劇場公開日 2016年4月8日

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「大きくて小さい成長譚」ルーム ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5大きくて小さい成長譚

2016年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

鑑賞後、劇場から出て、無意識的に空を仰いでいました。ああ真っ青だなあ、的な。太陽があって、雲があって、風が吹いているなあ……みたいな。何でしょうね。日常生活が当たり前に送れていることへの感謝?リアルな感覚をリアルなまま感じさせてくれたというか。感情への再ログインを促された、的な?なんか上手いこと言えませんけども。

この映画が取り扱ってるものはドス黒い欲望が渦巻き、その渦巻いた結果の悲劇があって、でもそこに重きは置いておらず、その悲劇から生まれた「不遇な境遇の母子」が、本物の“世界”と対峙し、向き合っていく、というお話です(そのドス黒い欲望ってのは、変態男が17才少女を拉致監禁、長い年月の監禁生活を強いていて、性的虐待は当たり前、て部分です)。
この小さな“部屋”で母子生きていく。こここそが自分たちの“世界”。少年からしたら、100%疑いようもなく、この“部屋”という空間が当然の“世界”であり、普通であり、普遍(これまた“部屋”で産まれてるんですよね)。母親はそれを半分は受け入れ、半分は受け入れていない。

この二人がある切っ掛けで、本物の“世界”に飛び出してからが、物語は本スタートを切る訳です。
“部屋”に挨拶をしてきた少年が、本当の意味でその扉を開き、広大な“世界”を認める迄の、“部屋”へ別れを告げて“世界”に挨拶をする迄の、壮大で小さな成長譚。

少年は無限に続く空の青さを知り、パンケーキの味を知り、人の波を知り、バァバとジィジを知り、他人を知り、コミュニケーションを知り、ここで生きることを誓う。母親もまたそれに寄り添う。母親も強くあろうと誓う。ダメなママだけど、この子のママで居続けようと誓う。

ラストを迎え、エンドロールが終わり、場内に明かりが灯ると「世界だ」と、俺もなりましたからね。実感しましたから。
今日は空が青くて良かったなあ。

ロロ・トマシ