劇場公開日 2017年12月16日

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「殺されやしないぞ、決して。戦争なんかに。」花筐 HANAGATAMI 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0殺されやしないぞ、決して。戦争なんかに。

2021年5月10日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

難しい

先週の『野のなななのか』に続き大林監督作。
『野のなななのか』とは違った難解さ、良さのある反戦映画となっていました。

戦争の影がちらつき始めた1941年の唐津。
アムステルダムから帰国した俊彦を中心に、若者たちの青春模様が描かれる。
幼い俊彦は、アポロ神のように雄々しい鵜飼や虚無僧のような吉良に憧れ、肺を患い先が長くない美那やあきね、千歳に惹かれ、青春ゆえの恋や友情、葛藤を経験していく。
しかし、そんな彼らにも戦争が迫ってきて…

『花筐』は檀一雄の純文学、もっというと能の演目の一つということもあって、予習が必要な作品のように思いました。
『野のなななのか』が舞台的で難解だったのに比べ、こちらは芸術的で文学的な難解さ。
大林映画は色彩感覚がすごいですが、これはよりカラフルで絵画のよう。
相変わらずの血の表現や裸で馬に跨るところ、部屋が海になるところなど、クドいくらいのセンスは大林監督だからこその唯一無二の映像でした(モノクロからカラー、ストップモーション、海に飛び込むなど『時をかける少女』に近いものを感じました)。
原作読んでからなら、だいぶ語れることも多くなるかと思いますが、やはりテーマは戦争によって散っていった若者たち。
「おくにのために」の戦時中、病気で自分は役に立てない非国民だと、彼らは“自分”とは何なのかを模索する。
“勇気を試す冒険”、自分と他者との比較、命の重み。
俊彦の青春は鬼ごっこの鬼のようだった。
じわじわと日本人を蝕んでいった“戦争”という毒がよくわかる映画でした。
唐津のおくんちも素敵。
コロナ禍が開けたら是非とも行きたいお祭りですね。

とはいうものの、劇場のシートの座り心地と前日の寝不足で少し夢の世界へ。
最近もう一度観直したい映画が多いんですが、特にこの映画は観直したい映画でした。

追記:キネマ旬報シアターで鑑賞したため、上映終了後に『第91回キネマ旬報ベストテン』表彰式での監督の受賞コメントの映像が特別に流れました。
監督のこれからの時代への期待と平和な世の中への希望を、一所懸命熱く語られていました。
最後の「あと30年は映画を作る」という自信に満ちた言葉。
その願いは叶いはしませんでしたが、その後遺作をもう一本撮られた熱量は本当に素晴らしい。
多分今日のインタビューを忘れることは一生無いと思います。
お疲れ様でした。

唐揚げ