「あの世の底でプリズンブレイク」インシディアス 最後の鍵 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5あの世の底でプリズンブレイク

2018年10月8日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

単純

伝統的オカルトホラーの雰囲気を残しつつも、キレのあるアグレッシヴな
恐怖演出で大ヒットを飛ばした『インシディアス』のシリーズ4作目。
初代監督ジェームズ・ワンは本作では製作に回っているが、脚本はリー・ワネル、
監督も『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』の気鋭アダム・ロビテルが
務めるとのことで、個人的には結構期待していた。予告編も良さげだったし。
しかし本作、日本ではDVDスルー……。若干の嫌な予感を覚えつつ鑑賞。

今回の主役は、シリーズ全作に登場している心優しき霊能力者エリーズ。
ニューメキシコ州の田舎町に住む男から「購入した古い邸を除霊してほしい」と依頼を受けた彼女。
閉鎖された刑務所のすぐそばにあるその邸は、実はエリーズの生家だった。幼い頃にその邸で起きた
事件を恐れ、一度は依頼を断るエリーズだったが、自身のトラウマに決着をつけるため奮起。
前作で信頼関係を築いた超常現象研究家スペックス&スタッカーとのトリオで事件解決に臨む。

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前作『インシディアス:序章』ではエリーズの亡き夫が物語に絡んできたが、
今回は物語の主軸そのものがエリーズの生い立ちとその家族のドラマである。

幼い頃から人に見えないものが見えてしまう彼女を化け物扱いしていた父親への憎しみ、
彼女の良き理解者だった優しい母親や、姉の言動に怯え続けていた弟に対する後悔。
(「あんたは存在もしない怪物で怖がらせ続け、最後は本物の怪物と置き去りにしたんだ」)
本作は、怪異によってばらばらにされたエリーズの家族が再び絆を取り戻すまでのドラマともなっていて、
この点はすごく良い。怪異との決着の付け方はかなり強引だとは思ったが、それでもあの結末は泣けた。

メリッサとイモージェンの美人姉妹もね、予告編で登場はしてたのに一向に出てこないと思ったら、
そういう登場だったのね。特にイモージェンは凛々しく、エリーズとの関係性も良かった。
あと、スペックス&タッカーのとぼけっぷりも益々磨きがかかってます。

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だけどね、最大の不満はですね、
ホラーとしては割と致命的だと思うんだが……『あんまり怖くない』という点。
人間ドラマやミステリ要素を押し出しすぎてホラー要素が弱くなった作品は数多いが、
この映画の場合はそれ以前の問題という気がする。

前半のPOVのシーンはゾッとする所もあったが(昔取った杵柄かね)、他の恐怖演出は正直拙い。
怪異が登場するまでのタメにも緊張感が無いし、怪異がバッ!と飛び出すタイミングも読み易い。
過去シリーズで猛烈に怖かった、ストリングスのハイ
テンションな音色も鳴りを潜めているし、
そうでなくても、特徴も無ければ恐怖を煽ってもくれない、眠たい音楽だった。
総じて、本シリーズどころか他ホラー作品と比較しても、演出・音楽ともにキレが悪い。

指は怖いが顔は怖くないアイツも結局どういう素性の奴だったのかよく分からないし、
(単なる悪魔とかじゃないよね、刑務所に関係ありそうだったけど投げっ放しだし)、
重要に思えた『鍵』というアイテムもあんまりシナリオにもテーマにも活きてこないし、
時間と空間が切れ切れになった“彼方”のビジュアルは単なるスモークもくもく空間に成り下がってるし、
最後もあの人が最強ってアリ? あとイモージェンちゃん、いろいろ呑み込み早過ぎない?

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ドラマ要素はすごく良かったし、恐怖演出・サスペンス演出が冴えていれば、
ミステリ要素の強いシナリオの面白味ももっと感じられたのではと非常に残念。
シリーズでは一番出来が悪いんじゃないかな……。イマイチの2.5判定で。

<2018.10.07鑑賞>
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余談:
冒頭で書いた監督の前作『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』は、アルツハイマー患者の
ドキュメンタリーを撮ろうとしたスタッフが、その患者の異常行動の原因が実はアルツハイマー
ではないことに気付き、恐怖に晒される恐怖譚。POVホラーの中じゃ佳作かな。ちょいオススメ。

浮遊きびなご