劇場公開日 2021年2月26日

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「ありのままでいいってこういうことかな」あのこは貴族 ヨルさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ありのままでいいってこういうことかな

2021年4月11日
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鑑賞方法:映画館

「ありのままでいい」って言葉が嫌いだ。
どんな人間だって平等だし、自由であるべきだし、正解なんてないし、どんな個性でも認められるべきってのは分かる。
でも、長年かけて構成された「ありのままの自分」は育った環境や価値観で無意識に固められている。勇気が出なかったり人と比べてしまったり自分の立場を認識したり、そういう仕方なさも自分なのに、「ありのままでいいんだよ」という一見甘い囁きは、そういった「自分のバックボーンや性格を受け入れ、決別して、ウジウジ人と比べないでいい加減自立せよ」という厳しい言葉に聞こえてしまうのだ。少なくともありのままの私は。

原作は未読だけれど半年前の予告からずっと惹かれていた「あの子は貴族」は、楽しみにしていた以上に素敵な映画だった。
生まれも育ちも東京のお嬢様、華子の門脇麦(いい意味で泥臭い役のイメージがあったのだけれど、完璧に上品で世間知らずのお嬢様で、頭からつま先までこんなに可愛らしかったの!)と
地方から上京したけれど大学を中退、夜の仕事をしながら強く生き抜いてきた美紀の水原希子(顔面もスタイルも美しすぎ、、それでいて実家でジャージに履き替える自然さが素敵でした笑)
東京で生活しながらも本当に正反対の2人は、羨ましがられるところも、惨めさを感じるところも正反対。
1人の男を通じて出会うという構図にはハラハラしたけれど、2人は喧嘩する訳でも見下し合う訳でもない。更に良いなと思ったのは、特別親友になる訳でもなく、静かにお互いと自分を認め合いながら、大事な友達はそれぞれ同じ世界にいるというところだった。
逸子の言う通り、とかくカテゴライズされ、対立させられがちな20-30歳代の女性たちだけれど、戦う必要なんて無いし、ぶつかって自尊心をすり減らす必要なんて全然ない。で、ついていけないならお互いが必要以上に歩み寄ったりする必要もないんだという優しさをしみじみと感じた。
形は違えど懸命に生きる2人や女性たちの一つ一つのシーンがたまらなく愛おしくて美しかった。

私は田舎の微妙に裕福な家庭で育ち、親のお金で上京して、今は安月給でなんとか東京で生きている。
偉そうだけれど、どちらの世界のコンプレックスや窮屈さも分かるような気がして、どちらも美しく立派な女性だと感じた。

人種や性別や宗教や、世界的に見ればもっと大きな違いなんていくらでもあるけれど、分かり合って皆がシェイクハンズする日なんてこないけれど、東京の片隅で、女性同士がこんな風に弱さを抱えながら自分を生きることができたら、それが「ありのままでいい」に繋がるのかな、と思った。

一瞬の音楽や光景も大事にしたい、素敵な作品でした。

はたはた