劇場公開日 2018年2月23日

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ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ : 映画評論・批評

2018年2月20日更新

2018年2月23日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー

イスラム系コメディアンが実体験を描く、文化衝突ロマコメ

シカゴに住むパキスタン移民二世のクメイル・ナンジアニは、まだスタンダップ・コメディアンとしての才能が花開いているとは言いがたい。自虐ギャグにパキスタン人としての自意識が出すぎて笑いづらいのだ。しかし、彼は自分が生きていくためにユーモアが力になるということを知っていた。その力こそが、3回目のデートでB級映画を楽しめるほど波長ぴったりのアメリカ娘、エミリー(ゾーイ・カザンがキュート!)との恋を後押しする。そして後にはコメディアンとして成功したばかりか、自分が経験した波瀾万丈の恋物語をロマンティック・コメディの脚本(オスカー候補)へと昇華させ、自ら演じてみせる才能まで発揮したのである。

物語の前半は、割と王道なロマコメ仕立て。ステージでの話芸でスベっているくせに、エミリーとの掛け合いはなんと愉快なこと。ところが中盤にさしかかるとエミリーとの仲が危機的状況に陥り、そのまま彼女は謎の大病で昏睡状態となってしまう。そこからは「あなたが寝てる間に…」と同じく、家族とのラブストーリーになる。パキスタンの文化伝統を押しつけてくる自分の両親と、エミリーを心配して駆けつけた彼女の両親。恋にとっての障害となるこの親たちと、クメイルはどう立ち向かい、心を通わせるのか。

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肌の色だけでテロ扱いしてくる理不尽な差別や偏見、理解できない家族の伝統とアイデンティティ、コメディという夢に立ちふさがる壁、そして彼女の病気。重い問題と闘いもがきながら、それをジョークまみれにし、なんとか道を拓こうとがんばるクメイル。映画も同じ姿勢で、ユーモラスなトーンの中に時折センチメンタルな感情を湧かせつつも、お涙頂戴にはけっしてすり寄らない。このさじ加減が絶妙だ。しかも現実の物語をベースにしているだけあって、クメイル以外の登場人物もみな、リアルで生き生き。とくにエミリーの両親の人間味あふれるキャラクターとセリフ、それを演じるレイ・ロマノホリー・ハンターの演技にたまらない味わいがあり、心までじんわりと微笑んでしまう。

文化の衝突を乗り越えるには、愛だけでは足りない。そこにユーモアがなければ。エンドロールが始まってすぐに席を立つなんてことは絶対にお勧めしない。うれし泣きのチャンスを逃すことになるからだ。

若林ゆり

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