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◆彼が愛したケーキ職人

イスラエル生まれの新鋭監督が、秀逸な視点と繊細なテクニックで魅せる
  ベルリン。手作りケーキ店を営む青年パティシエが、出張でベルリンを訪れたイスラエル人のビジネスマンと恋に落ち、出張の度に濃厚なデートを重ねるが、そんな2人の関係は突然、終わりを告げる。彼が故郷のエルサレムで事故死してしまったのだ。

  エルサレム。恋人、オーレンの死に衝撃を受け、意を決して当地を訪れた主人公のトーマスは、事実を隠したまま、オーレンの妻、アナトが経営するカフェで店員として働き始める。皿洗いから始めて、料理も手伝うようになる。やがて、クッキーを焼いてそれが店の人気に火を点ける。なりゆきで、夫を亡くして淋しさを募らせるアナトと親密になっていく。果たして、2人は一線を越えてしまうのか? トーマスの秘密はいつ明かされるのか? その時、アナトはどうするのか?

  それまで、サスペンスタッチで展開する物語が、ある時点から別次元へとシフトする。そもそも、生前の恋人から妻や子供の話を聞かされ、膨れ上がる想像力が返って自分を苦しめていたトーマスは、それを実体験で埋め合わせるために、遥々エルサレムにやって来たはず。ところが、知らなかったオーレンの生活と時間を自らなぞるうちに、やがて、彼はオーレンそのものになりかわり、同化していくのだ。本人よりもいち早くそれを感じ取り、トーマスをまるで死んだ息子が戻ってきたかのように受け容れる母親の反応が、何よりもそれを如実に物語っている。

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  しかし、アナトの家族たちはトーマスを異教徒、外国人として断固拒絶しようとする。排除しにかかる。舞台は宗教問題が複雑に入り組むエルサレムである。無理もない。でも、考えてみよう。愛は人と人とを同化させることも可能なのに、現実には、宗教や人種や歴史観の違いで人は人を遠ざけている。この秀逸な視点に、思わず息を飲んだ。

  そのイスラエルで生まれた37歳の新鋭監督、オフィル・ラウル・グレイツァは、これが長編デビューとは思えない繊細なテクニックを駆使してしばしば唸らせる。オーレンがトーマスの店に足繁く通っていることをさりげなくうかがわせる背景の変化、トーマスがエルサレムで本能的に男を物色してしまう鋭い視線の演出、そして、幾通りにも受け取れる巧みなラストショット。世代は異なるが「運命は踊る」のサミュエル・マオス等と共に、イスラエル映画の新たなムーブメントを担う逸材としてチェックしておきたい。

(清藤秀人)


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