劇場公開日 2021年2月26日

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「私の億劫な気持ちを画と物語で代弁してくれました。」あのこは貴族 JJJJJさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0私の億劫な気持ちを画と物語で代弁してくれました。

2021年3月28日
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箱入り娘の婚活奮闘記。
物語のテーマや主人公の置かれている立場は「スワロウ」と通づる所があり、スワロウを頭の片隅に置きながら観ていました。

女性の生き方を問う映画は昨年沢山観ましたし今年も沢山上映されるでしょうから、作品に何らか特徴がなければ印象には残りません。その点、本作は貴族という日本でもよく知られていない閉ざされた世界が舞台で、そこにミキティのような庶民派や逸子のような海外生活者の価値観を入れることで貴族の世界をよりメタ的に見れる作りになっています。また、この手の映画には珍しく男性側の苦悩も描かれており、決して短絡的な作りにはなっていません。そもそも邦画でこういったテーマを取り扱っていることが私には新鮮で、持続的に興味をそそられました。

私にとって幸福とは「自分の欲求を理解する。その欲求に基づいた行動をする」というシンプルな行動原理です。これに制限を掛けるのが「他人の目」であり、それが家族の場合だとなかなか抜け出せず呪縛と化すケースがあります。私は家族が作り出した文化を継承するのが億劫で未だに結婚に興味が持てませんし、結婚となると相手方の家族の事まで考えなければならないので二重苦です。本作はそんな私の孤独な気持ちを画にしてくれた作品でした。
華子はジャズや舞台が趣味だなんて言っていましたが本当は興味ないと思います。離婚という決断は彼女の生まれて初めての意志だったかもしれませんし、お陰で自分の物語を手に入れることができて良い結末でした。一方で幸一郎のその後はどうなっていくのでしょうか?これはスワロウの時も思ったのですが、今後は男性側のにスポットを当てた作品も見てみたいです。今は多様な生き方が認められる時代なのでそういう作品も今後増えてくることでしょう。

最後に、本作は印象的なシーンが多かったので幾つか記録しておこうと思います。

・ミキティと幸一郎の食事シーン
大衆中華屋という普段の2人から遠く離れた着飾らなくて良い場所。幸一郎にとって自分の生い立ちを話す必要のなかったミキティの存在は大切だったはずです。

・ミキティが起業に誘われるシーン
ミキティはずっと誰かに必要とされたかったんですね。即答したことからその喜びが伝わってきます。
ミキティの生い立ちは庶民的ではあるものの、家庭の事情に巻き込まれている点では華子と同じ。追い込まれていたとはいえ、自分の意思で自らのレールを作れる人はやはりカッコイイし、そういう人について行きたくなる。華子の気持ちがわかる。

・華子のタクシーから降りるシーン
多くの人がこのシーンが記憶に残っているはず。
全自動的に移動する華子と自らの足でペダルを漕ぐミキティのそれぞれの生き方のメタファー。ミキティに助けを求めていたんだと思いますが、何はともあれミキティという存在が華子を変えたんですね。華子にとって幸一郎は何気ないことすら話せない存在だったんですね。

個人的に思い入れの強い作品でした。

チェザーレ