劇場公開日 2019年11月8日

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「田中裕子/筒井真理子/松岡茉優」ひとよ ミカさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0田中裕子/筒井真理子/松岡茉優

2020年6月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

白石和彌監督の凄いところは、キャスティングと俳優を覚醒させる力。そして、演技力がないと成立しないキャラクター設定。失礼ながら、佐藤健がこんなに良い俳優だということを知りませんでした。また、なんと言っても私が大好きな素晴らしい俳優である田中裕子、筒井真理子、松岡茉優をチョイスするセンスの良さよ。日本の映画界が危ぶまれて随分経ちますが、俳優も良い監督や良いキャラクターに出会えないと覚醒はできないのではないでしょうか。TVの様な軽いタッチの映画やTVドラマの映画版が主流の今、白石監督は日本映画界では稀有な存在だと思います。

2010年に日テレで放映した『Mother』という名作ドラマがあったのですが、その時の田中裕子の演技が良すぎて驚いた記憶があります。今作はその『Mother』を思い出させる内容でもありました。児童虐待で亡くなる子供が減らず寧ろ年々増えている現実。そしてDVの被害者でありながらも加害者にもなってしまう女性。自分や子供を守る為に夫を殺したこはるは、暴力を放置する日本社会に対する憤りや絶望を象徴している存在だと思います。法制度が機能していない状況で、弱い立場の人間ができることには限りがあります。もし、こはるが夫を殺さなかったら、最終的には誰かが殺されていたでしょう。私達が語る『正しさ』とは一体何?

社会の中で苦しむ人達に言葉を持たせて、私が想像できなかったことを想像しやすく描くところや女性を男性目線のステレオタイプで描くのではなく、ひとりの人間として描くところが、私が白石監督を好きな理由です。今作でも、DVや虐待をする男は容赦なく殺す。モラルなんて関係ない。アルモドバル監督と同じです。

ミカ