劇場公開日 2018年9月28日

「メリハリのある佳作」散り椿 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0メリハリのある佳作

2018年9月30日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

 岡田准一はすっかり俳優である。本人もそのつもりで身体を相当に鍛えているようで、立ち姿や歩く姿に迫力がある。映画監督がこの人を俳優として起用したくなる理由がなんとなくわかるような気がする。人間エネルギーのオーラを発散しているとでも言うのだろうか、意志の強さが滲み出ているのだ。強い男はそのまま演じればいいし、存在感があるから弱くて情けない男を演じるのもいい。向いていないのはチャラい役柄くらいである。高倉健と同じ路線と言えばかっこよすぎか。

 さて本作品では意志が強いあまりに潘を追い出されてしまった浪人の役を演じている。静かな男の表情に淋しさや悲哀がそこはかとなく伝わってくる。共演の西島秀俊、緒方直人も男の優しさと矜持を併せ持つ役柄を十分に演じていて、この三人の男が、保身に汲々とする役人たちと対峙するダイナミズムが作品に奥行きを与えている。
 黒木華がいい。この人が出演すると映画に深みが出るように感じる。この人の演技には、いまはもうあまり見かけることがない「女の優しさ」がある。今後公開予定の「日々是好日」や「ビブリア古書堂の事件手帖」も楽しみである。
 池松壮亮が演じた坂下東吾が一年間で少しずつ視野を広げ、人間的に成長していくのもさりげなくて受け入れやすい。黒木華と並んで演技の上手な若手俳優で、11月公開の「斬、」も鑑賞予定に入っている。
 敵役の奥田瑛二も、いまや大御所の富士純子も、それぞれに好演。

 ストーリーは一本道だが、経緯が少しずつ明らかになっていく演出で、飽きずにみられる。タイトルでもある散り椿の映像は非常に美しい。この映画で初めて散り椿という言葉を知った人もいるだろう。雪と雨が効果的に使われ、移り行く四季の中で散る花と咲く花が、人々の運命のメタファーとなっている。静かに進む物語だが、起承転結がはっきりしていて、大団円では主人公のポテンシャルが存分に発揮される。メリハリのある佳作だと思う。

耶馬英彦