劇場公開日 2017年5月27日

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「会社に縛られる若者の苦悩と解放」ちょっと今から仕事やめてくる みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5会社に縛られる若者の苦悩と解放

2022年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

私は、辞めたいと言う若手社員の慰留に努めてきた立場なので、刺激的な題名に惹かれて鑑賞した。本作は、企業の離職率の増加、若年自殺者の増加、ブラック企業が取り沙汰されている現代日本の実態をタイムリーに反映した作品である。

内定が貰えた企業になんとなく就職した主人公・隆(工藤阿須加)は、営業職の厳しいノルマ、パワハラ上司(吉田綱太郎)に辟易とし、次第にやる気をなくし、ついには生きることへの絶望と過労で駅のプラットフォームに落ちそうになるが、小学校時代の旧友・山本と名乗る若者(福士蒼汰)に救われる。山本との旧交を深め、その助言を聞くうちに、仕事で大失態をしながらも、主人公は次第に自分自身を取り戻していく。そして、生きることの本当の意味に気付き、再生していく。

工藤阿須加が、生きることに不器用で一生懸命に頑張るが空回りしてしまう主人公を好演している。社会生活に不慣れだった昔の自分を思い出した。謎の旧友・山本役の福士蒼汰も良い味を出している。主人公の人生の道案内的な役割だが、その大阪弁の説経臭く無い助言には、素直に耳を傾けたくなる。彼の謎が明かされた後のシリアスな演技にも安定感がある。

何といっても出色だったのは上司役の吉田綱太郎だろう。誇張はしているが、舌打ちしたくなるような陰険なパワハラの数々。こんな上司には絶対仕えたくないと誰もが納得する怪演。主人公が働く企業はブラック企業の典型であり、上司によるパワハラは誇張されているがフィクションではない。強弱の差はあるものの、部下を威圧する上司は存在する。しかし、実際の職場には、優しい上司、同僚、先輩、後輩が大勢いるので、これから就職する人は安心して欲しい。

本作は、生きることについて色々な人たちに語らせることで、生きることの選択肢の広さを示している。最初に就職した企業で一生働くことだけが最良の人生ではないことを切々と訴えている。辞めることは、悪、負け、逃げではないことを主張しているが、職場シーンの迫力が凄過ぎて、希薄な印象になったのは残念。また、明確な答えを提示しないので、スッキリ感不足ではあるが、重いテーマにしては、そういう答えでもいいんだと気持ちを楽にしてくれる作品である。生きること、働くことを固定観念で考え、迷っている人には、お勧めの作品だろう。

あまり決め打ちせずに、運命をあるがままに受け入れて、自分を活かせる道を試行錯誤しながら探し求め、探し出した道を懸命に進んでいく。主人公は、ラストで、そんな人生を歩み始める。本作は、人間は一人ではない、支えてくれる人々に想いを馳せること、他者を想うこと、そして、生き方の選択肢は沢山あることを静かに教えてくれる作品である。

みかずき
CBさんのコメント
2022年11月6日

> 職場シーンの迫力が凄過ぎて、希薄な印象
そうかも。とにかく吉田さん、怖いから。

CB
NOBUさんのコメント
2022年11月6日

今晩は。
 ”何といっても出色だったのは上司役の吉田綱太郎だろう。”
 怖かったですね。けれども、この作品を鑑賞する前から、私は”パワハラ男”と周囲から言われており(勿論、笑いながら言われてましたが・・。言葉がキツカッタらしいです。)この作品を鑑賞し、大いに反省した事を思い出しました。
 パワハラって、本人が自覚していなくても、受けて側は深く傷ついている事がある事を教えてくれた作品でしたから・・。では。

NOBU