、女性芸術家が男性に比べて冷遇されてきた時代があった。
政治の世界や医療の現場でのそれはまだしも芸術の世界まで男尊女卑がまかり通っていた事実にショックを受けた。そんなものに縛られないことこそが芸術の世界だと思っていたからだ。だがその実態は「燃ゆる女の肖像」でも描かれていた。

それだけに今まで抑圧されてきた女流作家のエネルギーが作品に昇華されて素晴らしい作品を次々と生み出している。いずれは女流作家、女性監督という言葉も死語になるだろう。

本作の主人公華子は裕福な家庭で何不自由なく育った典型的箱入り娘で、年頃になり当たり前のように結婚を周りから急かされるものの、なかなか相手は見つからず彼女は焦っていた。
なぜ年頃だから結婚せねばならないのか、彼女自身わかってない。強いて言うなら「そういう風に育てられた」からであろう。
「年頃」の彼女は相手を探すもなかなかお目当ての相手には巡り合えない。同級生の間で未婚なのは彼女とバイオリニストの逸子だけだ。その状況が彼女をさらに焦らせる。
しかし、ようやく相応しい相手に巡り会えた。彼女よりも階層が高い良家の御曹司だ。

念願の結婚を果たした彼女だったが、やがてその結婚生活において自分の居場所がないことに戸惑いを覚える。自分の知らないところでどんどん物事が進み、自分は蚊帳の外だと感じる。

夫となった幸一郎は自分と同じく良家の生まれで「そういう風に育てられた」人間だった。家の思うがまま生きざるを得ない、そのように生きることに疑問さえ抱かない夫をそばで見続けた華子は彼の姿を通して今までの自分自身を見たのだろうか。

そして華子はかつて夫と関係のあった美紀との出会いを通して人生が一変することとなる。
美紀は地方出身の中流家庭の生まれであり、華子にとっては異質の存在であったが、間違いなく新鮮な存在だった。
美紀との触れ合いの中で華子は自分を取り巻く環境、自分を縛り付ける境遇に違和感を覚え始める。
そして美紀のある言葉が決定打となり、華子は生まれて初めて大胆な行動を取る。それは夫、幸一郎との離婚だった。
この世に生を受けて今まで自分を縛り付けてきたものにただ身をゆだねて生きてきた彼女にとって、自己を解放させる大胆な行動だった。その行動を可能ならしめたもの、それは彼女が唯一この世で自分が自分として培ってきたものである友情であった。
美紀が言うようにお金でもなく地位でもない、人が生きる上で最も大切なものは自分の気持ちを素直に打ち明けられる人がいるかどうかだ。

一年後、逸子のマネージャーの仕事をしている華子は幸一郎と再会する。けして互いを嫌いになって別れたわけではない。解放され自立した華子は今度は一人の人間として本当に好きな人を選ぶのだろう。その対象は別れた夫も例外ではない。

本作を観ていて、夫側のエリート層がえらく紋切り型に描かれていたが、これはあえて意図した表現とも思われた。今まで女性を縛り付けてきた古い慣習を単純化することで、より女性の解放をわかりやすくする効果があったと言えるだろう。
すなわち古い男社会はもはやこれからの女性を際立たせるための舞台設定でしかないということだ。

本作はそのメッセージ性の強さもさることながら役者陣、とりわけ女優陣の自然な演技に魅了される作品だった。

以前書いたレビューが全削除されたため再度掲載させてもらった。今は無きテアトル梅田にて鑑賞。

レント
NOBUさんのコメント
2023年9月6日

レントさん 今晩は。
 私も安倍政権時代には「東京クルド」「マイスモールランド」「ワタチタチハニンゲンダ!」や「新聞記者」「i-新聞記者ドキュメント」。菅政権時代の「パンケーキを毒見する」などでは可なり政権批判をしたレビューを上げましたが、削除されていません。
 予想ですが、レントさんの名が所謂ブラックリストに上がっているのかも知れません。私は、削除経験がないので何とも言えませんが、このサイトのレビュー削除理由を開示しない姿勢には疑問を感じますね。(法的に言えば、言論の自由に抵触している可能性は大いにあります。)
 只、私がこのレビューサイトが好きなのは、素敵なレビュアーさんが多いんですよね。(最近、一人増えました。ヤンチャな方ですが、私は好きです。)
 ワンコさんがいらっしゃったからこそ、私はこのレビューサイトを記録用に使っていたのをレビューに上げるようになったので、もし宜しければ元気にやっているとお伝えくださいね。では。

NOBU
ミカさんのコメント
2023年4月22日

男性社会は映画業界も例外ではないので、女性監督だとどうしても応援したくなります。妊娠のコントロールとテクノロジーの発展(体力を必要としない)で、仕事が増え、女性が結婚や出産に囚われなくなるので、母親の時代よりも選択肢が増えましたよね。

ミカ