劇場公開日 2020年1月17日

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ラストレター : 映画評論・批評

2020年1月7日更新

2020年1月17日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

岩井俊二が呼び起こす、初恋に纏わる追憶の欠片

岩井俊二監督の最新作タイトルが「ラストレター」だと知った瞬間、否応なしに「Love Letter」(1995)のことを想起したのは、何も筆者だけではないはずだ。その世界観を踏襲しているかと問われれば肯定することも否定することもできるが、従来の岩井ファンだけでなく、性別問わずあらゆる世代の“心”に届く、紛れもなく珠玉の作品に仕上がっている。

ラストレター」は、手紙の行き違いをきっかけに始まった2つの世代の男女が繰り広げる恋愛模様、それぞれの再生、成長を描く、岩井監督の自伝的要素が盛り込まれたオリジナルストーリー。姉・未咲の葬儀に参列した裕里(松たか子)は、姉の愛娘・鮎美(広瀬すず)から未咲宛に届いた同窓会の案内、鮎美に残された手紙の存在を知らされる。未咲の死を知らせるため同窓会を訪れた裕里は姉と勘違いされてしまい、再会を果たした初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と始めた不思議な文通も、未咲のふりをして書き続けている。その内のひとつの手紙が鮎美に届いたことから、鏡史郎(回想:神木隆之介)、未咲(回想:広瀬)、裕里(回想:森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出が紐解かれていく。

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手紙の往来と聞くと、使い古された手法と感じる人がいるかもしれない。ましてや「Love Letter」の時代とは違い、通信手段が劇的に進化した現代社会にあっては尚更だ。だが、そこは稀代の映像作家・岩井俊二の面目躍如たるところ。現在と過去を行き来しながらも、“夏休み”という限られた期間を巧みに使うことで、見る者の心を鷲づかみにし、物語の中へと引き込んでいく。

また、特筆すべきは女優たちへの愛情の注ぎ方にある。「Love Letter」の中山美穂、「四月物語」の松たか子、「花とアリス」の鈴木杏蒼井優の瑞々しい魅力を撮り切ったのと同様に、今作でも広瀬と森の今しか引き出せない美しい面持ちを、余すことなく本編に映し込むことに成功している。具体的なことはネタバレになるので記述できないが、広瀬と森が傘をさして佇む場面は胸をえぐられそうになる。

少女から女性へと移行していく限られた瞬間を出し惜しみすることなくスクリーンに提示することで、見る者はそれぞれの青春時代の記憶を呼び起こされ、淡い初恋へと思いをめぐらせることになる。美化されがちだが、残酷なことも含め、この追憶の欠片に身を浸すことで岩井監督が伝えたかったことが心に染み渡ってくるはずである。

大塚史貴

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