劇場公開日 2018年10月13日

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「「道」を観てから観るといいかも」日日是好日 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「道」を観てから観るといいかも

2023年12月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

「日日是好日」はお茶を通してある女性の人生の起伏を魅せる映画だ。

何の気なしに、母の勧めるままに、お茶を始める二十歳の典子。多分、お母さんにしてみれば「ただ者ではない」武田のおばさんの、佇まいの欠片でも、娘の人生の財産になれば良いな~、みたいな軽い提案だったんじゃないだろうか。
「真面目で不器用な」典子は、従姉妹の美智子と違い、好奇心や積極性で自分の人生をグイグイ切り開いていく様には思えない。
親心から来るさりげないアシストだ。

真面目が功を奏した形で、典子は少しずつお茶の楽しさに目覚め、人生の浮き沈みの傍らにいつもお茶があった。
美味しいお茶と、季節の移ろいと、自然と五感がもたらす感動が、典子の人生の道筋を確かに彩っているのだ。

さらにこれは一つの「世界」を極めようとする映画でもある。

些細なきっかけで始めたことでも、続けていくうちに朧気ながら輪郭が掴めてくる。茶碗、掛け軸、お菓子のしつらえに、一体となった「世界」が見える。
現実の枠を飛び出すような、心に広がる壮大な「世界」を感じる瞬間。その静かな高揚が、典子の表情や仕草から伝わってくる。

作法を意識せずとも所作をこなせるようになっても、亭主の意匠を感じられるようになっても、油断はならない。
間違えたり、雑さが抜けなかったり、精進に終わりはない。長い長い道のりだ。

そしてお茶の精神とは、「一つとして同じお茶はない」ということだ。またご一緒しましょう、の約束が叶わないこともある。
人との出会いも、季節の巡り合わせも、幾筋もの道が折り重なった産物だ。その日は一生に一度しかない日なのである。

ここまで書いて気がついた。
この映画は「道」を見立てたお茶室だったのだな?
フェリーニの「道」、茶道という「道」、そして典子さんの人生という「道」。3つの道が重なりあい、響きあう監督のしつらえだったのか!
フェリーニの映画を掛け軸に、典子さんの淹れてくれたお茶を楽しむ。
是非とも心までポカポカするような、温かいお茶をお供に観賞して欲しい。

結構な御点前でした。

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つとみ