劇場公開日 2021年2月26日

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「東京って棲み分けされているから。違う階層の人とは出会わないようにできてるから。」あのこは貴族 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5東京って棲み分けされているから。違う階層の人とは出会わないようにできてるから。

2021年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

東京の、無機質なビル群の風景を見ているだけで、なんでこんなに悲しいのだろう?
街を行き交う人の姿が、なんでこんなに愛しいのだろう?
自分とははるかに階層の違う華子の生き方が、なんでこんなに共感するのだろう?

社会にはミルフィーユのように階層がいくつもあって、例えば幸一郎は最上部の階層で、華子はそのすぐ下の階層で、美紀はといえば下は下でも真ん中くらいで。だけど幸一郎と華子の階層差より、華子と美紀の階層差は著しくかけ離れていて。そんな美紀より下の階層さえも、まだいくつもあって。たぶん、無限に。
同じ東京にもいくつもの階層の人間が生きている。「みんなの憧れでつくられていく、幻の東京」、そうまさに。そうなのだよ、ほんとに。だけど、みんなそれに寄り縋って生きている。それを本物だと信じることで、自分の存在を確かめている。地方民である自分でさえ、外部は外部なりの階層がある。
そう意識していた時、「事情は分からないけど・・最高の日もあればそうでのない日もあるよ。それを話す相手がいれば十分じゃない?」の言葉に、滝に打たれるような感覚を覚えて泣いた。たぶん、かつて勤めていたオフィスが、二人が見上げている東京タワーとほぼ同じアングルだったせいもあったのかもしれない。孤独を感じていた華子にとって金言であったように、僕にも響いた。

嫌味なく押し寄せるさざ波のような悲しみに襲われる気分に満たされながら映画館を出て、誰一人知り合いのいない新宿の街にたたずんだ。華子が最後の手にした解放感を味わいながら、この映画が、公開してずいぶん経っていながらも武蔵野館の客席が満席になる理由がわかったような気がした。

栗太郎