劇場公開日 2018年11月30日

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「恐怖や衝撃や不快さは継承したが…」ヘレディタリー 継承 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0恐怖や衝撃や不快さは継承したが…

2019年4月12日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

難しい

2018年はハリウッド・ホラーの当たり年。
『クワイエット・プレイス』が大ヒットし(正確にはホラーじゃないが)、『ハロウィン』の新作や『サスペリア』のリメイク版も大いに話題を呼んだ。
中でも特に絶賛されたのが、本作。
“2018年最恐のホラー”“21世紀最高のホラー”などの声、声、声…。
期待と恐怖に身構えて見てみたら…、
う~ん…残念ながら、自分的には今一つだった。

映画は最初の数分間が命。
特にホラー映画の場合、最初の数分間で見る者を恐怖の世界で引き込めるか。
その点、『クワイエット・プレイス』は秀逸だった。
が、本作は…。
開幕のミニチュアハウス、淡々と行われる葬式の模様、何処か冷めてぎこちない家族の姿…。
改めて見直すと意味深で伏線もある重要な冒頭なのだろうが、なかなか入り込む事が出来ず、それどころか少々退屈に感じてしまい、結局それが最後まで引き摺ってしまった。

家長である祖母の死後、奇っ怪な出来事に見舞われるグラハム家。遂には末娘をある悲劇が襲う。
悲しみに囚われた母は…。

全くつまらないという訳ではなかった。
静かな中の恐怖演出はなかなかのもの。
アトリエに浮かび上がる亡き祖母の姿。
窓ガラスに激突する鳥。
何より末娘を襲った悲劇はあまりにもショッキング…。
末娘の癖である口を鳴らす音。本当に不快であり、悲劇後幾度もドキリとさせられる。

序盤はロースタートだったが、中盤からじわじわ盛り上がってきた。
“何か”に呪われているかのような家系。
ある女性に誘われ、母が開いてしまった禁断の扉。
祖母が遺した“何か”。
遂に明かされる衝撃のラスト…。
最高潮に達した恐怖は凄みすら感じた。
悲しみと狂気に陥っていくトニ・コレットの怪演はキャリアベスト級。
罪悪感に苦しめられ、ある標的にされる長男、圧倒的な異様さとこの上ない不気味さを放つ末娘、演者の恐怖演技は圧巻。
とてもデビュー作とは思えない新鋭アリ・アスターの全編緩む事の無い恐怖と不穏の卓越した演出とオリジナリティー溢れる脚本は、並々ならぬ才能ではない。

それらは素晴らしい。
あのラストシーンも気に入った。
だけどどうしても全体的に分かり難く…。
家族を襲う忌まわしい原因は何かの因果めいたものではなく、あるカルト的なもので、いつぞや見た『ウィッチ』のクライマックスのように衝撃と凄みを感じさせるに充分だったが、唐突な印象も…。
後味悪い作品は嫌いじゃないが(寧ろ、好きな方)、そういうんじゃなくて、何と言うかこう、パッとしないと言うかすっきりしないと言うか消化不良と言うか…。
この何とも言えぬ不快さは、これはこれで成功と言えるのかもしれないが…。

近大