劇場公開日 2017年12月16日

  • 予告編を見る

「死を前にして生を繋いだ大林監督の魂!~そして数々の名作を残し、旅立ってしまった…(4月12日追記)」花筐 HANAGATAMI 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0死を前にして生を繋いだ大林監督の魂!~そして数々の名作を残し、旅立ってしまった…(4月12日追記)

2019年3月2日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

知的

名匠・大林宣彦が、デビュー作の前に脚本を書き上げ、40年以上温めていたという企画を映画化。
『この空の花 長岡花火物語』『野のなななのか』に続く、戦争3部作の最終章。
クランクイン前に余命宣告を受けながらも、執念で完成させた入魂作。(抗がん剤治療で病状は改善し、余命は撤回された)

1941年、佐賀県唐津。
叔母の元に身を寄せる17歳の青年。
彼と彼の学友たちが謳歌する青春模様。
肺病を患う従妹、その友人たちとの恋模様。
そんな若者たちに、戦争が忍び寄る…。

本作、話だけを追ったらなかなか難解。文章的でもあり、哲学/思想的でもあり…。
本作は、独特の世界観や映像表現、大林監督の才気と手腕にこそ酔いしれる。

膨大な量の台詞の応酬。
絵画的でもある映像美。
レトロな美術、衣装。
延々と流れ続ける音楽。
めまぐるしい展開、編集…。
戦争3部作のどれかを見た事あるならきっと分かる筈。

若手~中堅~ベテラン、大林組初参加&常連の豪華キャスト。
彼らが織り成す群像劇はユーモラスなやり取りも。
吐血などの真っ赤な鮮血は初期のホラー作品を彷彿。
冒頭のある人物と人物のくちづけ、ラブシーンは官能的。
めくるめく映像美は幻想の世界。
本作を形容するなら、傑作、大作、意欲作、実験作。と同時に、怪作、異色作でもある。
169分、大林監督のこの作風/世界観にただただ圧倒される。

尾道3部作の後の監督晩年の古里映画の部類でもあり、舞台の唐津の風景/伝統文化が郷愁を誘う。
若者たちの生き生きとした青春劇。この瑞々しい感性は、青春3部作を手掛けた大林監督ならでは。

そんな中に、印象的な生と死。
病弱のヒロイン、何処か無虚さや空虚さを感じさせる登場人物たち。
戦争。戦争ごっこで死ぬふりをする子供たち。徴兵。自決…。
死や戦争を身近に感じながらも、必死で生き抜こうとする若者たち。
その姿が、死と闘いながら本作を完成させた大林監督にリンク。

戦争の悲惨さを語り継ぎ、死を前にしても尚、生を繋ぐ…いや、実際に本当に繋いだ。
あらゆる要素、あらゆる意味で、大林監督の集大成と呼ぶに相応しい。

4月12日追記。
大林宣彦監督が4月10日に死去。
奇しくもこの日は、コロナが無かったら公開されてた監督最新作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』の初日。何か数奇なものを感じる…。
大林監督と言えば、『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の尾道三部作。
『ふたり』や個人的に大好きな『青春デンデケデケデケ』などの青春映画の名手。
CMディレクターから映画監督となり、デビュー作はホラーの『HOUSE/ハウス』。多彩なジャンルを手掛け、SFの『漂流教室』やファンタジーの『時の旅人』など時に出来不出来の差がありつつも、ミステリー『理由』などにも手腕を発揮。
近年は戦争レクイエム三部作『この空の花 長岡花火物語』『野のなななのか』、本作を発表。
ナレーションが多く、音楽が延々鳴り続け、流れるような映像や編集は、“大林ワールド”としか例える事の出来ない作風。不思議な陶酔感がある。
最新作にして遺作は、今年非常に気になっていた作品の一本。地方故、地元の映画館ではおそらく上映せず(隣町の映画館で上映したら必ず!)、レンタル待ちになるかもしれませんが、大林監督の最期の映画への思い、絶対に見ます!

改めて、ご冥福を…。
数々の名作をありがとうございました。

近大
こころさんのコメント
2021年5月11日

近大さん
コメントへの返信有難うございます。
余命宣告を受けられていたからこそ、闘病生活を送る少女の心情に一層寄り添い、少女の苦悩、生に対する執着、(少女が粉薬を飲む姿、美しく印象的なシーンでした)それらを撮影された監督の心中を改めて思い、その深さを感じています。
まさに死闘の撮影現場だったのでしょうね。作品から伝わる熱量の理由に納得です🤔 より作品の深みが増しました。有難うございます。

こころ
こころさんのコメント
2021年5月10日

近大さん
このレビューにも、大林宣彦監督愛が溢れていますね👀
場面場面では解釈が難解ですが、結果繋がってくる、大林宣彦監督の才能なんでしょうね。監督の熱量に圧倒されました。

こころ