劇場公開日 2019年12月20日

ブレッドウィナーのレビュー・感想・評価

全31件中、21~31件目を表示

4.5美しくも壮大な作品

2019年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

 子供が苦しむ映画を見るたびに、子供を作らなければいいと思ってしまう。それは間違った考えだろうか。
 地球の人口は増え続けている。マルサスの人口論はひとつの極論として有名で、つまり人口は等比級数的に増加するのに対して、食料は等差級数的にしか増加しない。だから必ず食糧危機が訪れる。そこで少子化を進めるために晩婚を奨励するというのが主張のひとつであった。
 第二次世界大戦後の急激な人口増加は人口爆発と呼ばれ、多くの問題を引き起こした。富める国と貧しい国、富める人と貧しい人。富める国の富める人と貧しい国の貧しい人を比べると、その格差は月とスッポンどころではない。かつて日本でもベビーブームがあり、経済成長と相俟って一億総中流などと言われた時代もあったが、小泉改革で日本がぶっ壊れて格差が増大した。
 そして日本では、マルサスの主張を実行するかのように子供を作らない世の中になって、ベビーブーマーが高齢者となったタイミングとピッタリ合って、歴史的に類を見ない超高齢化社会となった。
 やはり共同体のバランスとしては、年齢のグラフが逆ピラミッドではなくピラミッド型のほうが生活レベルを維持しやすいのは確かだ。結婚に対する考え方の変化や、介護の苦難の情報が行き渡ったことで、日本人は子供を作らない傾向になった。共同体にとってはひとつの危機だが、個人にとっては悪いことではない。先進国からそういった傾向にあり、途上国はまだまだ人口爆発の状態である。
 生活必需品やインフラが整っている共同体で子供が減り、インフラも食料さえも不足している共同体で子供が増えているのが世界の不幸な状況だ。

 本作品の舞台アフガニスタンは、まさに不幸の極北のような場所であり、生きることは耐えることに等しい。絶望と虚無主義に陥らないためには、宗教にすがりつく以外にない。しかしそんな苦しい状況でも、自由な心を持つことはできる。タリバンのパラダイムが支配する社会でも、人間の優しさを失わない人たちがいるのだ。本作品はそういう人たちが何を大切にして、どのように希望を持って生きているのかを描く。
 映画の進行に並行して登場人物が語る物語が、千夜一夜物語のようにウィットに富んでいて、底辺に独特のヒューマニズムがあって、この苦しい作品を観ている観客にとっては砂漠のオアシスのように感じられる。そしてその二重構造が作品に奥行きをもたらしている。それは登場人物たちの精神の奥行きでもある。貧しくても心は豊かなのだ。
 アフガニスタンといえば、ペシャワール会の現地代表でもあった中村哲さんが亡くなった国である。多くのアフガニスタン人がその死を悼んだことが報道されている。大統領は棺を担ぎさえした。
 タリバンの宗教警察の弾圧、その組織に威を借りた少年の暴力、そしてその少年も実は死が怖くてたまらないこと、主人公の少女の勇気、母の嘆きと勇気など、数々のテーマが盛り沢山に詰め込まれていて、人類はどこから来てどこに行くのかという壮大な質問さえ心に浮かぶ。
 アフガニスタンはたくさんの不幸に見舞われているにも関わらず人口が増え続けていて、タリバンが支配した1996年には1840万人だったのに現在では3000万人を超えている。貧しい人ほど子沢山の傾向がある。原因は日本の逆だろう。アフガニスタンの子供たちは悲惨な状況に苦しんでいる。日本の子供も苦しんでいる子はいるだろうが、苦しみの質とレベルが違う。下手をすると餓死をしたり地雷で吹き飛ばされたりする日常なのだ。
 何故そんな状況で子供を作るのか。考えてもわからない。それが人類というものだと言えばそれまでかもしれない。しかし坂は登りだけではない。日本が現在進行形で辿っている人口減少の道が世界的な傾向となっていくだろう。そしていつか人類は絶滅する。
 映画はアフガニスタンの一地方都市を舞台にしているが、少女が見上げる空を何機も飛んでいく戦闘機が、人類を蔽う暗雲を示している。想像力は現在過去未来の三世の時空間にどこまでも広がる、美しくも壮大な作品である。

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耶馬英彦

3.0異国の違すぎる現実は、やはり遠い

2019年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

男尊女卑で子供が虐げられるという辛すぎる現実を見せつけられ、決して楽しいアニメではない。
これがアフガンの現実だということは理解できるけれど、細かなやりとりや展開に違和感を覚えたし、どうしても非現実的にしか思えなかった。
アニメーションそのものは素晴らしい。ストップモーション、3D、ドローイング、あらゆる手法が見事に融合していて、見た目の完成度は高いように思う。
あらゆる要因で、この悲しい現実をリアリティをもって捉えることができなかった。それを意図したことなのかどうか・・・察するのは難しい。
現地へ行って生で体感しなければ分かりようがないとは思うけれど、いまも続いている悲しい出来事・ニュースに響いてくるような作品ではなかったなぁという印象。

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SH

3.5人間の尊厳の存在しない世界

2019年12月24日
Androidアプリから投稿

悲しい

怖い

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しずる

3.5異常な結末

2019年12月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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Imperator

4.5地続きの世界

2019年11月28日
iPhoneアプリから投稿

2001年頃のタリバン支配下のアフガニスタンが舞台。
遠い国のことで無関係と思うなかれ。
今、我々の住むこの世界と地続きで、実際に今も人権を認められない女性たちがいる、そんな国があるという事実に心を痛めます。

作中、主人公の語り聞かせる創作した物語の中で、
「怒りではなく対話を」
「種は雷でなく水で育つ」
というセリフが出てきました。
戦争や暴力は何ももたらさない、対話と優しさで解決したいという訴えがありました。

そして、同じスタジオの作った『ソング・オブ・ザ・シー』と同様に、豊かなアニメーションとしての表現と彩色。
実写では残酷で観ていられないほどの差別と迫害を、中和すると同時に強調していて、引き込まれました。

おすすめです。

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コージィ日本犬

3.0現実を打ち出したアニメ作品

2019年11月25日
PCから投稿

不幸や悲劇がアニメーションで描かれることの意味を感じた作品だった。日本でも「この世界の片隅に」が話題となったが、暗い現実をアニメ化すると、どうも物悲しさが増す。
アニメで描かれることで、あの彩りや、子供の笑顔、小さな主人公をすごく大切なものと思えるようになる。守らなければならない存在としての在り方が強くなっているように思う。
絶対に誰も奪ってはいけない、汚してはいけないもののように思えてくるのだ。

自分の性を失わなきゃ生きていけない社会なんてあってはならないよね。本当に。
この映画のラストが何とも言えない。勝ちでも負けでもなく、晴れでも雨でもなく、ただ諭すように我々に紛争の醜さを知らしめてくれた作品だった。

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JYARI

3.5『ソング・オブ・ザ・シー』のカートゥーン・サルーンによる『生きのび...

2019年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

『ソング・オブ・ザ・シー』のカートゥーン・サルーンによる『生きのびるために(劇場公開タイトル:ブレッドウィナー)』鑑賞。
幻想的な過去作と違いタリバン占領下のアフガニスタンで生きる家族の過酷な日常が描かれた本作は観てて胸が詰まる。戦時下でお伽話を空想するのは『パンズ・ラビリンス』に似てるがその物語は自分を鼓舞するためでもあったりする。
実際はもっと悲惨な事があったんだろうと容易に想像出来る。
世界には理由もなく弱き者が迫害され女性が権限を奪われる地もあるのだと日本人も知らなくてはならない。アニメだから伝わる事もあれば伝えられない事もあるかもしれない。ただそれでも『ブレッドウィナー』は観ておくべき映画だと思う。
『ブレッドウィナー』の劇中にはこういうセリフがある。

「花は雷ではなく雨で育つ」

争いや怒りではなく慈しみややさしさで砂漠の地に平和の花を咲かせようと言うメッセージだろう。こういう素晴らしい作品を生み出し観せてくれたカートゥーン・サルーンに感謝。

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エス

4.0哀しいお話、けれど観て良かった。

2019年3月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

日本に住んでいる自分には到底現実とは思えない世界。でも、実際にこうして善良な市民が無力にも被害を受けている現実がある。
とても、辛く、悲しい。世の中からこうした暴力で苦しむ人が少しでも減って欲しいと、願わずにはいられない。

何も出来ないとしても、知るという事はとても大事。観て良かったです。

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きゃな

3.5臨場感

2018年11月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

キネコ国際映画祭にて観賞、戸田恵子さん・中山秀征さん他7人程でのアフレコ風ライブシネマ、渋い中山秀征さんも良かったですが戸田恵子さん凄いですね。

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褐色の猪

4.0知識と教養の大切さ

2018年10月18日
Androidアプリから投稿

タリバンの話はホントに辛くて夢であってほしいと思うばかり。自分の無力さを痛感して切なくなる。
この映画は宗教的弾圧で女性が差別されていることをメインに描く。寓話は自分たちの境遇を表している。秀逸なのが教育者が死にかけるが寓話を胸に救出に向かう娘と教養に触れて改心したと見える協力者の心のつながり。無知こそ罪で教育こそ愛と思った。

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けつお

3.5Brave

2018年9月22日
iPhoneアプリから投稿

タリバン政権下のアフガンを舞台にその不条理を訴えながらも、それに抗する少年に化した少女の姿を通して、より普遍的なその勇敢な意思のなせることへの希求を伝える。物語に出てくる背後からついてくる影は恐れか。それを排して智力を持って立ち向かう。このような特殊な世界でなくとも、どの世界においても不条理とは共存し、それに怯える我々自身も意識してしまう。
少女が少年になり行動の自由を獲得するさまは、ダイバーシティの観点でも普遍性を帯びる。ストーリーと共に語られる物語が見事にシンクロして、アニメ自体のクオリティも高いが、なによりも脚本がうまさに感心させられる。

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Kj