劇場公開日 2018年9月28日

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かごの中の瞳 : 映画評論・批評

2018年9月18日更新

2018年9月28日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

人間関係の“深い闇”が描き込まれた、欲張りでチャレンジングな1作

 交通事故で失明したジーナは今、事故後に知り合った夫のジェームズと共に、彼の赴任先であるタイのバンコクで不自由ながら幸せな日々を送っていた。希望通り角膜移植手術を受けてめでたく視力を回復するまでは。

見えないことが彼ら、彼女らを事件に巻き込んだり、それが返って武器になる過去の同種の作品とは違い、見えたことが皮肉にも不幸を呼ぶ展開が、まずは本作の肝。少しずつ視界が開けていくのに比例して、ジーナは鏡に向かってメイクをし、髪をブルネットからブロンドに染め、愛犬を1人で散歩に連れ出し、以前から同じプールに通うマッチョな青年と親しく会話を交わすようになる。それがジェームズの嫉妬心に火を点けるのだ。

それまでは介護する対象だった妻が、女性として羽ばたき始めた途端、凍り付き、そんな妻とは逆に真面目で面白味がない自分の性格を露呈させる夫。この逆転現象を演じるのが、控えめにしていても美しさは隠しようがないブレイク・ライヴリーと、方や演技派だが見た目は気の毒なくらい地味なジェイソン・クラークだという点が、第2の肝。←ここ大事です。

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そして、夫婦で再訪した新婚旅行先のスペインで、ジーナがより奔放になっていく後半になると、はっきりと分かることがある。夫の庇護の下で閉ざされた世界に身を置いていたのはジーナの仮の姿であり、視力を取り戻して自由奔放に振る舞う方が本来の姿だったことが。また、人並み以上に性的願望が強い女性だったことが。ここが、第3の肝だ。

視覚障害者が障害を克服し、自分らしさを取り戻した時、よりダークな人間関係の本質が、深い闇が露わになるラストは、人の世の冷たさが心底身に染みる。でも、愛することの盲目や、夫婦間の裏切りや、言うまでもなく男女差別等々、ハンデの有無には関係ない普遍的な要素が描き込まれた、これは欲張りでチャレンジングな1作。そこに、同じ心理サスペンスに属する他作品と同列では語らせないという、監督・脚本のマーク・フォースターの作り手としての意地を感じるのだ。

清藤秀人

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