劇場公開日 2018年11月9日

「このメガヒット音楽映画の凄さとは?」ボヘミアン・ラプソディ 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0このメガヒット音楽映画の凄さとは?

2020年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

「ボヘミアン・ラプソディ」は何が凄いのか。これは、クイーンという素材、制作陣、役者の凄さの掛け算の究極系なのかもしれません。
私は最初クイーンというバンドは薄っすらと2、3曲しか知らなかったにも関わらず入り込めました。これは脚本や演出の上手さも大きくて、主人公のフレディ・マーキュリーが「パキ(パキスタン人)野郎」と差別されるバイト時代から描き、バンドの結成過程、クイーンの音楽の天才的な先見性などをテンポよく描いていきます。ただ、単なるサクセスストーリーではなく、「バンドあるある」の堕落ぶりもしっかりと描き、クライマックスの「ライヴエイド」に向かって突き進みます。実は結構な要素が盛り込まれていますし、歌われている楽曲も多いのですが、それらがバランスよく編集されているので全く飽きがこないのです。1年半後に見返した時には既に全曲が頭に入っていて、ほぼ全曲を好きになっている自分を発見しました。これは本作でクイーンというバンドの楽曲の良さに気付かされ、しかも映画の出来も良いので何度か見ているうちに覚えてしまったわけです。
本作は、通常は落ちていくはずの週末興行収入が5週連続で増え続け、多くのリピーターを生み出し社会現象化して興行収入127億円という驚異的な結果を残しました。
クイーンの音楽は新たに本作によっても伝説化し、本作もクイーンの楽曲と同様に映画史に残り続けるでしょう。ミュージカル映画ではない本格的な音楽映画で、ここまでのメガヒット作は今後、現れないかもしれないくらいのレベルです。
当初、アメリカでは批評家から「史実と違うところがある」など不評な面も目につきましたが、観客からは圧倒的に好評で、第91回アカデミー賞では、作品賞を含む5部門にノミネートされて、主演男優賞(フレディ・マーキュリー役のラミ・マレック)、編集賞、録音賞、音響編集賞の最多4部門の受賞にまでいきました。これは観客が批評家の評価を変えさせた、と言っても良い快挙だと思います。
本作に限らず「史実と違う」という指摘はよく出ますが、映画には上映時間という制約があります。多少の時系列の違いを気にし過ぎずに、むしろ「134分といった上映時間でよくここまでまとめ上げた」と“エンターテインメントとしての功績”として評価し、作品の世界観に入り込む方が私は正しいと思います。
さて、本作をいま見返すと、また違った見え方ができました。
フレディ・マーキュリーは「ヒト免疫不全ウイルス」(HIV)によってエイズを発症し1991年11月24日に「肺炎」で亡くなりました。
現在の医学ではHIVというウイルスの感染は「不治の病」ではなくなりましたが、まだ対症療法の域を出ず、現時点ではHIV完治例は世界で2人しか出ていません。
新型コロナウイルスも勿論、対症療法でしかなく、まだ根治療法ではないのです。
どうやら変化をし続けている今回の新型コロナウイルスは、果たしてどのような型に落ち着くのか。新型のウイルスは常に地球で発生し続けるものなのだ、ということを改めて理解すると共に、多くの才能を一瞬にして奪うスピードも出てきているので犠牲者は最小限にとどめてもらいたいと強く感じました。

細野真宏