劇場公開日 2019年7月26日

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「筒井真理子の豪腕全力投球」よこがお ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5筒井真理子の豪腕全力投球

2019年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

梅雨のジメジメ時期は、選挙関係の偏向な報道やら、吉本騒動の無責任なジャーナリズムやら、京アニ遺族への非常識なマスコミ取材やらに気分悪くなってたし、もう、そういうの忘れて仕事と映画を楽しもう!という気分で観た…。

非常識なマスコミ取材気分悪いわ!!!

マイティ・ソーのトンカチで一人ひとり頭割られてろ!って話。

…って、さすがに今この時期観ると思っちゃうんだけど、たぶんそういう「ジャーナリズムの暴力」へのアンチテーゼがこの映画の主題ではないと思うので、まぁ、それはそれとして。

なにはともあれ“筒井真理子 THE MOVIE”と言ってもいいくらい、筒井真理子が豪腕全力投球で筒井真理子。

「みんな見て見て!これがオレの好きな女優:筒井真理子だよ!!」っていう、深田晃司監督の惚れ込みっぷりが、スクリーンからビッシャビシャにダダ漏れてる。

「筒井真理子をキレイに撮りたい!」ってだけのモチベーションじゃなくて、「筒井真理子の女優としてのポテンシャルを全部写し取りたい!!」みたいな情動を感じる。

たぶん筒井真理子もそのへんを信頼していて、「なんでも来いや!やってやる!!」という猪木イズムを発揮できている気がする。

そんな深田晃司監督と女優筒井真理子の信頼関係で結ばれた、“映画界のBI砲”と言うべきタッグが見せようとする試合が、面白くないわけがない。

『淵に立つ』でも筒井真理子は、シン・ゴジラばりの形態変化を見せてくれたし、本作でも筒井真理子はフリーザばりの戦闘フォームチェンジを見せてくれる。時間軸を説明するための髪型髪色や衣装のフォームチェンジだけじゃない。リアルに戦闘形態に変形したりしてるので、「何させてんねん!!」と本域でビックリした。
僕モテラジオで上鈴木伯周さんが「筒井真理子は日本のイザベル・ユペールだよね」ってチラッと評してたけど、確かに確かに。本作は少なからず『ELLE』は意識したと思う。自室の窓から男を覗き見る場面なんて、「この後主人公がオナニーし始めたらどうしよう!!」って思ったもん(笑)。

でもそういう主人公の人物造形を、「熱演、怪演の女優魂」みたいなケレン味だけにしていないのは、深田晃司監督の演出の上手さと女優筒井真理子の演技の器の凄さだと思う。

以前『旅のおわり世界のはじまり』を評したときに、“演技の強度と精度”について論じたけれど、筒井真理子は本作で、強度の演技も精度の演技もキッチリ演じ切っていて感動的だった。

細かいところだけど、筒井真理子が訪問介護先をクビになる場面があって、それを言い渡された瞬間の筒井真理子の表情の変化が、悔しさや悲しさや怒りややるせなさといった何層かの感情のグラデーションを表現していて本当にスゴい。

深田晃司監督の作劇の巧みさ、演出のカッコ良さ・品の良さもスゴい。

Jホラーの一歩手前のような光と影の演出で、「追い詰められる感」や「壊れ始める感」がゾクゾク伝わってくるし、「主人公の引きずる足音」や「インタフォンのうるさい音」とかで主人公の感情の揺れがビシビシ伝わってくる。

公園のベンチで筒井真理子と吹越満が(物語的にけっこう重要な)話している場面を、子どもが遊んでる背景として見せるところとか超カッコ良かったし、

主人公の「叫び」を、どのようにして表現したか?っていうことも、すっごく心に刺さる「叫び」だった。

お話としては『淵に立つ』に通じる部分が多いように感じて、それが深田晃司監督の作家性なのかどうかはもっと他の作品を観る必要があるけど、“自分が囚われてしまった呪いとの折り合いをどうつけていくか”の物語だったように思う。
ある意味では『淵に立つ』の対になっている話だし、別の意味では『淵に立つ』を違う視点でなぞった話であるとも言えるかもしれない。

どちらにしても面白かったし、観る価値のある映画だと思う。オススメ。

ウシダトモユキ(無人島キネマ)